Feb 17, 2022 interview

[ 映画は愛よ ! 特別編 ] マイケル・ドウェック×グレゴリー・カーショウ両監督が語る おとぎ話の世界のような『白いトリュフの宿る森』がどのように生み出されたのか

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トリュフ・ハンターとの出会いで変わった価値観

池ノ辺 トリュフ・ハンターの人たちと出会ったことで、監督たちの人生に変化はありましたか?

グレゴリー やはり、ああいうコミュニティで一緒に時間を過ごすと、彼らの生活というものがいかに豊かで、そして歓びにあふれているのかを肌で感じました。僕たちがあの地で触れたすべてのもの、そして生命は喜びに溢れていたんです。

池ノ辺 私たちの生活と、トリュフ・ハンターのおじいさんたちとの生活には、どんな違いがありましたか?

グレゴリー 彼らのポケットには、スマホが入っていないんです。デジタルメディアが彼らの世界にないんだということに気づきました。代わりにそこにあるのは、自然界のつながり、生き物とのつながり、コミュニティとのつながりでした。そういうものを目にすると、当然、私たちの生き方にも変化があるわけで、なるべくそれらを持ち帰りたいと思うけれども、2人とも街に住んでいるので、かんたんに彼らのように暮らすのは不可能でした。でも、出来るだけ取り入れたいと思っています。

池ノ辺 こんな世界があって、こんな生き方をしている人たちがいるってことを教えてくれたことで、とても豊かな気持ちになれました。

グレゴリー 何が本当に価値があるのかということを改めて思い出させてくれる世界でしたね。僕たちは、その喜びを観客と分かち合えるような映画を作りたいと思っていたんです。

マイケル この映画にかかわった3年で、この地域を僕たちは大好きになりました。と同時に、いかに脆いかも感じました。特に森林に関して。そこで、トリュフ・ハンター保護プログラム(Friends of the Truffle Hunters Conservation Program)というNPOを立ち上げて、資金集めをしました。それを通じて彼らにお金を渡し、彼らはこの映画を撮影したトリュフを取ることが出来る森林52エーカーを購入し、永遠に保護されることになりました。

池ノ辺 それは素晴らしい!

マイケル それと共にトリュフハンター・ワインというものを作りました。これはバローロの一種ですが、収益の100%が、このプログラムに還元されます。この土地は永遠に護られ、そして国の公園として成長していってほしいと僕たちは願っています。

池ノ辺 それも本当におとぎ話みたいな展開ですね。私もバローロ大好きです。飲んでみたい!

マイケル あの区域でも最高のバローロの一種なんだそうです。送らないといけないね(笑)

池ノ辺 最後に、この映画を観たいと思っている日本の観客の皆さんにメッセージをいただいて良いですか?

グレゴリー 絵画のような映像や、本当にこの世界に連れ去られるような音響設計を、時間をかけて行っています。日々の生活から抜け出して、このピエモンテ州の奇跡のような生き方を体験していただけたらと思います。映画館で観ることで、よりこの世界に没入することが出来ると思いますので、ぜひ映画館でご覧ください。

マイケル 公開に合わせて2月16日から4月24日まで、東京のブリッツ・ギャラリーで写真展も行われます。この映画からの写真作品も含めて展示しますので、ぜひお越しください。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 吉田伊知郎

プロフィール
マイケル・ドウェック(Michael Dweck)

監督・撮影監督・プロデューサー

1957年9月26日アメリカ、ニューヨーク ブルックリン生まれ。数々の賞を受賞した映像作家であり、物語性のある写真や映画のプロジェクトで知られるビジュアルアーティスト。プラット・インスティテュートでファインアートの学位を取得。クリエイティブ・ディレクターとして高い評価を得、世界3大広告賞の一つといわれるカンヌ・ライオンズ国際クリエイティヴィティ・フェスティバルでの金獅子賞をはじめ、40以上の国際的な賞を受賞した。
彼の映画監督としてのデビュー作であり、グレゴリー・カーショウと共同で監督した長編ドキュメンタリー映画“THE LAST RACE”は、2018年のサンダンス映画祭で上映された。2019年には、サンダンス・インスティテュートのカタリスト・フォーラム・フェロー、サンダンス・ミュージック・アンド・サウンド・デザイン・ラボ・フェローを務めた。グレゴリー・カーショウと再び一緒に手掛けた『白いトリュフの宿る森』は、彼にとって2本目の長編ドキュメンタリー映画となる。
ドウェックのプロジェクトには、写真や彫刻、映画やサウンドなど、さまざまなメディアが取り入れられている。写真家としての代表的な作品には “The End: Montauk, N.Y.”、 “Mermaids”、 “Habana Libre”などがある。彼の作品は、世界中の美術館やギャラリーで開催された個展やグループ展で紹介されており、国際的なアートコレクションにも含まれている。ニューヨーク近代美術館(MOMA)の映画部門のアーカイブには、長編テレビ作品2点が所蔵されている。

グレゴリー・カーショウ(Gregory Kershaw)

監督・撮影監督・プロデューサー

コロンビア大学の有名な映画監督プログラムを卒業。人間と地球の複雑さと美しさを探求するドキュメンタリーや劇映画を手掛ける。
2018年のサンダンス映画祭で上映された“THE LAST RACE”のプロデューサー兼撮影監督をマイケル・ドウェックとともに務めた。『白いトリュフの宿る森』は二人にとって2作目の共同作品となる。2019年には、サンダンス・インスティテュートのカタリスト・フォーラム・フェローおよびミュージック・アンド・サウンド・デザイン・ラボ・フェローを務めた。それ以前は、世界中の環境問題をテーマにしたドキュメンタリー作品を監督。その中には、ラテンアメリカの遠隔地に住む先住民のグループに気候変動が与える影響を探求した、国連財団が資金提供した短編映画も含まれている。
また、動物行動学者のジェーン・グドールや海洋生物学者のシルヴィア・アールといった環境問題の著名人を起用し、現在の世界的な種の絶滅危機をテーマにした長編テレビ・ドキュメンタリーのリード・プロデューサー兼ディレクターを務めた。

作品情報
映画『白いトリュフの宿る森』

世界で最も希少で高価な食材、アルバ産”白トリュフ”。その名産地である北イタリア、ピエモンテ州で、写真家のマイケル・ドウェックは、夜になると森に”白トリュフ”を探しに出てくる、まるで妖精のようなおじいさんたちがいる‥‥というささやかな言い伝えを耳にしたことから、約3年間にわたり彼らの生活に入り込み、信頼関係を得たうえで貴重な撮影に成功。そこには彼らの大地に寄り添い、時の流れが止まったような、純粋で、美しい暮らしが映し出される。

監督:マイケル・ドウェック、グレゴリー・カーショウ

製作総指揮:ルカ・グァダニーノ

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

©2020 GO GIGI GO PRODUCTIONS, LLC

2022年2月18日(金) Bunkamura ル・シネマほかにて全国公開

公式サイト truffle-movie.jp

イベント情報
マイケル・ドウェック写真展 「Michael Dweck Photographs 2002-2020」

写真から映像作品まで、幅広い分野で活躍するヴィジュアル・アーティストのマイケル・ドウェック。本展は彼のいままでのキャリアを本格的に回顧する写真展。映画『白いトリュフの宿る森』の日本での劇場公開を記念して開催される。本映画から、トリュフ・ハンターと犬、北イタリアの美しい自然風景などの写真作品を5点展示。また、ドウェックのいままでの主要シリーズ「The End: Montauk, N.Y.(ジ・エンド・モントーク、N.Y.)」「Mermaids(マーメイド)」「Habana Libre(ハバナ・リブレ)」のアイランド三部作から、代表作も含めた約18点を展示。

開催期間 2022年2月16日(水)~4月24日(日)

会場 ブリッツ・ギャラリー
※入場無料

公式サイト blitz-gallery.com/exhi_093.html

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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