映像に生命を吹き込む音の力
池ノ辺 今回の映画では、“音”がポイントになっていますが、監督ご自身は絶対音感があるとか音楽をやっているとかあるんですか。
ゴズラン 残念ながら、私は楽器ができないんです。これは僕の人生の中でも不幸なことの一つと思っていて、今の自分の年齢からでも何か始められないだろうかと思っているくらいです(笑)。自分に絶対音感があるのかといえば、それはわかりませんが、音感がいい、ある、というのはすごい才能であると同時に、アキレス腱のように急所にもなってしまうものだと思います。というのも、外の世界の音を全て感知してしまうというのは、非常にストレスを感じる、怖いことでもあるじゃないかと。
映画の“音”に関しては、自分が監督としても観客としても非常に興味があります。つまり、音というのは、例えば観客にとって、無意識に、自分の親密な部分に触れるものになるわけです。これはある種の秘密武器のようなものです。映画にとって、「物語を語る」ということはもちろん大切なのですが、自分にとっては、「感覚的な経験を与える」ということにもとても興味があって、その点で音は重要なファクターです。ですから、自分の映画を作っているとき、音声の編集とミキシング、この段階が、一番好きなんです。というのは、映画自体をカメレオンのように変身させることができる段階だと思っているからです。
映像がまずあって、それだけでは平面的だったものが、音を加えることでレリーフ、深みが出る。この言葉が的確かどうかはわかりませんが、音を得ることで、3D的になるとでも言いましょうか、2次元から3次元になるというような感じ、作品が新たな生命をもらって生まれ変わるわけです。