Jan 22, 2022 interview

[ 映画は愛よ ! 特別編 ] ヤン・ゴズラン監督が語る 映像に生命を吹き込む音の力と『ブラックボックス:音声分析捜査』のリアル

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池ノ辺 その飛行機の世界でも特に、ブラックボックスに注目したのはユニークだと思いました。

ゴズラン ブラックボックスについては、話には聞いていても実際によく知らないという人が多いんじゃないでしょうか。私も例えばブラックボックスをどうやって開けるのか、他の映画では見たことがないと思って、そういうシーンを見せたいというのがまずありました。それと、テクノロジーの問題。今の社会はさまざまな場面でAIなどが活用されていますが、そうしたテクノロジーと人間とのせめぎ合い、テクノロジーによる支配、そうしたことも、自分の中では重要で、描きたいこととしてありました。

池ノ辺 確かにブラックボックスを開けるシーンなど、これまで見たことがなかったですね。制作にあたっては、随分リサーチに時間を掛けたんじゃないですか。

ゴズラン ブラックボックスを開けるシーンは、BEA(フランス民間航空事故調査局)の協力を得て、ビデオなどの資料を見せてもらうことができたんです。2009年に、ブラジルのリオデジャネイロ発パリ行きの旅客機が、大西洋上で墜落するという非常に大きな事故がありました。その時に、3〜4時間かけてブラックボックスを開くという作業を収めたビデオがあって、それも見せてもらいました。そこから多くのインスピレーションを得て、この映画が始まったんです。この作業は、パリ郊外のル・ブルジェ空港にある建物の中で行われていて、映画でもその場所を借りて撮影しています。本編ではもちろん編集されて短くはなっていますけど、全てのプロセスがわかるようにきちんと見せるようにはしています。

池ノ辺 とてもリアルなシーンでしたよね。驚きました。

ゴズラン 特に、ブラックボックスの中のメモリーカードを防護しているさまざまなものの質感をしっかり表したいと思ったのと、ガラス越しに見ている人々、航空機のメーカー、航空会社、パイロット、調査官など、さまざまな関係者が見ているのですが、その人たちが非常に緊迫感を持ってそこに臨んでいる儀式的な雰囲気を表現したいと思いました。実際、それぞれがものすごいストレス、緊張感を抱えてそこにいるわけです。メモリーカードは無事なのか、分析可能なのか。さらには、その分析によって事の真相が明白になれば、まず、遺族への人間的な影響があります。経済界に与える影響も、非常に大きいものです。ブラックボックスには、それらの責任というものが詰まっているのです。

池ノ辺 撮影も大変だったんじゃないですか?

ゴズラン おそらく全ての映画の撮影は、大変だろうと思います。時間が足りないとか、いろんな問題がありますからね。この作品に限っていえば、特に大変だったのは、飛行機の中のシーンです。

実際に、本物の飛行機を撮影に使ったんですが、閉ざされた狭い空間で、その中にスタッフとエキストラも入って2日半くらいかけての撮影でした。冒頭のシーンを見てもらえばわかるように、複雑な動きをするカメラワークでショット数も多かった。飛行機の中が非常に暑くてすごく大変だったのを覚えています。それから後半の池のシーン。これは夜に撮影をしたんですが、この日はとても寒くて、とても暑いところから寒いところへと極端だったんです。さらに水のシーンというのは、思うように撮れるまで随分時間がかかってしまいました。