Mar 31, 2021 interview

『ノマドランド』が響かせる映画の力、サーチライト・ピクチャーズが送り出すアカデミー主要6部門ノミネート作品

A A
SHARE

ドキュメンタリーを越えてフィクションを作り出す演出手法とは?

平山 そもそもこの映画って、実はフランシス・マクド―マンドの企画なんです。『スリー・ビルボード』で彼女はアカデミー主演女優を受賞しましたが、あのときのスピーチって覚えてます?

池ノ辺 いやあ憶えてないなあ。

平山 すごく感動的なスピーチだったんです。彼女は会場にいる女性のノミネート者全員に立ち上がってと言って立たせたんです。それで“Inclusion Rider”という言葉を取り上げて、「映画における多様性をもっと進めよう」、「みんな立ち上がりましょう」みたいな感じで鼓舞したんですね。”Inclusion Rider”は日本語では”包摂条項“と訳されているんですが、映画を製作するに当たって、撮影場所の人種や性別比をちゃんとキャストやスタッフの比率に反映させましょう、影響力のある俳優やフィルムメーカーがこの条項を積極的に進めて、より現実を反映させた映画を作っていきましょう、ということを提唱したんです。

今年のアカデミー賞の俳優部門は20枠のうち、9人が有色人種、監督賞も5枠のうち、2人が女性監督、という、とても画期的な年になっていますが、4年前の彼女の発言が大きな推進力になったのは確かです。そして、マクドーマンドはアカデミー賞に再びノミネートされたわけですが、『ノマドランド』に携わってみてわかったのは、その授賞式のときに、もう彼女はこの企画をプロデューサーとして動かしていたんですよ。

池ノ辺 えっ、そうだったんですか!

平山 マクドーマンドは、2017年に『スリー・ビルボード』を持ってトロント映画祭に参加しているんですが、そのときにクロエ・ジャオ監督の前作『ザ・ライダー』を観ているんですよ。そこで、「クロエ・ジャオって何者?」と思って、その場で探し出して、こういう企画をやっているんだけれども、監督をぜひやってほしいという話をしているんです。

©️2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

池ノ辺 クロエ・ジャオ監督って、中国生まれのまだ30代の監督なんですけど、今、すごく注目されていて、今回『ノマドランド』でアカデミー監督賞にアジアの女性監督としては初めてノミネートされているんですね。

平山 『ノマドランド』をクロエ・ジャオ監督がやると知って、すぐに前作の『ザ・ライダー』を観たら、すごくユニークな演出をしているんです。『ザ・ライダー』もプロの役者が誰もいないんです。俳優じゃない人たちを使って、ドキュメンタリーではなく、オリジナルストーリーを、ちゃんと演じさせているんですよ。

池ノ辺 じゃあ、フランシス・マクド―マンドは自分が温めている企画を撮れるのは、この人しかいない!って思ったわけね。どうやってプロじゃない出演者たちを決めたのかしら?

平山 本物のノマドの人たちの中で一緒に生活をして溶け込みながら、誰に出てもらうか観察をしていった、とインタビューで語っています。それで出て欲しい人を見つけていって、そのキャラクターを作っていったんですよね。

池ノ辺 本人そのままをドキュメンタリーとして映しているわけではないんですね?

平山 本人そのままではないんです。クロエ・ジャオ監督の演出方法って、その人の話をずっと聞くんですね。そうすると、自分の話って自分のことだから、自然に話せるじゃないですか。その延長線上で演技をするんです。

池ノ辺 なるほど。それであんな自然な演技を皆さんがしているのね。

平山 出演者のインタビューを見ると、「99パーセントは私自身なんだけど、1%は演じた」と言っているんですね。だから出来上がったものを見ると、本当に自然だし、虚飾がないというか。こういう監督の仕方っていうのがあるんだという驚きがありました。

池ノ辺 エンドロールの役名と、演じた本人の名前が同じだったので、すごくビックリしました。

©️2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

平山 あれを見て衝撃を受ける方は多かったです。

池ノ辺 フランシス・マクド―マンドが本当に素晴らしくて。彼女も撮影中は一緒にノマドの生活をしていたということですよね?

平山 そうです。20人ぐらいのクルーで、ノマドの人たちの中に入って、みんなで生活しながら移動して撮影しました。映画の中には5つの州が出てきますね。

池ノ辺 そう。ロードムービーになっていて、いろんな所に行っている。働いたり食事をしたりとか、それがすごくリアルで、映像もすごく綺麗だった。