今年の第93回アカデミー賞に作品賞、監督賞(クロエ・ジャオ)、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、脚色賞(クロエ・ジャオ)、撮影賞(ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ)、編集賞(クロエ・ジャオ)の主要6部門でノミネートを果たした『ノマドランド』。企業の経営破綻の影響から職を失い、住む家も手放さざるを得なくなってキャンピングカーでアメリカの各州を転々としながら季節労働の現場を渡り歩く主人公。
アメリカではこうした生活を送る高齢者が増えており、マクドーマンドとスタッフは、実際にノマドたちと交流しながら撮影を行い、ドキュメンタリーとフィクションの壁を越えて映画表現の新たな可能性を提示したことで、絶賛を集めている。この話題作を手がける「サーチライト・ピクチャーズ」は、『シェイプ・オブ・ウォーター』『スリー・ビルボード』など、質の高い異色作を公開してきたことでも知られる。
映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』の池ノ辺直子が、宣伝を担当する平山義成氏と、『ノマドランド』の魅力を語り合った。
アカデミー主要6部門ノミネート『ノマドランド』が響かせる映画の力
池ノ辺 『ノマドランド』は、今年のアカデミー賞主要6部門にノミネートされましたね。この映画を作っているサーチライト・ピクチャーズは、『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ジョジョ・ラビット』だったり、どの作品もいっぱい賞を取るから、アカデミー賞の時期になると、「今年はどうなるんだろう?」って楽しみになるんです。『ノマドランド』のノミネートは予想通りでしたか?
平山 6部門ノミネートはありがたい限りです。評価されて欲しい、と思っていた部門はしっかりノミネートされましたし、真価を評価いただいた、と感じました。
池ノ辺 私は『ノマドランド』を最初に見せてもらったときに、もうずっと泣いていましたが、平山さんは最初に見たときは、どう思いました?
平山 題材としては地味ですよね。それなのに、とにかく映画に力があるんですよね。主役のフランシス・マクドーマンドは、オスカーを2度受賞している、現役最高峰の俳優の一人ですが、彼女の持っている人間力もあると同時に、画面から感じる力強さにも圧倒されるんですよね。
池ノ辺 もうご覧になった方からの反応はどうですか?
平山 ちょっとこれまでにない反応の仕方をされる方がいらっしゃったんですね、何人も。
池ノ辺 それをネタバレにならない程度に教えてもらっていいですか?
平山 自分のすごく深いところを揺さぶられた、という感想を良く伺いました。言葉に詰まったり、「自分の中で整理したいから少し時間ください」とか、そういうリアクションをされる方が何人もいらしたんです。ですから、ちょっとこれまでの作品にない響き方をしてきているんですよね。
池ノ辺 役者はフランシス・マクド―マンドとデヴィッド・ストラザーン以外は、実際のノマドの人たちが、その場で一緒に演技をしているのですが、役者チームとノマドの人たちの境目がなく、それが素晴らしいなと思いましたね。