マーケティングと映画への思いが生むヒット
池ノ辺 今回、GEMのスタッフの皆さんがどんなことをしたのか教えていただきたいんですが、まずは山下さんからお願いします。
山下 リサーチを担当しました。試写で最初に観させていただいて、公開翌日にも劇場で2回目を観たんですが、本当に良い映画でした。作品がすごく良いこともあって、オール・ターゲットにアピールできそうなんだけれども、ターゲットによって反応するポイントがやや異なるだろうという仮説がある中、どのようなターゲットがいるのか?どのようなメッセージが刺さりそうなのか?を明らかにするための「リサーチ」という形で作品に関わることができたことは、その後のプロモーションにつながっていった部分だと思うので、個人的にもすごく貴重な経験だったなと思います。
池ノ辺 同じくリサーチを担当された海部さんはいかがでしたか?
海部 鑑賞意欲のリサーチ結果では、意欲層が「等身大」とか「共感できる」「自分向け」みたいなイメージが強かったのですが、一方でまだ決めかねている層には、そのイメージを訴求できていない傾向が出ていました。個人的な話になるんですが、この映画の山音麦くんと八谷絹ちゃんは私と同世代なんです。試写で本編を拝見して、この作品には、決めかねている層にも何かしら絶対に刺さるエピソードがあると思えましたし、それがしっかり届けば、ちゃんとみんな親近感を持ってくれる〈自分事の映画〉と思えるんじゃないかという確信を持ちながら、すごく思い入れを持ってできたというふうに思っています。
池ノ辺 等身大で見てたのね。
海部 そうです。本当に観客のターゲットど真ん中として見ることができたというところが、リサーチ結果をまとめる上でも、消費者側とデータを見る側を行き来しながらできたかなと思っています。
梅津 今日いる5人で試写にお邪魔したんですけど、終わったあとに4人が大変な状態になっていて(笑)
池ノ辺 ええっ!どうしたんですか?
海部 私は涙が止まらなくなっちゃって大変でした。
梅津 帰りのタクシーの中でも大騒ぎになって。みんなすごく良い恋愛してるんだなあって思いました。私はそれをすごく眩しく思いながら見ていました(笑)。
池ノ辺 次は佐藤さんお願いします。佐藤さんは、今回のプロジェクトに最初から最後まで付いていたんですね。もともとテアトルさんともお仕事されていたんですって?
佐藤 はい。もともとテアトルさんには弊社のトラッキング調査CATSや映画白書で長年お手伝いさせていただいていたのですが、公開の1年以上前から、「勝負作がある」と伺っていました。その話を伺ったときに、「うちでは戦略リサーチやデータを活用したデジタル広告もありますので是非お手伝いしたいです」とお伝えしていたという経緯もありました。
池ノ辺 佐藤さんも、この映画を自分のことのように感じる部分はありましたか?
佐藤 私はトラッキングサービスを担当していたんですが……。昨年8月に試写で拝見して、これこそ僕の映画だなと熱くなっていたんです。そしたら昨年末に彼女と別れて、僕自身がこの映画みたいな状態になっちゃって……
池ノ辺 佐藤さんが『花束みたいな恋をした』状態になっちゃったの? みなさん自分の話をしたくなるのね(笑)
梅津 熱いエモーショナルな男ではあるんですが、一方でカチカチとデータを分析もきちんとしておりますので(笑)
佐藤 トラッキングに関して言うと、『花束』は「この作品を絶対に観たい」とするコアな層が一定数存在していること、特にターゲットである20代女性の反応をきちんと獲得出来ていることなどが見えており、それらの情報を配給のテアトルさんや、デジタル担当の細田とも随時共有していました。その中でも『花束』に特異だった動きとして、通常は公開週をピークとしてそこから徐々に下がっていく鑑賞意欲の指標が、公開翌週に10代,20代の若年層を中心に飛躍的に上昇したことがあります。作品の魅力が口コミなどによって広がり、『花束』が現象化していった様子がデータからも伺えました。
池ノ辺 梅津さんは、今回ふりかえってどうですか?
梅津 日頃からお世話になっているテアトルさんの勝負作として以前から伺っていたので、こういった新しい座組で、しかもトラッキング・リサーチ・デジタル広告の3面でサポートできてうれしかったですし、私たちとしても印象的なものになりました。それから、バカザさんとのコラボでも、ひとつの形が出来たなと思っています。これからも同じような形で、宣伝プロデューサーの方を中心に、リサーチや分析、クリエイティブとデジタル広告の実行を行ったり来たりピンポン玉のようにインタラクティブにやりとりしながら、宣伝を盛り上げることが出来たら良いなと思っています。
池ノ辺 リサーチの会社っていうと、作品のことはそっちのけで、数字だけを見ているだけなのかと思う人がいるかもしれませんけど、今日のお話を聞いてもわかるとおり、すごく愛情を持って、「これは自分の映画だ」なんて思いながら、盛り上げていったことがヒットにもつながったんじゃないかと思います。GEMさんが愛情を持って映画に接して、データを解析していく頭脳集団だっていうことがすごくよく分かりました。