永遠に続くような幸福感に満ちた時間とともに、同じ熱量で出会いと別れをじっくり描き、恋愛映画の新たなマスターピースとなった『花束みたいな恋をした』。人気脚本家・坂元裕二のオリジナル脚本をもとに、菅田将暉×有村架純が歓びも哀しみも見事に体現した珠玉の名編として話題を呼び、予想外の大ヒットを続けている。
映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』の池ノ辺直子が、宣伝プロデュースを担ったヨアケの中野朝子さん、マーケティングを担当したGEM Partnerの梅津文さん(代表取締役/CEO)、山下啓司さん(DOGS ポテンシャル調査担当)、海部亜梨沙(DOGS ポテンシャル調査担当)、細田健士さん(PANDA デジタルマーケティング担当)、佐藤鉄舟さん(CATS/作品別詳細担当)に、宣伝展開と共にリサーチ、デジタルマーケティング、トラッキングをどのように行っていったかをうかがいました。
池ノ辺が代表を務める予告編制作会社バカ・ザ・バッカは、『花束みたいな恋をした』の予告編をはじめ、TVスポット、デジタルサイネージ、WEB用動画など、合計52タイプを制作。かつてない数にのぼった異例の予告はなぜ作られたのか、予告を担当したディレクターの生駒朱里さんも参加して、観客が公開前に目にした数々の映像が誕生する秘話が明かされます。
デジタル広告を細かく打つことで生まれた宣伝展開
池ノ辺 『花束みたいな恋をした』大ヒットおめでとうございます! 今回、私たちの会社バカ・ザ・バッカが予告編を作らせてもらったんですが、まず宣伝プロデュースを担当したヨアケの中野さんから、宣伝を行う上でどんな流れがあったか教えてもらえますか?
中野 最初に宣伝のお話を頂いた時は、もう少し小さい規模で公開すると想定していて、私も350館という最大公開規模の映画になるとは思っていなかったんです。
池ノ辺 単館系公開の拡大版ぐらい?
中野 はい、映画の公開規模としては中規模くらいの想定でした。ただ、製作委員会にテレビ局がいくつか入っているので、いろんなパターンの映像を用意しておく必要があると考え、バカザバッカさんに予告編やテレビポット、webで流す映像のパターンを提案していただきたいと思って、ご相談しました。
池ノ辺 それで、うちの生駒はこういう作品に良いかなと思って、最初から参加させるようにしました。私たちも、こんなにたくさん色んなパターンの映像を作るとは思ってなかったし、公開される劇場の数もこんなに増えるとは思ってなかった(笑)。GEM Partnersさんが参加したのはどうしてですか?
中野 宣伝の方向性として、メインターゲットを都市型の20代に置いたので、新聞出稿はほぼ考えず 、テレビとwebに宣伝予算の大半を注力するしかない、と考えました。ただ、テレビにはどうしても限界もあるので……。
池ノ辺 テレビの限界って、やれることが限られるってこと?
中野 そうです。出演者がバラエティ番組に出るか、TVスポットを打つしか方法がなくて。でもTVスポットは何千万円とかけないとインパクトが作れないので、そこまで広告に予算が割けるのかという課題もありました。それから物理的な制限で、主演2人がバラエティ番組に多くは出演できなかったんです。
池ノ辺 この規模の映画なら、主演俳優がバラエティ番組に次々と出て映画の宣伝をするのが普通でしたね。
中野 そうなんですが、二人ともとても多忙な方なので、二人のスケジュールを合わせるだけでも至難の技で。それなら、デジタル広告を細かく打つほうが、この映画の肝になるんじゃないかと考えて、弊社が前作からGEM Partnersさんとお付き合いがあったので、この作品はGEMさんを巻き込んでいくしかないんじゃないか? ということで、お声がけさせていただきました。