May 04, 2020 interview

池ノ辺直子と伊藤さとりが見た、映画と映画界の今

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旧作映画をたどりながら見ることの楽しみ

池ノ辺 ティルダ・スウィントンは、4月に公開予定だった新作の『デッド・ドント・ダイ』が先行上映されていたんじゃなかった?

伊藤 TOHOシネマズ日比谷でやったんですけど、4日ぐらいで映画館がクローズしたんですよ。だから改めて、仕切り直しでの公開が決まっています。

池ノ辺 『デッド・ドント・ダイ』の予告編は、『パラサイト』の予告編も作ったうちの工藤っていうのが担当したんです。監督はジム・ジャームッシュですね。

伊藤 すごく面白かった!ゾンビ映画が大好きな人だったら、これでもかっていうくらいオマージュが詰まっている中で、ジム・ジャームッシュ監督らしい会話劇の面白さっていうんですかね、車の中で2人の保安官が会話しているその絶妙な間だったりとか、ちょっとした脚本の伏線みたいなものをアダム・ドライバーが喋ったりするんですよね。これはジム・ジャームッシュが大好きな仲間たちを集めて作った映画なんですよ。『デッド・ドント・ダイ』は本当に早く公開してほしい!

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『デッド・ドント・ダイ』公式サイト: https://longride.jp/the-dead-dont-die/

池ノ辺 私は、配信で松竹さんが昔作った『震える舌』(1980年)っていうのを見たら、むちゃくちゃ面白くて。病気になった子どもが、『エクソシスト』(日本公開1974年)みたいに、どんどん変わっていくのよ。まだCG とかない時代に、こんなに面白く作れちゃうんだと思ってドキドキしながら見てました。松竹さんって、人情味あふれる寅さんみたいな映画を作るイメージがあるのに、こんなのやってたの!って思いました。子どもの周りの人間模様がすごく細かく描かれていて、見てよかったです。

伊藤 80年代は、邦画も洋画も面白いじゃないですか。先日亡くなった大林宣彦監督のバイオグラフィを改めて確認していくと、『ねらわれた学園』(1981年)なんて完全にカルトな映画なわけですよ。それが薬師丸ひろ子主演の角川映画で、ミュージカルシーンが訳もわからなく出てくる(笑)。こんなのを大スクリーンで上映されて大ヒットしてたんだと思うと、面白いものを作っていた時代だなと思いますよね。80年代映画って本当に面白い!

池ノ辺 じゃあ、今は大林さんの映画を見返してるんですか?

伊藤 私は小学生のときに大林監督の作品を見て衝撃を受けて、『転校生』(1982年)がすごく好きになったんです。最初に日本映画で好きになったのは、『幻魔大戦』(1983年)は別格として(笑)、『転校生』なんですよ。男の子と女の子の体が入れ替わるだけじゃなくて、入れ替わったらどういう行動に出るかとか、奇想天外な展開に向かっていくところが面白くて。

池ノ辺 大林さんの映画は面白かったねぇ。『HOUSE/ハウス』(1977年)を学生の頃に見たときは、凄かったなと思いましたよ。

伊藤 『リング』(1998年)とかでJホラーとか言われますけど、私からすると、あれはすごく整った映画に見えちゃうんですよ。『HOUSE/ハウス』で破天荒な映画を知りましたね。

池ノ辺 大林さん、新作の『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が公開されるはずだった日に亡くなったんですってね。

伊藤 大林監督のすごいところって、齢を取るごとに上映時間が長くなるんです。今度のなんて3時間ですよ。普通はありえないじゃないですか。「そんな長い映画を……」ってなるところが、大林さんは齢を重ねるごとに、どんどん自由になって時間の制約も気にせずに作ってしまう。私、大林さんと会っていつも思うのは、まあ、よく喋るんですよ。

池ノ辺 舞台挨拶も長いんでしょ?

伊藤 30分延長とか当たり前なんですよ。それが映画にも表れていますよね。思いがすごくあふれている。本当はまだまだ作りたかったことも、表現したかったこともあったと思うんですよ。それに平和に対しても、後年は特にすごく熱い思いを持たれていたので、もっとぶっ飛んだ映画がこれからも生まれていたんじゃないかって気がしますね。

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『海辺の映画館-キネマの玉手箱』公式サイト: https://umibenoeigakan.jp/