業界内では知らない人のいない名物宣伝マン、ガイエ配給宣伝事業部ゼネラルマネージャー大場渉太さんに、映画大好きな業界の人たちと語り合う 「映画は愛よ!」の池ノ辺直子が、今デジタルプロモーションの会社で映画宣伝を行う意味と、マーケティングを踏まえた宣伝の新展開、そして伝説の東京ファンタスティック映画祭復活へ向けての展望をうかがいました。
業界歴30年の名物宣伝マンが映画のPR会社に移籍した理由
――大場さんは日活から東京テアトルへ出向されていましたが、日活を退社して昨年9月にガイエさんに移られました。ガイエさんは映画のPR会社ですが、なぜ映画の宣伝畑を歩んできた大場さんがデジタル分野の会社に行かれたんですか?
東京テアトルへ出向していたときに、ガイエのCOOにあるプロジェクトで協力してもらって、そのときに目から鱗なことがいっぱいあったんですよ。オンラインってターゲットを細かく分類したり、いろんなことが出来るんだと思って、改めて面白いなと思ったんです。テアトルから日活へ戻ることになっていたんですが、僕はこの業界に何だかんだで30年いるので、これは一つの区切りかなと思ったんですよ。そのとき、ガイエの方に「今後のことを考えているんですよ」って話したら、「ウチでやるっていう選択肢はある?」と言われたんです。
――大場さんがガイエさんに入ると同時に、新しい部署が新設されましたよね?
配給宣伝事業部という部署を立ち上げようと言ってくれて。もとからオンラインのパブリシティなんかもやっていた会社なんですが、これまでデジタルでいろんなものを学んできた宣伝プロデューサーっていないので、COOはそういう人をガイエから世に出したいと。当然そのためにはデジタルの宣伝技術だけでもダメだし、僕がやってきたアナログの力も必要だから、デジタル時代の宣プロを一緒に作っていけないかと。ゆくゆくは買い付けだったり、出資だったり、面白いことをウチから発信できたら嬉しいんだけどって言われたときに、なんかパーッと目の前が拓けたんですよね。「あっ、次に進む道はここかな」って。自分もデジタルのことを学んで吸収しながら、今までやってきたアナログなことを受け渡していけるんだったらアリだなって。
――ガイエさんに入った頃にお会いしたら、「マーケティングが重要なんだ」って言っていましたよね。アナログな宣伝を得意としてきた大場さんがどうしちゃったの? って思ったんですよ。
昔は新聞にパブリシティが出れば映画館に客が入るみたいなことがあったんですけど、シネコンになると“劇場ファースト”になって、お客さんが映画を選ぶ基準って予告編だったり、どこのシネコンで上映されるかだったりするんですよね。アナログな手法が全く効かないとは言わないけれど、パブリシティで盛り上げて映画に興味がない人に観ようかしらと思わせて、『君の名は。』とか『アナと雪の女王』みたいに大ヒットするなんて、下手すりゃ10年に1本ぐらいしかないですよ。
誰もがスマホを持ってSNSで情報を得る時代になってくると、そうした人たちの動向もリサーチしながら考えていかないと、良い映画がますます埋もれていっちゃうようになってきた。だからマーケティングとかリサーチが、映画宣伝を今後やっていくには役立つんじゃないか。それをネットの黎明期から先駆けてやっていたのがこの会社だったので、今まで僕がやってきたアナログな手法の宣伝と組み合わせたら、もっと作品のことを分かった上で宣伝の手法を確立できるんじゃないか? と思うところがあったんですよね。
――映画館に行くのは年に1回ぐらいって人も多いですもんね。
昔はミニシアターが盛んだったから、映画に興味がなくても、カルチャーが好きな人で、知らない国の映画を観てみたいと思ってもらえて映画館に呼べたけど、今はそういう状況じゃないですからね。シネコンの中で大雑把にいろんな映画が上映されている現状を分かった上で、宣伝も手法を変えていかないといかんだろうなと、やっぱり思いますね。
――あのアナログだった大場さんが変わったわね。でも、最終的にはそうやってマーケティングしたデータをどう活かすかは、人間次第なわけでしょう?
もちろん。それはもう『2001年宇宙の旅』のときからそうなんです(笑)。あの映画の中のHALだって、使う人間によって狂っちゃうわけじゃないですか。どんなにテクノロジーが発達しても、最終的に人間がどう手を加えるかですから。