Jul 20, 2019 interview

ロングライド代表取締役 波多野文郎が語る、映画だから可能な社会貢献

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外国映画の輸入・配給・宣伝を20年にわたって続けるロングライド代表取締役の波多野文郎さんに、映画大好きな業界の人たちと語り合う 「映画は愛よ!」の池ノ辺直子が、大ヒット作『わたしは、ダニエル・ブレイク』をめぐるエピソードとそこから生まれた社会貢献活動、そして、なぜ質の高い作品ばかりを買い付けることが出来るのか普段は知ることが出来ない映画の買い付け秘話をうかがいました。


© Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016

映画買い付けの原動力とは

――波多野さんが映画業界に入ったきっかけは何ですか?

映画は大好きだったんですが、なんとなく僕たちの世代はすんなり就職せずに、大学を出てからもフラフラしていました (笑)。そんなときに、たまたま知り合いが見つけたのが、ドイツの会社の日本支社の求人広告だったんです。履歴書を出してみたら、「来てみるかい?」ということで、クラシックコンサート映像を販売したり、日本映画をヨーロッパに向けて買い付ける仕事をすることになりました。

――それで買い付けを学んだわけですね。そこから独立したのはどうしてですか?

80年代中盤から後半の頃は、ジム・ジャームッシュを代表とするインディペンデントでやって行くのがカッコいいという空気があって、何かやりたいことがあれば自分たちでやっちゃえっていう価値観がすごくあったんですよね。最初は1人で始めたんですが、そのときは宣伝はやらず、映画の買い付けだけですね。日活が配給した『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』にも少し噛んでいます。そうやって、ビジネスをやっていく上で契約を結んだりするには法人がないと難しいと感じることもあり、会社にしたわけです。ですから、会社を大きくしようと思っているつもりは今もないんです。

――会社組織にしてから、どんどん買い付けを始めたわけですか?

今も昔も買い付けは、簡単ではないので楽だったことは一度もないと思いますね。ただ、いろいろなご縁があって、会社を始めた頃には全く手がけることができないだろうと思っていた作品が出来るようになりました。それこそウディ・アレンの映画を買い付けるなんて夢にも思っていなかった。あの映画をやりたい、あの監督の作品をやりたいというのが、今までやって来られた原動力ではありますね。

“断りきれない案件”がもたらしたもの

――波多野さんはどうやって良い作品を見つけていくのですか?

「これは当たるな」と思うときもありますし、「これは当てられるな」というのもあります。最近よく言うのが、“断りきれない案件”。

――ちょっとすいません、会社を作って何年経ったんでしょう?

20年経ちました。

――そりゃあ、“断りきれない案件”が出てきますよね。

はい(笑)。最近、多すぎるんじゃないかという気もしますけど。ただ、断りきれずに受けたら、これが当たったみたいなことも。それから、「これが公開されないのは良くないよね」という作品もありますね。もちろん事業として成り立たなかったら全員が損しちゃうので、どこまでリスクなのかは計算しますけどね。例えば数年前にケン・ローチという監督の脚本がメールで来たんですね。そのときに、もしかしたら引退作になるかもしれないから――これは後で撤回になったんですが――よかったらやってくれと。

――どうして直接、波多野さんにところに来るのかしら?

何本も一緒にやっていると必然的に継続的な関係が出来るので、ちょっと脚本を読んで感想聞かせてよってことですね。ケン・ローチの『わたしは、ダニエル・ブレイク』も、それでやることになったんです。正直、脚本を読んだときは、これはテーマ的にも難しいかなと思ったんです。だけど、それこそ“断りきれない案件”の極みですよね(笑)。もしかしたら、監督がこれで引退するかもしれないっていう作品の脚本をやってくれないかって送ってこられたら、ノーとは言えない。

――そうしたら大ヒット!おめでとうございます。

ありがとうございます。『わたしは、ダニエル・ブレイク』の予告篇はバカ・ザ・バッカさんに作っていただきましたね。ケン・ローチさんは今年の6月で83歳になられて。カンヌで新作のプレミア上映があったのですが、肩の手術をして腕を吊ったまま来るわけですよ。

――すごい気力!  そんな中で『わたしは、ダニエル・ブレイク』の全ての収益の一部を寄付する「ダニエル・ブレイク基金」というのを設立されましたよね?

これはずっと前から考えていたことなんですが、アップルとかGAPとか、国際的な企業は“(PRODUCT)RED”というのをやっているんですね。赤いiPhoneや、赤いTシャツなどを作って、その収益から何パーセントかをエイズ撲滅のための研究資金や啓蒙活動などに使って、商品の一部に寄付が組み込まれている。そういうのをいつかやりたいなと思っていたところに『わたしはダニエル・ブレイク』という現代の貧困を扱っている作品が現れた。日本でも7人に1人の子どもが貧困状態にある。豊かで物も食事もあふれているんだけれども、その状況は、想像だにしないぐらい深刻だなということで、この基金をやることにしたんです。それと、通常の映画の権利期間は10年ぐらいなんですが、この映画は30年間の権利がある。だから劇場にまたかけても良いし、テレビで放送しても良いし、DVDや配信も含めて、その中で得られる収益の何パーセントかを30年間にわたって寄付し続けましょうというプロジェクトです。