Jul 20, 2019 interview

ロングライド代表取締役 波多野文郎が語る、映画だから可能な社会貢献

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そこに映画があるから出来る活動

――他の作品でも、同じようなことは出来ないのかしら?

8月2日(金)に『風をつかまえた少年』という作品を公開するんですが、これはアフリカのマラウイという小さな国が干ばつに襲われて、食べるものもままならなくなって主人公の少年は学校に行ってるどころじゃなくなる。それが図書館で風力発電の本を読んだことから、風車を作って風力発電で貧困から村を救うという実話です。そこで、この映画の有料入場者1名様につき50円を「一般財団法人あしなが育英会」に寄付することにしたんです。勉強したくても出来ない子どもたち、学生さんたちに援助しているところを通して寄付をさせていただこうということですね。

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――波多野さんはどうして映画を通してこうした活動をされるんですか?

映画がそこにあって、映画で伝えたいことがあるっていうことじゃないですかね。『わたしは、ダニエル・ブレイク』のときはフードドライブという取り組みを劇場にご協力いただき実施しました。缶詰めを劇場に持ち寄ってくださいと告知したら、ダンボール何個分も集まったりしましたからね。やっぱり、映画を観る人たちの中に、そういうことをやりたいと思っている人が、いっぱい居るんじゃないかと思いました。

――そうした活動もされながら、会社も良い流れに乗っていますよね。だって、『スポットライト 世紀のスクープ』みたいなアカデミー賞の作品賞や監督賞を独占するような作品を買い付けちゃったんだから。

トム・マッカーシー監督の映画を、これまでうちで22本配給していたので、やっぱりこれも、やんなきゃいけないなっていう(笑)。ただ本当に、最後の最後までオスカーをとるとは思っていなかったのでびっくりしました。ヒットしたのはもちろん嬉しかったんですが、業界の他社の方々や知り合いから「良かったね」と言っていただけたのが、すごく嬉しかったですね。

〈映画を観る体験〉は廃れない

――どうしてこんなに良い映画を買い付けて宣伝できるのか不思議だったんですが、その理由が少しわかったような気がします。今年は、他にどんな作品を手がけられるんですか?

8月30日(金)に公開されるのが『おしえて!ドクター・ルース』。これは撮影時90歳のアメリカではすごく有名なお悩み相談のおばあちゃんを主人公にしたドキュメンタリーなんですが、ドイツ系ユダヤ人で10歳のときにホロコーストで両親を亡くして孤児になり、パリを経てアメリカに渡って80年代のニューヨークでセックス・セラピストを始めたんです。彼女は「“ノーマル”なんてないわ!」って言うんですね。 “ノーマル”があるってことは、“アブノーマル”の概念があるっていうことだから、彼女は「そんなものはないんだよ」ってセックス相談を通して人生の後押しをしているわけですよね。今の時代に公開する意義がある映画なんじゃないかなと思っています。

――これも、“断れない案件”ですか?

これは違います(笑)。ベルリンに行ったときに、このおばあちゃんの実物大スタンディがあったんです。これ良いなあと思って。それで宣伝スタッフみんなと観て、やってみようとなったんです。それから、カンヌ国際映画祭のオープニング作品にもなったジム・ジャームッシュの『The Dead Don’t Die(原題)』が来春TOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開されます。なぜそうなったのかよく分からないんですが(笑)、エグゼクティブ・プロデューサーをやらせていただいています。

――最後に、今は映画が劇場と配信で一緒になってきていますね。波多野さんは今後、映画ってどうなっていくと思いますか?

映画館で映画を愉しむことが廃れるとは僕は思わない。どんなに家で大画面を見られるようになっても、やっぱり映画を観るっていうことは、家を出て劇場に行って、帰ってくるところまでが一連のプロセスだと思うんですよね。去年、国立映画アーカイブの『2001年宇宙の旅』70mm上映に行ったんですが、本国から厳密に上映の指示書が来ていて、上映が始まる前に場内が暗くなると音楽がこう流れるとか、途中のインターミッションはこの音楽が流れるとか指示されているんです。その一連のプロセスが〈映画を観る体験〉になっているんですよね。あそこまで厳密である必要はないかもしれないけれど、映画を観るというのはこういう体験なんだなと思いましたね。

インタビュー/池ノ辺直子
構成・文/吉田伊知郎
撮影/江藤海彦

PROFILE
■波多野文郎( はたの のりお)

ロングライド 代表取締役

1969年生まれ。1998年ロングライド設立。これまでの配給作品に、『ミッドナイト・イン・パリ』『ブルージャスミン』(ウディ・アレン監督)、『スポットライト 世紀のスクープ』(トム・マッカーシー監督)、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(ケン・ローチ監督)など。 待機作品は『風をつかまえた少年』(キウェテル・イジョフォー監督:8/2公開)、『おしえて!ドクター・ルース』(ライアン・ホワイト監督:8/30公開)、『Sorry We Missed You(原題)』(ケン・ローチ監督:12/13公開)、『The Dead Don’t Die(原題)』(ジム・ジャームッシュ監督:来春公開)

作品情報
『さらば愛しきアウトロー』

1980年代アメリカ。紳士的な犯行スタイルで、銀行強盗と16回の脱獄を繰り返した伝説の銀行強盗フォレスト・タッカー。事件を追うジョン・ハント刑事は、一度も人を傷つけず2年間で93件もの銀行強盗を成功させた彼の仕事ぶりに魅了され、仕事に疲れるだけの毎日から逮捕へ向けて再び情熱を取り戻す。フォレストが堅気でないと感じながらも、心奪われてしまった恋人もいた。そんな中、フォレストは仲間と共に金塊を狙った大仕事を計画するが――。
原作:デイヴィッド・グラン『THE OLD MAN &THE GUN』
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、シシー・スペイセク、ダニー・グローヴァー、トム・ウェイツ、チカ・サンプター
配給:ロングライド
公開中
Photo by Eric Zachanowich. © 2018Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
公式サイト:longride.jp/saraba/

DVD情報
わたしは、ダニエル・ブレイク


発売元:バップ

© Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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