- 池ノ辺
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そうなんですね。
映画を売るには何が必要ですか?
- 加茂
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マーケティング力があった上で、自分の五感を働かせることが絶対必要。
さらにリーダーシップとパッションも必要で、あとね、ストレスに強いこと!
- 池ノ辺
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あ、そこか!
- 加茂
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実はパラマウントが求人しているとき、僕は、一連の転職で知り合ったヘッドハンティング会社の人に、何人かを推薦していたんです。
でも、なかなかパラマウント側のお眼鏡に合わなくて、だったら、加茂さんどうですかと。
いやいや、僕は今、神戸にいるし、仕事はハッピーだし、東京に面接なんていけないって何度かやり取りする中で、向こうが時間を合わせてくれて、会うように仕向けられて、結局会うことになったんです(笑)
あの時代はパラマウントじゃなくて、UIPの時代ですが。
- 池ノ辺
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話があったのはCICでしたね。
CICが解体した直後で、まだVHSビデオが主流の時代ですね。
- 加茂
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そう、CICがパラマウントとユニバーサルに分かれた時。
- 池ノ辺
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私は大変、CICにお世話になったんです。
じゃあ、その昔、映画が大好きで、そのころの夢がかなったという感じですか?
- 加茂
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いや、ネスレってすごくいい会社で、お給料はいいし、スイスなんか定年退職後は年金が出るんですよ。
そんないい会社を辞めて、なんでリスクを負うのか、バカなんじゃないかという感じでしたね。
社長に呼ばれて怒鳴られました(笑)
- 池ノ辺
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映画ってビジネスの側面以上に、博打ですものね。
- 加茂
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そう、周囲からそういわれて反対されたんだけど、僕はもう、全く知らない世界に入るってことに好奇心がふつふつと湧いてしまって。
大好きな映画ですし、大好きなゴッドファーザーもあるし(笑)
- 池ノ辺
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そうか、映画業界、もっと知りたいなと。
- 加茂
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それで、これは僕の性格なんですけど、違う会社に行った時に、必ず過去をすべて捨てるんです。
捨てる気持ちで行くんです。
郷に入れば郷に従えと神がおっしゃる(笑)
- 池ノ辺
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それが加茂さんの成功の秘訣ですね。
- 加茂
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ところが入って驚いたのが、パラマウントのビデオ部門に新作のブロックバスター映画がなかったんですよ。
- 池ノ辺
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え? どういうこと?
- 加茂
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なぜかというと、当時はアメリカの本社が、日本のヘラルドやギャガなど、独立系の映画会社に日本の劇場配給権、ビデオ権、TV放映権をばんばん売っていて、肝心要の売る映画が残っていなかった。
- 池ノ辺
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大変だ、マーケティング力を発揮する以前の問題ですね。
- 加茂
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いや、ほんと、びっくりしちゃいましたよ。
唯一、残っていたのがロジャー・ミッシェルの『チェンジング・レーン』くらい。
ベン・アフレックとサミュエル・L・ジャクソンのサスペンスドラマですけど。
- 池ノ辺
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売る商品がないのにヘッドハンティングされたということは、この状況そのものを変えてくれということですよね。
- 加茂
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そこで必要とされたのが発想の転換ですね。
何を売るか、そこから考えなくちゃいけないからね。
当時の社長に、面接で「加茂さんのモットーは何ですか?」って聞かれて、「いや、根性でしょう、何をやるにも根性です」と即答した記憶があります(笑)