Sep 16, 2016 interview

第7回:映画監督の仕事を意識したのが『時計じかけのオレンジ』でした。

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東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当 市川南 氏

池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 第7回は、いよいよ市川さんとの対談の最後です。東宝入社の経緯からご自身にとっての「映画って何?」をお聞きしました。

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

さて、市川さんのこれまでの歩みを伺ってきたのですが、何しろ関係している映画の本数が多すぎて、かなり駆け足で、触れないままの作品もあって、関係者のみなさま、ごめんなさい。

最終回を迎えたので、まとめに入って、そもそもなぜ、市川さんが東宝に入社したのか、そこを聞きましょうか。

市川南 (以下、市川)

もともと映画が好きだったということだけなんですけど。

池ノ辺

でも、入社しようとしたときは、はっきり言って、日本映画は斜陽の時代ですよね。

市川

そうですね。

池ノ辺

でも、今は東宝と言ったら、天文学的な倍率で「入れない会社」じゃないですか。

まさに、秋公開の三浦大輔監督の『何者』みたいに途轍もない就活を経ないと入れない。

聞くと、今、東宝って「はい、東大出身です」っていう頭のいい人多いんだもの。

市川

最近はそうですけど、僕らが入った頃は倍率も高くなかったんです。

確かに最近は本当に入れない。

池ノ辺

それで、宣伝部の質もいいんですか?

今、宣伝部は何人いるんですか?

市川

80人ほど。

90年代は宣伝プロデューサーを指名されることもありましたけど、今は極端に言うと、誰がやっても同じレベルになる。

つまり組織として力がついたし、入社すれば、自然と教育がなされる環境になって、うまく行っている気がします。

池ノ辺

東宝ではどういう風に新人教育をしているんですか?

市川

基本、先輩の仕事ぶりを見てもらうだけですけどね。

池ノ辺

ということは、現役バリバリでやっていた宣伝部の各個人が、だんだん上になって、管理職になって、そして自分たちのスキルとノウハウをちゃんと後輩に伝えることができるということですね。

もちろん、大ヒットしたら、ボーナスにも反映されるんですよね?

市川

いえ、そんなことはありませんよ。

僕が入社した1980年代後半は日本映画が底の時代で、バブル経済が弾け、リーマンショックも経て、世間のボーナスは下がっていったんだろうけど、東宝をはじめ、映画業界はずっと横バイのまま移行している感じがします。

池ノ辺

良かったじゃないですか、東宝に入って!

市川

良かったですね、東宝に入って(笑)。

池ノ辺

それで、東宝に入った経緯に戻るんだけど、市川さん、世間では市川崑監督の息子だとよく間違われるんですって?

市川

ええ、よく聞かれますね。

市川崑監督の息子ではないですけど、市川崑監督の『犬神家の一族』のプロデューサーを務めた市川喜一の息子です。

池ノ辺

この市川喜一プロデューサーがまた、すごいプロデューサーなんですよね。

市川

フリーのプロデューサーだったんです。

池ノ辺

代表作を並べると圧巻です。

今井正監督の『キクとイサム』、野村芳太郎監督の『拝啓天皇陛下様』、 山田洋次監督の『馬鹿まるだし』、勅使河原博監督の『砂の女』、山本薩夫監督の『華麗なる一族』、先日亡くなられた松山善三監督とも『戦場にながれる歌』で組まれています。

お母様は女優の関千恵子さんですよね。

市川

よく調べていますね。

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池ノ辺

ご両親とも映画人ですから、小さい時から映画はしょっちゅう見てもいい環境だったんですか?

市川

中学になって、部活動を全然やらなかったんで、暇だったんですね。

それで、映画ばっかり見るようになったら、ある日、父親に「同じ映画は2度見るな」と言われて。

池ノ辺

え?なんでです?

市川

オタクという言葉は当時ありませんでしたけど、そういう匂いを感じたんでしょうね。

映画しか知らない人間に育ったら困ると思ったらしく、「同じ映画を2度見るな」と。

それで、同じ作品は、2度は見ないようにして、毎回、違う作品を選んで見ていたんですけど、中学2年生のとき、父との約束を破ってしまったんです。

池ノ辺

おお、それは何の作品だったんです?

市川

スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』。

池ノ辺

わ、早熟!面白かったんですか?

市川

いや、驚いてしまって。

池ノ辺

わからないから2度見ようと?

市川

あとから振り返って思ったのは、あの作品で、映画監督という仕事について、初めてどういうものかを理解したんでしょうね。

池ノ辺

キューブリックの仕事に驚いたんだ。

市川

つまり、『007』シリーズを見ていても、映画監督って何をするかって、中学生だとわからないけど、キューブリックの作品を見ると、この人がこう撮ろうと意図したからこういうアングルになって、ここで、この音楽をこういう目的で入れているから、スクリーンではこういうことになるんだなと多分初めて気付いた。

結果、この作品が契機となって、映画オタクの道を進んでいきました。

ただ、父親の教えもあって、繰り返しはあまり見ないので、未だに同じ映画を見返すことはあまりないですかね。

池ノ辺

そこからずっと映画どっぷりの人生だと思いますけど、他社の映画も見ますか?

市川

見ます。

映画館で100本くらいは見るんです。

池ノ辺

そうすると、週2、3回は見るということですよね。

最近、面白く見た作品は何ですか?

これはやられましたというもの。

市川

邦画でしたら『ヒメアノ~ル』、あれは驚きました、ご覧になりました?

池ノ辺

森田剛さんの演技が話題になりましたけど、役者の使い方がうまいですよね。

市川

女性の観客にはキツイ描写もあるかもしれないですけど、前半と後半のタッチの違いが非常に面白かった。

池ノ辺

独立系プロダクションの作品も見るんですか?

例えば河瀨直美監督の『あん』とか?

市川

見ますよ、先日、西川美和監督の『永い言い訳』を見ましたけど、これも素晴らしかったですね。

脚本も手掛けられ、映画の前に書いた原作は直木賞の候補作にもなりましたけど、すごい人ですね。

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池ノ辺

ダメ男を見つめる眼差しが厳しい!

本木雅弘さんが妻を亡くしたのに、悲しくなくて、泣けない男を演じているんですよね。

市川

僕はいつ、本木さんが泣くんだろうと思って見ていたんだけど、この演出も一筋縄ではいかない。

池ノ辺

それ以上は言わないでね。

『永い言い訳』は見たい映画の一つだから(笑)。

市川

本木さん演じる主人公の人間的な成長が、ほとんど幅がない。

普通の映画なら、主人公ですから、もうちょっと成長に幅をつけるんですけど、わざとしていない。

本当に生(き)のままの人間としてスクリーンの中に出てきて、本木さんが本当に嫌な奴なんですよ。

池ノ辺

それって東宝さんの制作だったら、できていました?

市川

うーん、東宝だったら、わかりやすく、成長して、泣かした方がいいとなるでしょうね。

池ノ辺

お子さんは、お父さんが何をしている人かは知っているんですか?

市川

わかってますね、結構、仲いいと思いますけど。

池ノ辺

お父さんが制作した作品で何がいいとかは言うんですか?

市川

『永遠の0』や『シン・ゴジラ』は見ていましたね。

むしろ、少女漫画について「これは知っている?」や、「この俳優さんは学校で話題になっている?」とか聞くことがありますね。

上の子は18歳なので、「その原作はちょっと古いね」とか、「俳優さんはだれだれさんがクラスで話題だ」とか、教えてくれるので今は楽ですね。

池ノ辺

あら、娘さんからリサーチ!?

市川さんがどういう経緯で映画界に入っていったのか状況はわかりました。

最後になりました。

皆さんに最後に聞く質問です。

市川さんにとって、「映画って何ですか?」

市川

特別ではないもの。日常ですね。

池ノ辺

なんだろう、今、ず~っと前に彼女(今の奥様)との旅行の感想を「普通」って言っていた市川さんとダブった。

市川さんにとって、もしかしたら「普通」って最上級の誉め言葉なのかな?(笑)

市川

例えば本当ならプロットとか原作とか脚本ってどこかに籠って集中して読む方がいいんでしょうけど、僕は時間がない時は、朝、満員の通勤電車の中で読むんです。

殺人事件も読むし、高校生の恋愛も読むし、SFも読む。

そうやって朝の通勤電車からずっと映画に浸って、会社に行って昼になれば、完成前のラッシュを見て、午後は映画の撮影現場にも行くし、もうずっと、映画って日常なんです。

池ノ辺

24時間、映画に関わっているというところですね。

大変そうですね。

市川

僕はそれが楽しいですね。

池ノ辺

結果、興行につながって、明確な数字として表れ、世間からは評判を聞く。それが、市川さんにとってはすごく嬉しいことなんですね。

そうか、市川さんにとって、映画というのは生活であり、日常であり、「普通なこと」なんですね。

市川

はい、それでまとめていただければと思います。

(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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映画『怒り』

吉田修一(原作)と李相日(監督・脚本)の2人が、『悪人』以来、6年ぶりにタッグを組み挑む意欲作に、渡辺謙をはじめ豪華出演陣が集結!日本が世界に誇る才能たちの夢の競演が実現した『怒り』。

原作:吉田修一 企画・プロデュース:川村元気 音楽:坂本龍一 脚本・監督:李相日 出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮﨑あおい、妻夫木聡 配給:東宝 9月17日(土)より全国ロードショー

(c)2016 映画「怒り」製作委員会

http://www.ikari-movie.com/

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PROFILE

■ 市川 南(いちかわ みなみ) 東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当

1966年、東京都生まれ。1989年、東宝入社。宣伝プロデューサーとして、「ヒーロー インタビュー」(94年)「学校の怪談」シリーズ(95年~99年)、「千と千尋の神隠し」 (01年) 等。企画プロデューサーとして、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、 「永遠の0」(13年)、「シン・ゴジラ」(16年)等。2011年、取締役就任。2012年から東宝映画社長を兼務。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「シェイプ・オブ・ウォーター」「ノマドランド」「ザ・メニュー」ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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