Sep 13, 2016 interview

第6回:「理屈を持たないと、判断が鈍る」ということに、最近気づきました。

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東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当 市川南 氏

池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 第6回は、この秋公開の『怒り』をはじめ、『四月は君の嘘』や『64』『orange』など東宝の自社企画映画のお話です。

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

市川さんに聞きたいのは、東宝って、作家を育てるのが上手ですよね。

市川南 (以下、市川)

そうですか?

池ノ辺

例えば、市川さんが宣伝部にいたときに『竜馬の妻とその夫と愛人 』(2002)を担当していたけれど、その後、三谷幸喜さんは日本映画界でもなくてはならない映画監督になったじゃないですか。

あと、李相日監督も『悪人』に続き、この秋には『怒り』が公開されますけど、東宝が大きくした映画監督といえるんじゃないですか?

市川

三谷さんは、フジテレビさんですよ。

李さんも東宝としてはまだ2作ですから、育てるという言い方はおこがましいですね。

ところで、ぼくが映画調整部に移動した、2001年の段階では、東宝は自社製作が年に1、2作しかなかったんです。

そのうち1本は『ゴジラ』シリーズなので、残りは1本。

でも、『千と千尋と神隠し』の大ヒットを受けて、日本映画が入るんだったら、もっと自社製作を増やしていいんじゃないかということで、徐々に増えていった。

年に3本が4本になり、5本になりと少しづつ増やしていって、今年は32作のラインアップのうち11本が東宝の自社企画です。

池ノ辺

それは面白いことだし、成功するから、またみんな頑張ろうと思うんでしょうね。

この秋、ヒットを狙っている作品は?

市川

今、話が出た李監督の『怒り』ですね。

『悪人』と同じ吉田修一さん原作の映画化です。

池ノ辺

この映画、広瀬すずさんがものすごく体当たりの演技をしていて、衝撃的だと話題になっていますね。

市川

ええ。

ある殺人事件の犯人捜しをベースにした物語で、千葉、東京、沖縄の三か所で犯人と思われる人物と、その男と関わることとなる人たちのエピソードが同時に進んでいきます。

広瀬さんは沖縄編の小宮山泉という高校生を演じているのですが、泉はとても理不尽な暴力事件に巻き込まれる。

広瀬さんはオーディションを経て起用されたんですが、選ばれた後に、物語の内容を知っておそらく相当悩まれたと思いますし、想像を越える設定ですから、役柄を受け止めるのも大変だったと思いますね。

ただ、所属されている事務所の理解が深く、彼女をただのアイドルで終わらせないというサポートも強かった。

事実、『怒り』での広瀬さんの演技は10代のアイドルの枠を超えて、すさまじい熱量で表現されていて、本物の女優になられたと思います。

沖縄編では森山未來さんが強いインパクトを残すのですが、彼と対等に対峙する役で、広瀬さんにとって重要な作品になったと思いますね。

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池ノ辺

広瀬さんの演技も楽しみだし、私は妻夫木聡さんと綾野剛さんのゲイカップルのエピソードも楽しみです。

市川

渡辺謙さんと宮﨑あおいさんの千葉編の父と娘のエピソードも胸を打ちますよ。

池ノ辺

秋以降での見るべき映画はなんですか?

12月17日公開の『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』は実写もあって面白いぞと、いう感じですね。

市川

ご指摘の通り、『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』は単独のアニメーション作品ではなく、実写部分があって登場人物がアニメと実写の部分を行き来するので、2倍楽しめる内容になっています。

キャスティングもすごいんですよ。

池ノ辺

私、最初、この豪華な人たちが声優をされるのかと勘違いしていました。

市川

いえ、お芝居をしていただいています。

山崎賢人さん、斎藤工さん、武井咲さん、遠藤憲一さん、浜辺美波さんですから、それだけで実写映画が撮れるくらいの豪華なキャスティングです。

池ノ辺

バカ・ザ・バッカが予告編を作らせて頂いたのが、先ほども話題が出た広瀬すずさんが主演の『四月は君の嘘』。

うちの高木が予告編を担当しています。

彼女はこれまでもずっと、山崎賢人さんが出演する青春映画の作品を担当させていただいているんです。

いわば、山崎賢人専任予告編ディレクターです(笑)。

かっこよく見える角度もわかっていますよ。

市川

これは泣かせるラブストーリーですが、音楽もののジャンルで、ピアニストの青年とバイオリニストの少女の悲恋の話です。

池ノ辺

この原作は、国民的な漫画家「ONE PIECE」の尾田栄一郎先生が嫉妬したと言われているようですね。

表現の仕方が独特で、無音の描き方も独特。

市川

ラブストーリーでいえば、12月公開の三木孝浩監督の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』もおすすめですね。

これは、コミックの映画化ではなく、七月隆文さんの小説の映画化なんです。

それをラブストーリーの名手、三木孝浩監督が手掛けているので、これも鉄壁の泣かせるラブストーリーになっています。

主演は福士蒼汰さんと小松菜奈さんで、京都を舞台にした、美大生の美しい切ないラブストーリー。

でも、ただのラブストーリーじゃなく、別れの理由にSF的な要素が入ってくる。

新しいタイプのラブストーリーになるんじゃないかと思います。

池ノ辺

これも、うちのスタッフの土子が予告を作っています。

先日、市川さんから鋭い指摘を受けたと報告を受けておりますが(笑)、どういう指摘だったんですか?

市川

最初に上がってきた予告編では京都色が弱かったので、もっと土地の色を出したほうがいいと。

逆に、SF的な要素を明かしすぎていたので、そこを弱めてもらいました。

池ノ辺

そうなんですよ。

どういうアプローチで行くのか、内容をいうのか、いわないのか、いろんなタイプ作っていたらしいんですけど、語り過ぎちゃったんですね。

市川

ええ、そこからは控えたと思います。

池ノ辺

さて、2016年を振り返るにはちょっと早いんですけど、今年の東宝は全く外れがなかった年でしたね。

私は個人的に『64-ロクヨン-』が本当に面白かったんです。

邦画恐るべし。

市川

一見地味な映画ですけどね、よく入りましたよ。

池ノ辺

入らないと思っていたんですか?

市川

僕の予想を超越していました!

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池ノ辺

いやいや、やっぱりよくできてるもの、役者もすごい。

市川

あれは各映画会社、横山秀夫さんの原作を取り合ったんですけど、2部作で提案したのがTBSさんだったんです。

横山さんは,できる限り、原作に忠実に映画化してほしかあったので、TBSさんを指名したんです。

池ノ辺

じゃあ、他社はあの長い原作を一作にギュッとまとめようとしていたんですね?

市川

はい。そうですね。

池ノ辺

こういうTBSが主導の企画のときは、市川さんはもうお任せ?

市川

いえ、何かあれば意見は言いますよ。

池ノ辺

意見を言ったから、今年はことごとくうまくいったんですかね?

市川

2016年の正月興行は、ディズニーさんの『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』があったので、他社はみな、その時期に勝負作をぶつけるのは避けたんですね。

だから逆に東宝は、その時期にライバルがいないということで、『スター・ウォーズ』シリーズにそこまで思い入れがない10代や若い女性層を狙って山崎賢人さんと土屋太鳳さん主演のラブストーリーの『orange-オレンジ‐』をぶつけたんです。

池ノ辺

それで大ヒットしたんだ!

市川

あれは編成の妙でした。

みんながみんな、『スター・ウォーズ』を見るわけじゃないということがよくわかりました。

池ノ辺

そういう時局を見るというか、勝負を仕掛けるセオリーみたいなものを部下の人たちにはどう指導しているんですか?

市川

僕が社内で、特にプロデューサーたちに言っていることは、池ノ辺さんたち、予告編を作る方々の感覚と違うと思います。

つまり、「宣伝は感性じゃない」と話しています。

池ノ辺

感性ではない、じゃ、何?

市川

僕はいつも「宣伝は理屈だ」と話すんです。

例えばポスターに2案あったとき、「こっちの方がセンスがいいよ」ということをプロデューサーは絶対、言っちゃいけない。

そうではなく、「この映画は、こういう層に売るから、こういう戦略だから、こっちのデザインの方がいいんだ」と説明しろと。

宣伝は理屈をまず持たないとぶれちゃいます。

池ノ辺

なるほど、、、

市川

コンセプトがまず大切ですね。

映画を作るコンセプトがあって、売るコンセプトがある。

おかげさまでこちらもヒットしていますが、例えば『後妻業の女』は、殺人を犯す話だけど、殺人をエグく描かない。

関西弁でコテコテの映画なんだけど、宣伝では、殺人の色も、ベタな関西色も出さないと決めるんです。

でも、宣伝を展開していく中で、「いや、大竹しのぶさんも、豊川悦司さんも、関西弁のコテコテが面白いから予告に入れよう」と流されそうになりますが、でも、そこは、初心に帰って、最初のコンセプトを守る。

「理屈を持たないと、判断が鈍る」ということに、最近気づきました。

池ノ辺

市川さんの仰ることは本当にその通りで、宣伝プロデューサーではなく、その周りに関わっている人たちがぐちゃぐちゃ予告編に対して意見を言い出すと、結局、予告編のオフラインをAからZまで作るハメになる。

それは良くないんです。

だって、結局Zまで行くと、やっぱっり、最初のA案が一番良かったねとなるんですよ。

その意味で市川さんは『ヒーローインタビュー』の時から絶対、ブレなかった。

その姿勢は、クリエイティブをする上で、安心して、信頼できることですね。

(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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映画『怒り』

吉田修一(原作)と李相日(監督・脚本)の2人が、『悪人』以来、6年ぶりにタッグを組み挑む意欲作に、渡辺謙をはじめ豪華出演陣が集結!日本が世界に誇る才能たちの夢の競演が実現した『怒り』。9月17日(土)より全国東宝系ロードショー!

原作:吉田修一 企画・プロデュース:川村元気 音楽:坂本龍一 脚本・監督:李相日 出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮﨑あおい、妻夫木聡 配給:東宝 9月17日(土)より全国ロードショー

(c)2016 映画「怒り」製作委員会

http://www.ikari-movie.com/

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PROFILE

■ 市川 南(いちかわ みなみ) 東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当

1966年、東京都生まれ。1989年、東宝入社。宣伝プロデューサーとして、「ヒーロー インタビュー」(94年)「学校の怪談」シリーズ(95年~99年)、「千と千尋の神隠し」 (01年) 等。企画プロデューサーとして、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、 「永遠の0」(13年)、「シン・ゴジラ」(16年)等。2011年、取締役就任。2012年から東宝映画社長を兼務。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「ドリーム」「シェイプ・オブ・ウォーター」「スリー・ビルボード」 ほか1100本以上。 最新作は「ジョジョ・ラビット」「ジュディ 虹の彼方に」。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
映画が大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」記事一覧はこちら

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