Sep 02, 2016 interview

第3回:自分にとって、スタジオジブリの作品を担当するのも初めてだったんです。

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東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当 市川南 氏

池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 第3回は、市川さんが宣伝プロデューサーとして最後にかかわった『千と千尋の神隠し』から、今のポジションや1990年代のお話などです。

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

市川南さんはスゴい人なんですけど、なにがスゴいかというと、代表的な仕事が映画の興行のベスト10の中にわらわらとあることなんです。

例えば、宣伝プロデューサーとしての仕事として絶対に挙がってくるのが宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』がそうでしょう。

市川南 (以下、市川)

そうですね。

でも、この作品は7月の公開だったのですが、その手前の4月に突然移動になっちゃったんです。

池ノ辺

つまり、宣プロとしては、これがラストの作品ですね。

映画調整部に異動になったのは、かねてから転部希望などを出していたんですか?

市川

いえいえ、全然、そんなことはしていなかった。

スタジオジブリの作品ですから、公開規模が大きくて、猛烈に忙しかったし、3月の段階で、作品も当たりそうだと感触も持っていたので、自分としては、全然異動するとは思ってなかったんですよ。

自分にとって、スタジオジブリの作品を担当するのも初めてだったんです。

池ノ辺

この後も、スタジオジブリとは関わっていますよね?

市川

映画調整部の立場での関わりなので、宣伝プロデューサーとしての関わり方とは違いますね。

池ノ辺

なるほど、そういうことね。

で、私が大声で言うまでもなく、『千と千尋の神隠し』は邦画の歴代の興行成績の一位に輝く作品なんですよ。

その作品の宣伝プロデューサーですよ。

どのくらい行ったんでしたっけ、数字は?

市川

304億円ですね。

池ノ辺

さらっと言うなあ(笑)。

これは未だ破られていない金字塔の数字ですね。

私も当時、2回、劇場へ観に行きました。

市川

やっぱり、深い映画でしたよね。

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池ノ辺

今の『シン・ゴジラ』と同じよね。

一度の鑑賞ではわかりきれない部分が多くて、何度か通う羽目になる。

だから、大ヒットになる。

もちろん面白いからもう一度見よう!!と思うのですけどね。

『君の名は。』も大ヒットですね。

おめでとうございます。

号泣でした。

ラストのエンドロールの名前の最初に「市川南」とでるので、なんか自分のように嬉しいです(笑)

でも、そんな大ヒット作になったにも関わらず、『千と千尋の神隠し』の時は、「お前は異動だ」と言われたわけですね。

市川

正確に言うと、4月に異動の訓示を受け、7月で『千と千尋と神隠し』の宣伝を終えて、この仕事が終わり次第、次へということでした。

池ノ辺

それで映画調整部に行ったわけだけど、今、市川さんは東宝の取締役でしょう?

でも、今も編成の仕事をやっているわけですよね?

市川

そうですね、同じ仕事です。

池ノ辺

東宝というと、これも私が大声で説明するまでもなく、日本で最も興行成績を上げている映画会社で、配給も製作もして、日本国内でいうと、今やハリウッドのメジャー映画よりも成績を上げているじゃないですか?

で、東宝の映画調整部というのは、どういう仕事をしているんですか?

市川

テレビ局の編成部と一緒で、東宝の年間のラインナップを集める係なんです。

今年でいうと、30数本の作品数をそろえる。

池ノ辺

それは企画から関わって集めるっていうこと?

市川

例えば『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』みたいに、20年、30年続いている作品は、今年はこの時期に何週間、上映しましょうと話し合いますし、スタジオジブリが長編を作っているときは、次の作品は、いつ公開するのか、それを松竹さんや東映さんじゃなくて、まずうちで配給させてほしいという交渉をしていました。

ここ数年は、テレビ局制作の映画も増えていますので、例えばフジテレビさんだと、次の作品もうちでやりましょうと。

そういう外部の作品の配給権を取得する仕事が半分で、残り半分が東宝の自社制作。

ですから、二足のわらじみたいなものですね。

池ノ辺

じゃあ、誰かが売り込みに来て、「ぼく、これを東宝で作りたいんです!」というと、その台本を読むところから始まるんですか?

市川

そうですね。

池ノ辺

出来上がった作品を持ってきて、「これを東宝で配給してください!」ってこともある?

市川

完成してからというケースはあまりないですね。

基本は企画や脚本の段階で受ける、受けないの判断が多い。

最近は、テレビ局さんが上手に映画を作られるので、その配給を受けるかどうかの仕事が多いですね。

もちろん、持ち込みの企画もあります。

フリーで活躍されているプロデューサーもいますので。

池ノ辺

それで聞きたいんですけど、市川さんは東宝映画の社長もされているでしょう?

市川

そちらは、東宝の自社製作をする会社です。

池ノ辺

では、今、東宝で取締役をしながら、東宝映画の製作も見て、ふたつの会社のどちらの業績も見ているという感じなんですか?

市川

まあ、そうですね。

池ノ辺

でも、他にも肩書きがあるんじゃないですか!

市川

映像本部映画調整、同映画企画各担当兼同映画調整部長ですね、わかりやすく言うと、デパートでいうとエルメスとかシャネルとかブランドショップがありますよね、東宝がデパートとしたら、その中にスタジオジブリやフジテレビ、TBS、日本テレビいうショップがある、加えて、自社製品があって、それが東宝映画で作る作品なんです。

それをどういうやり方でもいいので、整えることが僕の仕事です。

池ノ辺

まあ、ざっくりいうと、市川さん、偉くなっちゃったんだ(笑)

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市川

池ノ辺さん、サラリーマンというのは、何年かすると肩書だけ偉くなるんですよ。

池ノ辺

それで映画調整部に入って今年で何年?

市川

15年目だから、宣伝部より長くなりました。

池ノ辺

「ああ、もう、編成いやだ、宣伝部に帰りたい!」って思うときはありますか?

でも、市川さんが焦っているのをあまり見たことがないわ。

市川

映画調整部も宣伝部も同じですね。

どちらも「この映画をどう魅力的にお客さんに届けるか」という仕事ですから。

池ノ辺

昨日、市川さんとの仕事をずっと振り返っていたんだけど、市川さんと多く仕事をしていた1990年代はまだ予告編をテープで編集している時代で、その作業中、ずっと、市川さんがうちの編集室に来て、私の後ろであーでもない、こーでもないと言ってましたね。

当時の市川さんは、東宝より、うちの会社にいる時間のほうが長いんじゃないかって思う時がありました。

市川

それが邦画の良さですよね。一緒に作っていけるので。

池ノ辺

で、あるとき、日曜日なのに、二人でやり取りして、やっと予告編ができたというとき、市川さんが、さらに東宝に戻ってチェックしたいからデータをVHSに落としてくれと言って、私がやったつもりで渡したんだけど、配線か何かが間違っていて、会社に戻ってみたら何にも写っていなかったという。

市川

そんなことありましたっけ?

全然覚えていないです。

池ノ辺

そのとき、電話の向こうで市川さんが、「日曜日に仕事してるからだよね。やるなっていうことだな」としみじみ言っていたことを思い出して。

市川

よく覚えてますね、バカ・ザ・バッカの小林さんがいれば、間違えなかったんでしょうけどね(笑)。

池ノ辺

そこまで密接に一緒に仕事をしていたのに、90年代の後半になると、市川さんは予告をどんどん違う人に頼むようになって、私はちょっとフェードアウトしちゃうんです。

市川

僕は割と新し物好きなんですよ。

僕以外の東宝の宣伝部が池ノ辺さんに頼むようになったので、じゃあ、新しい人と組んでみようかなとなった気がします。

池ノ辺

だから、密にお仕事したのは4年間だけなのよ。

で、当時のエピソードで忘れられないのは、市川さんが忙しい最中、やりくりして夏休みを取った後、「どうだったの?楽しかった?」って聞いたら、「普通」って言ったこと(笑)

市川

よく覚えていますね。

まあ、その旅行をした人と結婚したのだからいいんじゃないですか(笑)。

(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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(C)2016「君の名は。」製作委員会

http://www.kiminona.com/index.html

PROFILE

■ 市川 南(いちかわ みなみ) 東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当

1966年、東京都生まれ。1989年、東宝入社。宣伝プロデューサーとして、「ヒーロー インタビュー」(94年)「学校の怪談」シリーズ(95年~99年)、「千と千尋の神隠し」 (01年) 等。企画プロデューサーとして、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、 「永遠の0」(13年)、「シン・ゴジラ」(16年)等。2011年、取締役就任。2012年から東宝映画社長を兼務。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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