池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」
映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 今回からは、東宝の市川南さんをお迎えして、現在大ヒット中の映画『シン・ゴジラ』をはじめとした、映画にまつわる様々なお話を聞かせていただきます。
- 池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)
-
さて、今回のゲストはこの夏、最も世間を熱く騒がせた映画のプロデューサー、東宝の市川南さんです。
実は私たちは22年前からの知り合いなんです(笑)
市川さんがまだ宣伝プロデューサーの時にお仕事を一緒にさせていただきました。
そのことは次回以降に話をするとして、今回は「シン・ゴジラ」の話から。
まずは言わせて。
『シン・ゴジラ』の大ヒット、おめでとうございます!
こんなに大ヒットになるなんて、もう、市川さんの計算通りですか(笑)?
- 市川南 (以下、市川)
-
いえいえ。
初日の数字が、2014年に、レジェンドリー社が作った『GODZILLA ゴジラ』との対比で150%の動員数だったんですね。
それで「これはいけるかな」と、ちょっと安心してしまいました。
8月22日の時点では、興行収入は45億円に達しています。
- 池ノ辺
-
すごく面白かった!!めちゃくちゃ、評判もいいですよね。
- 市川
-
おかげさまで、これまでの『ゴジラ』シリーズや特撮・怪獣ものの観客層より広がりがあり、女性の観客の方にも面白がって頂いています。
- 池ノ辺
-
7月29日の初日の深夜には、外国人の方も来ていて、ミッドナイト上映でカウントダウンをしたんですって?
- 市川
-
そうなんですか?
- 池ノ辺
-
誰よりも早く見たかったんでしょうけど、でも、外国でも公開されるんですよね?
- 市川
-
売れていますね。初日の段階で、全世界で100カ国の配給が決定していました。
まだ増えると思います。
- 池ノ辺
-
すごいですねえ。
台湾に行った時、ゴジラの顔のアップのポスターが貼ってあったわ。
そもそも、なぜ、この時期にゴジラ復活になったんですか?
- 市川
-
ゴジラは2004年に平成シリーズの最後の作品、『ゴジラ ファイナルウォーズ』が公開されて以来、シリーズはストップしていたんですけど、10年以上空いた段階で、東宝の中でも「誰かが復活させなきゃな」という空気が漂っていたんですけど、僕自身は、あまりにも荷が重いので……。
- 池ノ辺
-
やりたくなかったの(笑)?
- 市川
-
ええ。
ただ、レジェンダリー社によるギャレス・エドワード版の『GODZILLA ゴジラ』が公開されることで、これでもう一度、日本の観客たちもゴジラというものを再認識するだろうから、逆にコバンザメのように、その後に東宝で作ったらいいんじゃないかと思い至ったんです。
ただ、東宝にいる我々が脚本を作っていくと、どうしても過去の作品の流れをどこか踏襲し、これまでのテイストに近くなっちゃうんで、新しい発想でゴジラを復活させられる誰か、東宝とは違う発想をするクリエイターの方にお願いしようと。
それで、プロデューサー中心の企画ではなく、クリエイター中心の企画として、誰を中心にすればいいのか、何人か候補を挙げて検討したんですね。
- 池ノ辺
-
その結果、庵野秀明監督になったんですね。
このセレクトが最高でしたね。
- 市川
-
ええ。
- 池ノ辺
-
庵野監督は、最初、『エヴァンゲリオン』もあるので断ったという報道がありましたけど、どうやって口説いたんですか?
- 市川
-
3年ほど前、これはたまたま、スタジオジブリの鈴木敏夫さんの紹介で、庵野さんと食事をしたんです。
- 池ノ辺
-
その食事の場で口説いたの?
- 市川
-
いえいえ、食事の場では鈴木さんもいらっしゃるし、そんな話はしませんでしたけど、帰りに、庵野さんを送りながら、「庵野さん、『ゴジラ』って興味あります?」って聞いたんです。
- 池ノ辺
-
おお!ちらっとね。
やるわね。
さりげなくね、作戦だわね。
- 市川
-
そしたら、「まあ、なくもないですね」と言うんで、「あ、脈アリだな」と思って。
それで、後日、正式にオファーしたんです。
- 池ノ辺
-
食事のときに我慢したのがよかった(笑)。
そこでは微塵にも『ゴジラ』のゴも出さなかったのね?
- 市川
-
出さなかったんです。
- 池ノ辺
-
市川さん、えらい!
でも、庵野さんは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の企画を抱えていたわけじゃないですか、そこらあたりの調整はどうやったんですか?
- 市川
-
庵野さんも、脚本だけに関わって終わるのか、脚本とプロデュースは務めるけど現場の監督は他の方に任せるとか、いろんなオプションがあったんですけど、最終的には、脚本も現場も全面的に、全部自分でやりますと言ってくれたんです。
- 池ノ辺
-
その結果、1954年に制作された初代の『ゴジラ』に深くリスペクトする内容になったんですね。
- 市川
-
これまでのシリーズがないものとして、2016年の日本に初めてゴジラが現れたらどうなるかの物語になりました。
長谷川博己さん演じる主人公の矢口蘭堂は政治家ですが、彼が政治家として、どういう判断をして、どう日本を救っていくのかを軸にしています。
それは例えば震災のケースも想定できるし、あくまでも映画ならではの架空の想定ですが、外国に日本が攻められたら、やはり似たような決断の瞬間が起きるのではないかと。
- 池ノ辺
-
隣のライターさんが、有事が起きた時の想定の日本映画としては、戦後初の戦争映画としても見られるのではないかと言っていますが。
- 市川
-
それはすごく的を射た評価ですね。
- 池ノ辺
-
その意味で、みんな『シン・ゴジラ』を見たほうがいい。
安倍首相も見た方がいい!!
- 市川
-
もうひとつ、これは庵野さんのこだわりですが、『シン・ゴジラ』では人間ドラマは一切描きたくないと。
ハリウッド映画だと、途中で、主人公の家族が引き離されたとか、そういうエピソードが出てきますよね。
- 池ノ辺
-
ギャレス版はそうでしたね。
- 市川
-
僕たちは、そういうパターンは止めよう
作るなら政治のドラマに、それも徹底的にリアルにしようと庵野さんと、監督・特技監督の樋口真嗣さんと東宝のプロデューサー達と決めたんです。
方向性が決まると、庵野さんはそこからものすごい数の取材をし、官僚の人にも話を聞き、ジャーナリストにも聞き、そのほか、政治家、自衛隊など、映画に出てくる職業の方たちにそれはそれは綿密に取材して、それがすべて脚本と演出に生かされています。
映画の中で、一例を挙げると、政治家が総理大臣を囲んでミーティングをしている時に、官僚って、自分の省の大臣にはメモを渡したり、喋るんだけど、他の人たちとは一切会話しない。
ああいう細かいところに、見た方はリアリティを感じてくださっているようです。
- 池ノ辺
-
ヒアリングの結晶だけど、逆に言うと、秘密な部分もあるだろうに、よく、聞き出せましたよね。
- 市川
-
ええ、写真撮影が禁止の場所も多かったので、見学だけさせていただき、スタッフの記憶をもとにセットで再現しましたが、そういう積み重ねで『シン・ゴジラ』は構成されているんです。
- 池ノ辺
-
だからすごい情報量の映画なんですよね。
ヒットの要因は、一度目だけでは把握できないから、2回、3回と見に行く人が多いからだと聞いていますが、面白いのは、日本語の映画なのに、日本語字幕の上映が好評なんですって?
- 市川
-
そうなんです。
文字の情報量もすごいので。
台本だけみると、通常なら3時間になるほどの厚みなんですけど、でも、出来上がった映画は2時間になっている。
- 池ノ辺
-
別に編集でカットしまくったとかじゃないですよね?
- 市川
-
シーンはほとんどカットしてないです。
- 池ノ辺
-
テンポが早いから?
- 市川
-
登場人物がみな、ものすごい早口で語り合っているから。
たしかに有事になったら、ゆったり喋っていられないですよね。
それもリアリティだと思います。庵野さんの計算ですね。
- 池ノ辺
-
予告編についても聞きたいんですけど、特報から予告、テレビスポットまで、予告の展開も今までと違う
例えば、顔のアップで終わるとか、ドラマが続くような終わり方を作っていたり。
予告を見て、どういう内容かはさっぱりわからないんだけど、どんな映画なんだろうと強烈に思わされる。
これはまだ特撮とか映像が上がってないんだろうな〜と思ってました。
- 市川
-
セリフが全然ないバージョンは庵野さんがご自身で、編集して、繋いだ予告ですね。
だから、どこか、『エヴァ』っぽいですよね。
- 池ノ辺
-
なるほど〜。
監督が作ったんですね。
監督だからできるんだろうな〜。
これでもか〜の映像がたくさんあるのに使用してない。
逆にそれが想像を掻き立てる。マーケティングの勝利だわ。
ということで、今回は『シン・ゴジラ』の話で終始しましたが、次回は知られざる若かりし日の市川青年のお話をしたいと思います(笑)。
(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)
全国東宝系にて大ヒット公開中!
国内シリーズ12年ぶりとなる最新作『シン・ゴジラ』
脚本・総監督は、人気アニメーション「エヴァンゲリオン」
本作のゴジラは、史上最大となる体長118.
脚本・総監督:庵野秀明 監督・特技監督:樋口真嗣 准監督・特技統括:尾上克郎 音楽:鷺巣詩郎 出演:長谷川博己 竹野内豊 石原さとみ 製作・配給:東宝株式会社
(C)2016 TOHO CO.,LTD.
PROFILE
■ 市川 南(いちかわ みなみ) 東宝株式会社 取締役 映画調整、映画企画担当
1966年、東京都生まれ。1989年、東宝入社。宣伝プロデューサーとして、「ヒーロー インタビュー」(94年)「学校の怪談」シリーズ(95年~99年)、「千と千尋の神隠し」 (01年) 等。企画プロデューサーとして、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、 「永遠の0」(13年)、「シン・ゴジラ」(16年)等。2011年、取締役就任。2012年から東宝映画社長を兼務。