Jul 15, 2016 interview

松竹株式会社 映画宣伝部 宣伝企画室長 諸冨謙治 氏
第3回:まだ血気盛んな時期ですから、もうズケズケと(笑)

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池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 新シリーズ、第3回。 今回は、シネカノン入社後から相米慎二監督の遺作『風花』までの話。

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

諸冨さんが広告代理店を退社して、熱意で押し掛けたシネカノンというのは、ミニシアターブームの先駆けでしたね。

自分の会社で買い付けして、配給して、劇場も持っていて、なおかつ、日本映画の制作にまで進出し、韓国映画のブームも作りました。

まさにその上り調子の時に入ったわけですよね?

諸冨謙治 (以下、諸冨)

そうですね。

僕が入社した頃、イギリス映画の『ブラス!』など良質な作品も配給していましたが、ヨーロッパやアメリカ映画の買い付け価格が高騰してきて、シネカノンとしては、もっと違うことをやってみようという時だったんです。

ちょうど渋谷の円山町にビルを購入し、カフェや飲食店も始めようというタイミングでした。

池ノ辺

私も劇場経営もやりたかった夢の一つだったから、それを大手ではない、独立系のシネカノンが渋谷にシネ・アミューズを作った時は、やられた〜と思ったわ(笑)

その後、有楽町にシネ・ラ・セットとふたつも映画館を構えるようになって、着々と進んでいったんですよね。

で、忘れもしない、私が諸冨さんと初めて「よろしくお願いします」と最初に組んだ作品が1999年の五十嵐匠監督の『地雷を踏んだらサヨウナラ』。

諸冨さん、それまで広告をやってきた人なので、それまで宣伝一筋でやってきた他の宣伝プロデューサーとは全然違うのよ、だから強烈に覚えている。

要するに、この作品のどういういところを、どういうふうに売っていくか、ずらっと紙に書いてあって、なおかつ、図形みたいなのもあって、熱く説明するわけですよ。

私ちょっとビビッて、「これ。全部覚えないといけないの?」と驚いた(笑)。

何より面白かったのは予告編を作った時よ!

諸冨さん、主演の浅野忠信くんを呼んできて、公園で写真を撮影して、それで特報を作ったの!!画期的だった。

諸冨

そう解説していただくと美しく聞こえるんですけど(笑)、僕は当時28歳で初めて宣プロをやることになって、通常はどうやって予告編を作るのか知らなかっただけなんです。

『地雷~』は奥山和由さんが松竹退社後に設立したチーム・オクヤマの第一弾です。

1998年の1月に奥山さんが松竹の専務を解任されたことは映画業界にとどまらず話題となりましたが、僕はその時、井筒和幸監督の『のど自慢』の撮影現場で、制作部として汗水たらしてました(笑)。

今、松竹にいる僕が初宣プロとしてチーム・オクヤマ第一回作品を担当していたのも不思議な巡り合わせですね(笑)。

それはともかく『月はどっちに出ている』のメイン館が新宿ピカデリーだったという李さんと奥山さんの繋がりもあって、『地雷〜』をシネカノンが配給することになったんです。

奥山さんとしては独立後の第一弾だから気合十分で、すでに刷り上がったポスターを持参されて最初の打ち合わせにいらしたんですが、そのビジュアルが戦争映画の方向性だったんですね。

池ノ辺

ああ、浅野君が演じた一之瀬泰造さんは戦場カメラマンだったから。

諸冨

そこで僕はまだ血気盛んな時期ですから、もうズケズケと(笑)。

「全国チェーンの250館でかけるんだったらこのポスターはありかもしれませんが、この作品は渋谷のシネ・アミューズと有楽町のシネ・ラ・セットの2館から全国へ拡げる順次公開です」と。

「この2館のお客さんが何を求めているのか、奥山さんより僕のほうがずっと分かっています。

この作品は戦争映画ではなく、青春映画として売るべきです。だからポスターも撮り直します」とか言っちゃって。

まあ、今思うとなんともクソ生意気と言うか、若気の至りというか(笑)できることなら当時の自分を後ろからハリセンで叩いてやりたい(笑)。

それでも一切任せてくれた奥山さんも大人だったと思います。

池ノ辺

でも、そのポスターもカッコよかったし、予告も素敵だったのよ。

諸冨

当時、浅野君もまだ25歳で、日本映画のニューウェーブの旗手といいますか、単館系映画のヒーローで、同じ1999年の出演作が『鮫肌男と桃尻女』『双生児 -GEMINI-』『白痴』『御法度』と『地雷〜』の他に4本もあったんです。

どの作品もエッジが効いた話題作で、差別化を図らないといけなかった。

まずはポスターですが、メインターゲットである20代の男女を写真の説得力だけで惹きつけるものにしたくて、当時最高の写真家の一人、高橋恭司さんに撮り下ろしていただきました。

青春の熱気と儚さを表現したかったんです。

浅野くんが演じた一ノ瀬泰造さんは戦場カメラマンとしてカンボジア内乱を取材中、武装集団クメール・ルージュの支配下にあった遺跡のアンコール・ワットを目指して、26歳で亡くなっているんです。

「一ノ瀬さんが行方不明」と日本で報道された日が1973年11月27日で、その日がまさに浅野君がこの世に生まれた当日だった。

しかも『地雷〜』の公開直前の11月27日が浅野君26歳の誕生日で。一ノ瀬さんと浅野君は顔もどことなく似ていて、まるで生まれ変わりだね、って本人とも話していたくらいです。

池ノ辺

それで、そのことを広告展開として打ち出したのですね、覚えてるわ。

諸冨

マスコミ向けのプレス資料を作るに当たって、ドミュメンタリーフォトの名手で写真家の小林幹幸さんに浅野君のポートレート撮影とインタビューをお願いしたんですが、そのとき池ノ辺さんにも撮影に同行して、録音を回しておいて欲しいとお願いしたんですよね。

はるか昔の伝説の人物ではなくて、かつて自分達と同じくらいの年齢で可能性のすべてをかけて、カメラ1台持って海外に飛び出して、結果的に亡くなってしまった人がいた。

浅野君が、そんな一ノ瀬泰造という人にどんな風に共鳴して、どんな風に役と向き合ったのか。

その思いの丈を自然体で雑談風に録音して、それを予告の冒頭に使ってください、と。

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池ノ辺

そうそう。

それでまず、浅野君演じる一ノ瀬泰造のポートレート風のスチールに音声を持ってきて、今でいう先付けみたいなのをつくってから予告の本体へと入ったの。

諸冨

予告編のなかで浅野君が思いを語る部分に、小林さんが撮影をしながら聞いているから、カメラのシャッター音がカシャカシャ入っているという(笑)。

池ノ辺

でもね、怪我の功名というか、カメラマンの物語だから、シャッター音やストロボの音が入っていて、むしろ、それのほうがよかった。

その意味で、全然、セオリーにはのっとっていない予告編だったわ。

諸冨

僕は予告編制作会社の方とお仕事をするのが初めてで、もちろん池ノ辺さんが手掛けた予告編の名作は拝見していましたけど、実際にはどうやって作っていいのかわからない。

でも毎日、劇場でお客さんの顔を見ていたから「これくらい仕掛けた方が絶対に面白いし、自分と同じくらいの20代を惹きつけるものができる」という確かな感触はあって。

「予告編で主演俳優に役への思いを語らせる」というのは、この作品だからできたことで、ある種の禁じ手かもしれませんけど。

池ノ辺

でもそれがあの作品にもシネカノンにも合っていたの。

「こんな予告編ありませんよ」「それはおかしいですよ」という雰囲気は全然なかった。

諸冨

そうなんです。

予告のプロである池ノ辺さんからも「それ、面白いね」と言ってもらえて、勇気をもらいました。

池ノ辺

あれ? そんなこと言ったっけ(笑)。

全然、覚えてない。

だからテレビスポットも『地雷を踏んだらサヨウナラ』は映画の本編の映像を一切、使っていないの。

高橋恭司さんの撮ってくれたポスターに使った浅野君のアップの写真しか使っていない。

それで15秒、そこに、浅野君の声を乗っけてるだけなんです。

諸冨さんが「予算はないから、これを夜じゃなくて、深夜にかけよう、絶対話題になるから」と。

実際、そうなったのよ。

それはやっぱり、広告代理店にいて、どう話題を作るかというノウハウを覚えていたから、形にしたということですよね。

諸冨

まあ、僕はスタートが広告だったせいか、良くも悪くも発想のベースが広告的な面はあるかもしれません。

池ノ辺

諸冨さんは本当に勉強熱心だから、阪本順治監督の『KT』のときも、韓国の歴史に始まり、北朝鮮とどういう経緯があったとか、当時の大統領の政策がどうのこうのとか、ものすごい資料を作ってきてくれて、なおかつ家庭教師のように一生懸命教えてくれるの。

で、このときも、「これ、全部、暗記しなきゃいけないのかしら?」ってちょっと受験生みたいに不安になった(笑)。

でもね、それですごい信頼が持てたから、いい予告編を作ろうと思ったのよ。

諸冨

『KT』の予告編の制作過程は、池ノ辺さんの著書「映画は予告編が面白い」(光文社新書)でも取り上げていただいたくらいで、この頃、僕、ずっと池ノ辺さんに予告編をお願いしていましたよね。

池ノ辺

そうそう!

諸冨

高橋伴明監督の『光の雨』があって、パク・チャヌク監督の『JSA』があって、『KT』があって。

池ノ辺

はい、全部、私が担当しました。

それで、中でも印象深いのが相米慎二監督の遺作となった『風花』。

諸冨

そうですね。

池ノ辺

『風花』の話はいろいろあるから、これは次回でゆっくり話しましょう!

(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)


「HiGH&LOW THE MOVIE」

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超豪華キャスト総出演で贈る、青春バトルアクション! 前代未聞の超巨編ぶっちぎりエンタテインメント!!

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©HiGH&LOW製作委員会 high-low.jp

PROFILE

■ 諸冨謙治(もろとみけんじ) 松竹株式会社 映画宣伝部 宣伝企画室長

1971年東京出身。大学卒業後、広告代理店旭通信社(現・アサツーディ・ケイ)でプロモーションを担当した後、97年シネカノンに入社。制作進行から宣伝まで主に邦画での宣伝業務を担当。2004年に東芝エンタテインメント(現・博報堂DYミュージック&ピクチャーズ)に移籍し、洋画(米国・欧州・アジア)・邦画と幅広く作品を担当。その後、CJエンタテインメント・ジャパンでマーケティングチーム長を経て、12年に松竹に移籍し、13年より現職。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「シェイプ・オブ・ウォーター」「ノマドランド」ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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