Nov 26, 2019 interview

人はなぜダークヒーローに惹かれるのか?冲方丁×又吉直樹が考える“現代社会”と“人間”

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『ジョーカー』が大ヒットした理由

――『HUMAN LOST 人間失格』はダークヒーローものになりますが、令和元年となった2019年は洋画『ジョーカー』が40億円超えの大ヒットを記録し、Netflixでは社会常識からはみ出した監督・村西とおるを主人公にした『全裸監督』が大きな話題を呼びました。なぜ、ダークヒーローがいま、人気を集めているんでしょうか?

 先ほど冲方さんが言われましたが、誰のためにデザインされた社会なのか、みんなを救うための仕組みになってないんじゃないかというのが大きいと思うんです。社会の仕組みから外れてしまった時、参考になるモデルがいないんで、もう外れっぱなしでいるしかない。それこそ“人間失格”の烙印を押されて生きていかなくちゃいけない人たちが、かなりいるってことだと思うんです。そこに新しい光の当て方、闇側から光を当てたものに多くの人たちが惹かれるのはすごく自然なことだなぁと思います。冲方さんはどう思います?

冲方 そのとおりだと思います。『ジョーカー』はまさに社会から見捨てられた一人ですから。どこにも行き場がなくて、悩みを解決する方法もそのことを相談する相手もいない。未知なる貧困が生まれつつあるので、誰にもどうしようもない。そういう時ほど、人は本を読んだり、映画を観たりしたくなるんじゃないかと思うんです。何かのヒントが見つかるんじゃないかと。『ダークナイト』(08年)がヒットしたのも、9.11の後でしたよね。

又吉 あっ、そうや。NYで同時多発テロがあった後や。

冲方 また、こういうのが支持される時代の波が来たんでしょうね。エンタメ業界だけの波ではなく、人間の心の波がそうなっているんだと思います。

――『ジョーカー』と『HUMAN LOST 人間失格』には、共通するものを感じさせます。

冲方 社会から疎外され、居場所のない人間が独自の力を身につけ、現状の社会から出ていくという物語は増えていると思います。一時期、転生ものがやたらと売れたのも、同じ社会で競争しながら生きていくことを強要されるのを嫌う人たちが多かったからでしょうね。

又吉 そんなふうにデザインされた社会構造の中で、上手くというと語弊があるかもしれませんが、真っ当に生きている人たちも、そのほかの弾かれた人たちのことを知らないわけではないから、無意識のうちに後ろめたさを感じていると思うんです。自分たちは何とかバランスよく暮らしているけれど、そうじゃない人たちもいる。中には手を差し伸べようとする人もいるけど、無自覚な人は「そうじゃない人たち」を存在しないことにしてしまったり、ちょっとした不幸な出来事は「そんな不幸自慢はいらんから」と空気を統制してしまおうとする。そうなると、ほかの人たちは声を挙げにくくなってしまう。ダメなヤツも、さらにダメなヤツになるくらいなら、目立たないダメなヤツでいようとする。目に見えない圧力が働いているのがいまの社会。そんな中に、自分たちの気持ちを代弁してくれるような存在が現れる物語があれば、みんな熱狂してしまうでしょうね。システムにうまく乗れた人もなんかしんどいし、システムに乗れなかった人も当然しんどい…。僕がそんなふうに感じている現代社会と、冲方さんが書かれた『HUMAN LOST 人間失格』の世界はすごく近いように感じますね。

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