Nov 26, 2019 interview

人はなぜダークヒーローに惹かれるのか?冲方丁×又吉直樹が考える“現代社会”と“人間”

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『火花』『劇場』に続く新刊『人間』がベストセラーとなっている又吉直樹と、SF、歴史もの、ミステリーと多彩なジャンルで活躍する人気作家・冲方丁との初めての対談が実現。又吉にとって初の長編小説となった『人間』は、太宰治の『人間失格』を聖書のように読み返す38歳の物書きが主人公。一方、冲方が脚本を担当した劇場アニメ『HUMAN LOST 人間失格』は、太宰治の『人間失格』を原案としたSFアクションとなっている。“人間失格”というキーワードで繋がった気鋭の作家二人が、太宰が70年以上前に描いた“生きづらさ”の正体に迫った。

この社会は誰のためにデザインされたのか?

――冲方作品に接すると、社会をクールに凝視している冲方さん自身の視線を感じさせます。冲方さんは少年期をシンガポールやネパールで過ごしたそうですが、日本とは異なる社会で育ったことは小説にも影響を与えていますか?

冲方 海外で暮らすには、まずその土地のルールを知らないといけないんです。下手するとその土地のタブーを破って、大変なことになってしまう。例えば、インドもそうですがネパールでは左手は不浄の手とされていて、トイレでお尻を拭く手なんです。だから、間違って左手でほかの人の頭を触ったりすると、非常にマズいんです。

又吉 あ~、知らないとうっかりやってしまうやろな。

冲方 こちらに悪意はなくても、相手がこちらを見る目が変わってきます。その社会の常識と、その常識がどのようにして生まれてきたのか歴史を学ばないと命の危険にも関わってきます。日本でも集団のルールからはみ出すと、すぐにいじめの対象になりますよね。

又吉 いじめ、起きますね。

冲方 それにどう対処するのかということを、根本的な部分から考えないといけない。それは地域の問題なのか、家庭の問題なのか、それとも社会全体の問題なのか。社会の中の個人ということは、子どものころから意識せざるを得ませんでしたね。

又吉 「社会ってどうなっているんやろう」と考える中で、「誰のためにデザインされた社会構造なんやろうか」とか疑問に感じたことはありますか?

冲方 社会を理解したうえで湧いてくる感情は、“怒り”ですね。万人のためにデザインされた社会はほぼ存在せず、特定の層が特定の利益を得ることに特化しているものがほとんどです。個人の幸福というものは、いっさい保証されません。全員の安全を保証するとなると、そこには必ず我慢しなくてはいけないことが生じます。重たい税金を課せられたり、特定の人間を尊敬することを強いられたりするんです。シンガポールだと、大学受験に失敗したら、自動的に徴兵されます。

又吉 えっ、そうなんですか?

冲方 シンガポールって、じつは古代ギリシアの都市国家・スパルタの現代版なんです。一度、身分が定まるとそこから抜け出すのが大変です。日本もそうですけど、海外は日本の比じゃない。インドにはカースト制度がまだ残っています。ある人間がある人間になるのは、そうなる環境が存在するんです。

――又吉さんも吉本興業という社会の中でサバイバルしてきたわけですが…。

又吉 吉本の場合は、先輩がいて、後輩がいて、そして社員さんがいて…と、それぞれの役割があるんです。芸人の中でもベテラン、中堅、若手と芸歴の異なる人たちがいて、それぞれがそれぞれの立場から主張する。でも、僕から見ると誰も間違ったことは言っていないし、吉本という会社もそれぞれの声を無理矢理に統合しようとはしないんです。これが無理にひとつに統合しようとしたら危ないと思いますけど、いまはそれぞれが勝手に言うことが許されているんで、その点では大丈夫かなぁと思っていますけどね。

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