エドにとってマスタングはなんかムカつくけど信頼している存在(山田)
──エドとマスタングの関係は、友達でもない、敵同士でもない、だけど心の深いところで通じ合っているように見えました。
山田 マスタングに対しては、なんかムカつくけど信頼をしている大人、という感情が一番近いのかなと。もし2部、3部と続くのであれば、マスタングのバックグラウンドを描いて欲しいなと思っていて。そうすると、この2人の関係性がよりハッキリと見えてくるし、より理解が深まるはずなんですよ。マスタングにどんな過去があって、どういう動機で上を目指しているのかというのを、きちんと見せられたらいいなという気持ちです。
ディーン エドとマスタングの関係を現実の友人関係に当てはめて考えると、毎日一緒に遊んだりはしないけど、久しぶりに会ったときにお互い必ず何かのアップデートがあって、お互いの近況を報告しあって悔しがったり、尊敬したり、そういう2人だと思うんですよ。刺激を与え合う関係、に近いのかなと思いました。
──山田さんに伺います。エドを演じる上でしんどいと感じる瞬間はありましたか?
山田 じつは最近、アニメ版でエドを演じられている声優の朴璐美さんとお食事をさせていただく機会があったんですよ。そのときに、エドを演じた者同士にしかわからない苦しみ、辛さ、苦労、色々なことがあるよね、という話で盛り上がりました。エドを演じていると全てを持っていかれるような感覚があって、自分の中にあるものをむき出しになるような気がするんです。小手先の演技が通用しないから自分の中にあるものを爆発的にボンッと瞬時に出せないと、エドという役を演じることが出来ないというのは、撮影に参加して初めて得た体験です。果たしてそれがちゃんと出来ていたのか、合格点に達していたのかは、僕が判断することではなく、見てくれた方が決めること。今の僕に出来ることは全部出したつもりです。
──声色なども意識して変えられていましたか?
山田 声色や発声は変えているつもりではいました。ただ、朴さんからエドに対する思いを伺ったら、もう一度アフレコをさせてくださいと監督に無理を言いたくなったくらい全然足りていなくて。朴さんは何年間にも渡ってエドでい続けた方なので、どんなに僕がエドを好きでも、当たり前ですけど僕なんて足もとにも及ばないです。でも、日本中を探してもエドを演じたのは朴さんと僕しかいないので、2人にしかわからない感覚があるんだと思うし、それを共有できたことを嬉しく思います。
──ディーンさんは、マスタングを演じる上で大切にされていたことはありますか?
ディーン 設定上、善人なのか悪人なのかわからないキャラクター故に、感情が無いように見えたりもする。でも実は、(佐藤隆太さん演じる)ヒューズや、エドとアルに対する強い気持ちもあって。1人の人間の中にある葛藤、そして意思を持って前に進んでいるというバランス感覚は大切にしたいと思いました。あとは、最初に原作を読んだときに、マンガって同じキャラクターでも人間の姿形をしているかと思ったら、ギャグのシーンでは3頭身になったりするじゃないですか。
山田 ありますね(笑)。
ディーン ああいうのって、どう表現するのかなというのが気になっていたんですよ。そうしたら、意外と今回は大人なマスタングだったので。もしまたマスタングを演じる機会があるのならば、3頭身になるようなシーンや、バックグラウンドを見せることができたら、また別の魅力を引き出せるのかな、と。
──では、映画『鋼の錬金術師』の魅力を改めてお聞かせください。
山田 今作はファンタジーエンターテインメント超大作というのが大前提にあるのですが、人間の根っこにある弱い部分や暗い面もきちんと描いていて。悪とされている人為的に生み出された生命体であるホムンクルスですら感情があるように映るし、“人間だと思いたい”というセリフを言わせたりするんですよ。ふとしたときにキャラクターの弱い部分が表出するシーンに、心臓をグッと掴まれたようにかき乱されるはずです。そんな風に一人ひとりのキャラクターの性格やバックグラウンドが繊細に描かれているところが作品の持つ大きな魅力です。
ディーン この映画には、現実の世界と直結するようなメタファーやシンクロが多数あるんです。実写映画として生身の人間が演じるからこそ、その訴えかけがより強く観客の方にも伝わってくると思っているのですが特に僕が心に残っているのがエド&アル兄弟のエピソードなんです。初めはただお母さんに会いたいという一心で間違ったアプローチを取ってしまい、その際に負った代償を取り戻すために、自己を犠牲にして、セルフレス(無私無欲)で弟のために行動している姿に胸を打たれましたし、原作と同じエピソードも、生身の人間が演じることでまた別の角度からこちらに訴えかけてくる感情が強いと感じました。キャラクターそれぞれの緻密な描き方こそが本作の大きな魅力だと思うので、1人でも多くの方に見てもらえたらいいなと思います。
──最後に、ディーンさんのオススメの本を一冊お伺いできますか?
ディーン 台湾で活動している時代に出会った「ぼくを探しに」という絵本です。線と文字のみのシンプルな構成で、自分の欠けているピースを探して旅に出るストーリーなんです。最小限の情報のみだからこそ、胸に刺さるものがありました。僕は少しでも時間があれば音楽にウェイトをかけたいタイプなので、空き時間を見つけたら本屋さんへ行くよりレコード屋さんでひたすら音源をディグることの方がどうしても多くなってしまって。ですので、原作のある作品に出演することで新しい本やマンガに出会えることは嬉しいですね。
取材・文/加藤蛍
撮影/大川晋児
山田涼介
1993年生まれ、東京都出身。Hey! Say! JUMPのメンバーとして2007年にメジャーデビュー。2008年には「スクラップ・ティーチャー~教師再生~」で連続ドラマ初主演。以降、様々なドラマ、映画などの作品に出演し、2015年公開の主演映画『暗殺教室』で第39回日本アカデミー賞 新人俳優賞を獲得。近年の映画出演作に『ナミヤ雑貨店の奇蹟』などがある。
ディーン・フジオカ
1980年生まれ、福島県出身。香港でモデルとして活動を始め、2005年に俳優デビュー。その後、台湾に拠点を移し、数々の作品に出演。日本では2015年に放送されたNHK連続テレビ小説「あさが来た」の五代友厚役で人気を博し、日本での活躍も本格化。来年以降の公開待機作に映画『坂道のアポロン』『海を駆ける』『空飛ぶタイヤ』などがある。
映画『鋼の錬金術師』
あらゆる物質を分解して再構築する「錬金術」。幼い兄弟エドワードとアルフォンスは亡くなった母を生き返らせたいという思いから、錬金術における最大の禁忌である人体錬成に挑むがが失敗し、その代償としてエドは左脚を、アルフォンスは身体全てを失い鎧に魂を定着させた姿になってしまう。数年後、不屈の精神で立ち上がり、国家錬金術師の資格を得たエドは、奪われた身体を取り戻すため、絶大な力を持つという「賢者の石」を探す旅に出る。そして兄弟は再び“人間の命とは何か”という命題と向き合うこととなる。
原作:荒川 弘「鋼の錬金術師」(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
監督:曽利文彦
出演:山田涼介 本田 翼 ディーン・フジオカ 蓮佛美沙子 本郷奏多/國村隼 石丸謙二郎 原田夏希 内山信二 夏菜 大泉 洋(特別出演)佐藤隆太/小日向文世/松雪泰子
脚本:曽利文彦 宮本武史
音楽:北里玲二
主題歌:MISIA「君のそばにいるよ」(アリオラジャパン)
配給:ワーナー・ブラザース映画
2017年12月1日(金)全国ロードショー
©2017 荒川弘/SQUARE ENIX ©2017映画「鋼の錬金術師」製作委員会
公式サイト:http://hagarenmovie.jp
「鋼の錬金術師」全27巻 荒川弘/スクウェア・エニックス
2001年~10年にかけて「月刊少年ガンガン」で連載されていた作品。幼い頃に亡くなった母にもう一度会いたいという一心で錬金術において最大のタブーである人体錬成を行ったエドワード・エルリックとアルフォンス・エルリック兄弟。しかし錬成は失敗し、兄は左脚を、弟は全身を失ってしまう。エドワードは自分の右腕を失うことと引き換えにアルフォンスの魂を錬成して、鎧に定着させることに成功し、なんとか一命を取り留める。大切なものを失った絶望の中、兄弟は「元の身体に戻る」という決意を胸に、その方法を探すべく旅に出る。
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