若者たちへの希望とリアリティ
―― お三方の強烈な個性に食らいつく、玉城ティナさんと宮沢氷魚さんも印象的でした。
西島 ガソリンスタンドのシーンで、宮沢さんと玉城さんがシルエットで来る感じのところは、若い2人が上の世代に復讐するというか、すごく象徴的なシーンでした。
斎藤 自分も喫茶店のシーンで、宮沢さんと玉城さんが白いレインコートを着てやって来るのが、未来人が古き悪しき時代を断つじゃないですけど、何か明確に引導を渡すような瞬間を感じました。
三浦 あの若い2人は生き残ってほしいなと思って。「こんなおっさんたちは知らんわ」みたいなね。世の中は変えられないけれども、好きに生きていくぞという希望が見える2人だったからね。
―― 強烈なキャラクターたちが次々に登場し、内容も虚構性が強い作品ですが、自分の役のリアリティについては考えられましたか?
三浦 「こんな奴はいないよ」になると不味いなというところだけ意識すれば良いのかなと思っていましたね。
西島 こういうフィクション度の高い話の中で、どうやって自分自身がリアルに感じられることを探して演技をするかということは、常に意識をしていましたね。片岡(礼子)さんが奥さん役で居てくださったりとか、周りのキャストに、そのリアリティを助けてもらえたなとすごく思っています。
斎藤 撮影の序盤に、冒頭の車の中の一人一人のソロショットを撮ったんですけど、監督から「強奪が成功した達成感とか喜びとか、このあとやってくる不安を全く意識しないで、ただ無感情でそこにいてほしい」というオーダーがあって。確かに感情を敷き詰めて現場に立とうとしていた自分がいたので、この作品はそういうスタンスではないんだ、というのを実感したんです。
できあがったものを見ると、見る人によって色んな見方ができるような、それぞれのキャラクターの表情になっていたので、あのシーンを初日に撮っていただいて良かったなと思っています。
―― 完成した映画をご覧になっていかがでしたか?
三浦 自分の出ているところ以外は、試写で観るしかなかったので、こんな感じなんだと思うこととか、確かにすごく残虐なシーンが多いんだけれども――そう思わない人もいるかもしれないけれども――ここまでやると笑えるなというところもあったりして。
でも、お客さんがそれぞれどう感じるかということが一番の正解だと思うんです。ただ「面白かった」でもいいし、「あそこのシーンがちょっとね」でもいいし。「どう思った?」っていう意見を特に聞きたい映画だったなと思いますね。
斎藤 火事のシーンだったり、銃撃シーンだったり、景気のいい派手なシーンは、もうしっかり派手にぶちかますっていうところが気持ちよかったですね。それとは別に、目をこらすと見えてくる、さりげない希望みたいなものも、この作品の魅力なのかなと思います。
感情移入しづらいキャラクターたちだらけなんですけど、でも、どこか見ていくうちに、わが事というか、世界を見るような瞬間が見つかるんじゃないかなと思います。そこがこの作品のコクというか、うま味になっている気がします。
西島 今回は群像劇で全員が主役なので、冒頭以外はバラバラになって、それぞれのストーリーが進んでいくので、できあがりを見て、初めて完成した作品を知るという感じでした。僕のパートは家族がいて、ある意味で地味な話なので、他のエピソードを見ると、こんなにぶっとんだ感じなんだなって(笑)。
でも、そっちの方がこの映画の本来のテイストだと思うし、逆に僕が演った安西のところは、映画全体の中だと、ちょっと異質なのかなという気はしますね。みんなが内から湧き出る衝動みたいなもので動いている中で、安西だけは普通の感覚で動いている。だから重くなりすぎず、でも乾いた話になったのかと思って面白かったですね。
取材・文 / 吉田伊知郎
写真 / 藤本礼奈
全員互いに素性を明かさない強盗組織。彼らは、ラブホテルで秘密裏に⾏われていたヤクザ組織の資⾦洗浄現場を狙い、⼤⾦強奪の⼤仕事に成功。その後、それぞれの⽣活に戻るメンバーだったが、ヤクザ組織に追われる⽇々が始まる。ラブホテル従業員や刑事たちを巻き込み、⼤波乱の物語が幕を開ける。
監督:大森立嗣
出演:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋 / 三浦友和
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
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