Feb 27, 2018 interview

作家・中村文則×監督・瀧本智行が明かす『去年の冬、きみと別れ』制作の舞台裏

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作家と映画監督はどちらの仕事がよりハードか?

 

──中村さんの小説は悪意の存在が度々モチーフとなっていますが、映画化された『冬きみ』を観ると、人間の純粋さと悪意は紙一重の違いなんだなということが明確に感じられます。

中村 そうですね。特にこの作品はそういう面が強く出ていると思います。この映画を観て、映画監督は大変な仕事だと改めて思いました。たまに作家で映画監督をやりたがる人がいるけど、僕はやりたくないなぁ。僕にはこんな大変な作業は到底できませんよ(笑)。

瀧本 逆に僕は絶対に小説家にはなれない。シナリオを書くために1~2カ月ほどうんうんと唸っているだけで、しんどいですから。小説家は一人ぼっちで1年間も書き続けるわけですよね。担当編集者さんとの打ち合わせがあるとはいえ、それはほぼ書き終わってからのこと。僕には孤独に耐える自信がありません(笑)。

中村 確かに、映画製作はチームプレイですよね。監督個人の決断が迫られるケースは多いと思うけど、それぞれ専門のスタッフは周囲にはいるわけですからね。お互い、相手の仕事は大変に映るということですね(笑)。

 

 

──最後の質問になりますが、「otoCoto」では、クリエイターのみなさんに愛読書や最近気になった本を紹介してもらっています。お二人のおすすめ本は?

瀧本 最近読んだのは『服従』。近未来、フランスがイスラム教国家になるという奇抜な設定の物語なんです。これは映画化したいとかではなく、純粋に面白いなと思って読んだ本です。「これは映画化できそうだ、これはできそうない」なんて考えながら本を探していたら、本当に面白い読書体験はできませんから。

中村 『服従』はミシェル・ウエルベックが書いたものですね。僕も読みましたが、とても面白かった。僕が今、読んでいるのは谷崎潤一郎が現代訳した『源氏物語』です。何かきっかけがあって読み始めたわけではないんですが、何となく今が『源氏物語』を読むタイミングかなと思いまして。谷崎訳は原文に近くて主語があまりないので、決して読みやすくはないんですが、谷崎ならではの豊潤な感性があるので。

取材・文/長野辰次
撮影/名児耶 洋

 

プロフィール

 

中村文則(なかむら・ふみのり)

1977年生まれ、愛知県出身。2002年に『銃』で新潮新人賞を受賞し、小説家デビュー。04年に『遮光』で野間文芸新人賞、05年に『土の中の子供』で芥川賞、10年の『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞、16年の『私の消滅』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。14年にはノワール小説への貢献が認められ、米国のデイヴィッド・グーディス賞を日本人で初めて受賞した。映画化作品に『最後の命』(14年)、『火Hee』(16年)、『悪と仮面のルール』(18年)。処女作の映画化『銃』も18年に公開予定。

 

瀧本智行(たきもと・ともゆき)

1966年生まれ、京都府出身。2005年に『樹の海』で監督デビュー。同作は東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞&特別賞、藤本賞新人賞を受賞。雫井脩介原作のサスペンス映画『犯人に告ぐ』(07年)、間瀬元朗の人気コミックを原作にした『イキガミ』(08年)、実録映画『はやぶさ 遥かなる帰還』(12年)などの話題作を手掛ける。首藤瓜於原作の『脳男』(13年)、伊坂幸太郎原作の『グラスホッパー』(15年)は映像化困難とされた原作小説を見事に映画化し、監督としての手腕が大きく評価された。『春を背負って』(14年)や『追憶』(17年)の脚本にも参加している。

 

作品紹介

 

映画『去年の冬、きみと別れ』

結婚を間近に控える記者・耶雲恭介(岩田剛典)が“最後の冒険”としてスクープを狙うのは、猟奇殺人事件の容疑者である天才カメラマン・木原坂雄大(斎藤工)。世間を騒がせたその事件は、謎に満ちたまま事故扱いとされ迷宮入りとなっていたのだ。真相を暴くため取材にのめり込む耶雲。そして、木原坂の次なるターゲットは、愛する婚約者(山本美月)に――。木原坂の巧妙な罠に、婚約者、そして耶雲までもが嵌っていく…。だがそれは、危険な罠の始まりに過ぎなかった。木原坂の本当の正体とは?耶雲の担当編集者(北村一輝)、木原坂の姉(浅見れいな)の秘密とは?果たして、耶雲と婚約者の運命は――?

映画『去年の冬、きみと別れ』
原作:中村文則『去年の冬、きみと別れ』(幻冬舎文庫)
監督:瀧本智行
脚本:大石哲也
出演:岩田剛典、山本美月、斎藤工・浅見れいな、土村芳/北村一輝
主題歌:m-flo 「never」(rhythm zone / LDH MUSIC)
配給:ワーナー・ブラザース映画
2018年3月10日(土)公開
©2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/fuyu-kimi/

 

原作紹介

 

『去年の冬、きみと別れ』中村文則/幻冬舎文庫

ライターの“僕”は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も、全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか?それは本当に殺人だったのか?“僕”が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は実は…。2013年に中村文則が発表したベストセラー小説で、中村サスペンス最高傑作との呼び声も高い。先の読めない展開に、目の肥えた書店員たちに「この小説は化け物だ」と言わしめた話題作。“2014年本屋大賞”にもノミネートされた。

 

中村文則さんが読んでいる本

 

『潤一郎訳 源氏物語』谷崎潤一郎(訳)/中公文庫

文豪・谷崎潤一郎の小説は、句読点を省いた『春琴抄』など作品世界へ入っていくのが容易ではない作品も少なくないが、その分一度ハマるとねっとりとした独特の文体に陶酔していくことになる。世界最古の長編小説として知られる紫式部の『源氏物語』の谷崎潤一郎訳もそのひとつ。平安時代の貴族たちが織り成すきらびやかなロマンスが、格調さを失うことなく、現代訳へと美しくトレースされている。大人の教養としてたしなみたい。

 

瀧本智行監督のオススメの本

 

『服従』ミシェル・ウエルベック(著)、大塚桃(訳)/河出文庫

フランスの作家ミシェル・ウエルベックが2015年に発表した近未来小説。物語は2022年のパリから始まる。フランス大統領選は、右翼政党と穏健派イスラム政党との決戦投票となり、フランス史上初のイスラム政権が誕生するという驚きのストーリーだ。イスラム政権が敷かれ、街に平穏が訪れる一方、女性のミニスカート着用は禁止され、義務教育は短縮されるなど、フランス社会のイスラム化が進んでいく。タイトルの『服従』とは、イスラムの本来の意味である「神への絶対服従」を指したもの。フィクションと思えないリアリティーのある内容に引き込まれる。