『ハンナ・アーレント』(2012)でタイトルロールを演じたバルバラ・スコヴァ。ナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判に立ち合い、世間が望む悪を断罪するレポートではなく、“悪の凡庸さ”を揺らぐことなく主張し続けた女性を演じるのを見て「ファンになりました!」。そう伝えるとスコヴァ氏は少し呆れたように笑いながら「今日は『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』のインタビューでしょ?」と早く質問するよう促した。演じる作品からの印象もあり、筆者の中のバルバラ・スコヴァ像は“鋼鉄の意思を持つ女性”だ。本作で彼女が演じるニナも“鋼鉄”とまでは言わないものの強い意思を持っている。
アパルトマンの最上階、向かい合ったふたつの部屋に住むニナとマドレーヌ(マルティーヌ・シュヴァリエ)は、30年近く愛し合っている。年齢は70代。ニナは独身だが、マドレーヌにはつい最近亡くなった夫との間にそれぞれ家庭を持つ2人の子どもがいる。マドレーヌは近々部屋を売却してニナとイタリアに移住したいと考えているが、それには家族の同意も必要だ。しかしマドレーヌはニナとの関係を家族に話していない。2人の秘めた恋に次々と障害が立ちふさがる。
―― フィリッポ・メネゲッティ監督は、この作品を秘密裏に愛し合う女性たちの映画として撮りたかったとおっしゃっていました。スコヴァさんは早い段階からこのプロジェクトに加わったとうかがいましたが、その理由と経緯を教えてください。
それほど早くはありません。オファーが来たとき、私はアメリカでドラマ「12モンキーズ」の撮影中でした。マドレーヌ役をやったマルティーヌ・シュヴァリエさんも舞台の仕事中だったと思います。まず台本を送ってもらい、読むととても素晴らしかった。それで承諾の連絡はしたものの、まだ「12モンキーズ」の撮影が続いていたので、結局、クランクインは遅らせてもらうことになったんです。待っている間にメネゲッティ監督は台本に手を加えたそうです。私に合わせてキャラクターを少し濃くしたのだと聞いています(笑)。
―― 具体的には?
詳しいところまでは聞いていませんが、どうやらニナが自動車のライトを破壊するシーンは、私のキャスティングが決まってから書き加えたそうです。たぶん彼には、私が車を壊すような人間に見えているのだと思います(笑)。