Apr 08, 2022 interview

秘密裏に愛し合う女性たちを描く『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』主演のバルバラが語る“秘密”を枷にした関係性

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―― マドレーヌは秘密を子どもたちに伝えるテーブルに、何度もつこうとしますがうまくいきません。結局、一度ニナと破局し、病を発症し、家族の崩壊があって、それでやっとみんながテーブルにつくのかどうか考え始める。何においても話し合いのテーブルに全員つかせるのは難しいことなのだと感じさせる映画でもありました。テーブルにつくことなく崩壊が起きるところは、まるでロシアによるウクライナ侵攻の暗喩にさえ感じられます。

映画の最後のほうで娘が病床の母マドレーヌに声をかけるところがあります。私はそのシーンを、娘が母親に対して心を開きかけたと解釈しています。でもマドレーヌの病気は治るかどうかも分かりませんし、ハンディキャップを負ったままになるのかもしれない。ニナとマドレーヌが望んでいたようにローマに行けるかも全く分からない。映画は全てオープンにしたまま終わります。

この家族に関していいますと、私は既に交渉のテーブルにつかせる時期を過ぎていたと思います。長い間、嘘をつき通してきたマドレーヌは、それを隠すためにさらに大きな嘘をついてきたはず。家族それぞれの立場がどんどん離れてしまっている。隔たりが大きくなればなるほど話し合いのテーブルにつかせるのはとても難しいと思います。

ウクライナの問題についても一言申し上げると、(ウクライナがそうする可能性は極めて低いが)プーチン大統領は以前からウクライナがNATOに加盟することに反対していました。一方、ロシアの動きを懸念するアメリカは、ポーランドとチェコにミサイルを配備するなどしてきたわけです。話し合いをしないうちに両者の立場はどんどん離れてしまった。交渉のテーブルにつくようもっていくのが難しいのは当然だと思います。

マドレーヌやその家族、ニナたちも、小さな嘘や秘密を重ねるうちにどんどん距離が開き、溝を大きくしてしまった。歴史を振り返るに、残念ながら人も国も何かカタストロフィックなことが起きなければ変化を決意できないのかもしれません。それは、気候変動にしても同じこと。本当のカタストロフィーを体験しなければ、人間の行動は変わらないのではないかと思います。私の個人も、痛みを伴うひどい状況にならない限り、なかなか変われないように。

秘密裏に愛し合う女性たちを描く『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』主演のバルバラが語る“秘密”を枷にした関係性

―― おっしゃる通りです。でも、願わくは溝が深くならないように人間関係を保ち、大災害が起きずとも変化できるように生きたいものです。さて、70代のニナとマドレーヌの恋愛関係を演じるにあたり、シュヴァリエさんとはどういう温度感のカップルとして成立させようと相談されたのでしょう?

単に精神的な愛だけではない、つまりセクシュアルな関係でもあると表現しようと考えました。ディテールに関してメネゲッティ監督は細かく演出することはありませんでしたが、私たちは性的にもパッションを持った関係にしたいと思いました。そのことは、ニナもアパルトマンを持っているのにほとんどマドレーヌの部屋で過ごし、自分の部屋は内装も家具もない状態であることが物語ります。

もうひとつ空っぽのニナの部屋が示すのは、彼女は本気でマドレーヌと一緒にイタリアに行こうとしていたことです。マドレーヌがすべてに片をつけて一緒に来てくれるのを待っていたのだと。旅行業を営んでいたニナは仕事上、大都市のほうが働きやすかったと思います。でも小都市を選んだのは、すべてをマドレーヌに捧げたから。老いてはいますが、今も2人が性的に緊密な関係を持っていることも愛の深さを示すものです。

さらに言いたいのは、社会が、高齢の女性のセクシャリティを奪いがちだということについて。またはセクシャリティを持っていないように接するというか。しかし、そうではありません。幾つになっても人には自分の性を生きる権利がある。セックスシーンを演じたのは、そのことに対するアンチテーゼでもあるんです。

秘密裏に愛し合う女性たちを描く『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』主演のバルバラが語る“秘密”を枷にした関係性

取材・文 / 関口裕子

プロフィール
秘密裏に愛し合う女性たちを描く『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』主演のバルバラが語る“秘密”を枷にした関係性
バルバラ・スコヴァ(Barbara Sukowa)

俳優

1950 年2月2日、ドイツ、ブレーメン生まれ。ベルリンのマックス・ライハルト演劇学校で演技を学んだ後、1971年に舞台デビューを果たす。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーのTVシリーズ「ベルリン・アレクサンダー広場」(80)でドイツ最優秀若手女優賞を受賞後、翌年に再びファスビンダーと組んだ『ローラ』では、ドイツ映画賞主演女優賞を受賞した。その後、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『鉛の時代』(81)でヴェネツィア国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞、同監督の『ローザ・ルクセンブルク』(86)ではカンヌ国際映画祭にて最優秀主演女優賞に輝く。同じくトロッタ監督の日本でもヒットした『ハンナ・アーレント』(12)では、ドイツ映画賞主演女優賞、バイエルン映画賞主演女優賞を受賞している。本作では、2021年セザール賞と国際シネフィル協会賞にて主演女優賞にノミネートされたほか、リュミエール賞で主演女優賞を受賞。1990 年代からは、ニューヨークを拠点に歌手としても活躍している。最新作には、ドン・デリーロの小説「ホワイト・ノイズ」をノア・バームバック監督が映画化、アダム・ドライバーが主演する『White Noise』と、サルバドール・ダリの伝記映画『Dali Land』(メアリー・ハロン監督)では、妻ガラ役でベン・キングズレーと共演するなど話題作が公開を控える。

作品情報
秘密裏に愛し合う女性たちを描く『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』主演のバルバラが語る“秘密”を枷にした関係性
映画『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

南仏モンペリエを見渡すアパルトマン最上階、向かい合う互いの部屋を行き来して暮らす隣人同士のニナとマドレーヌは、実は長年密かに愛し合ってきた恋人同士。マドレーヌは不幸な結婚の末に夫が先立ち、子供たちもいまは独立、家族との思い出の品や美しいインテリアに囲まれながら心地よく静かな引退生活を送っている。2 人の望みはアパルトマンを売ったお金で共にローマに移住すること。だが子供たちに真実を伝えられないまま、時間だけが過ぎていく。そして突如マドレーヌに訪れた悲劇により、 2 人はやがて家族や周囲を巻き込んで、究極の選択を迫られることになる。

監督:フィリッポ・メネゲッティ

出演:バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、レア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ、ジェローム・ヴァレンフラン 

© PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTÉMIS PRODUCTIONS – 2019 

2022年4月8日(金) シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開

公式サイト deux-movie.com