Oct 19, 2016 interview

本屋大賞、日本アカデミー賞受賞作『舟を編む』が初のアニメ化!黒柳トシマサ監督×森彬俊ノイタミナ編集長インタビュー

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意欲的なアニメ作品を多数製作して幅広い層から支持されているフジテレビのアニメ放送枠“ノイタミナ”。10月13日より放送されているノイタミナの期待の新番組は、本屋大賞を受賞した三浦しをんの人気小説をアニメ化した『舟を編む』だ。otoCoto取材班は監督の黒柳トシマサとノイタミナ編集長の森彬俊のインタビューを敢行。番組作りのこだわりなどをじっくりと語り合ってもらった。

 

──まずは『舟を編む』のアニメ化の経緯から教えていただけないでしょうか。

 そもそもゼクシズ(『舟を編む』のアニメーション制作を担当)の新宅さん(新宅潔。ゼクシズの代表取締役、プロデューサー)と何か一緒にノイタミナでやれたらという話を3年ぐらい前からしていたんです。いよいよやりましょうということになって黒柳さんにいろんな企画をご提案させていただいたら、黒柳さんは「なんでもやりますよ」と言ってくださるものの、どうも興が乗らないようで(笑)。

黒柳 (笑)。

 そんな中、『舟を編む』をアニメにできるんじゃないかということで、黒柳さんにご提案したところ、もともと大ファンでいらして今までにない熱の入った快諾をいただいて(笑)。それで作品が動き出したんです。

黒柳 もともと三浦しをんさん原作の映画『まほろ駅前多田便利軒』も見ていて、その流れで映画『舟を編む』も見て、小説も読んで本当に面白いなと思っていたんです。映画のほうは最近では珍しくフィルムで撮っていて、その画面の暗さなんかも面白いなと思って、アニメーションでもそうしたことをできないかと、今回の話とは全然別のところで絵作りの実験もしていたんです。

──個人的に原作小説も映画版も大好きなんですが、アクションがあるわけでもなく、淡々としたストーリー展開が持ち味の『舟を編む』はアニメにしやすい題材なんでしょうか?

黒柳 そういうことはあんまり考えてないです(笑)。どちらかと言うと、僕も普段から地味だと言われてますし、僕自身が好きな映画も山田洋次さんや小津安二郎さんの作品で、ああいったものをアニメーションで作れないかなと思っていたので。ただ、森さんからは日常芝居だけではなく、少しアニメーションらしい表現も入れてほしいと言われて、そちらのほうをどうしようかといろいろと考えました。

 たしかにアニメに向いてる題材ではないところもあるんですが、逆に言うとすべての監督が手がけられる作品ではないと思うんです。でも、黒柳さんには非常に向いている作品だと思いました。

 

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──森さんは『舟を編む』にどういった印象を?

 非常に普遍的な話だと思いました。万人が共感しうる作品で、映像化することにも勝算があるなと。

──三浦しをんさんとはどういったお話をなさったんですか?

 ぜひアニメ化させていただきたいと話をした際に、三浦さんの作品としては初アニメ化なので、「本筋は変えませんが、よりいい形にするために少し調整させていただきたい」という表現方法についてもお話ししました。黒柳さん、ゼクシズさんでアニメ化という話もしました。

──三浦しをんさんが三宅隆太さん(映画監督、脚本家、スクリプトドクター)と先日トークショーを行った際に、「シナリオを拝読するときに気にするポイントは、『ストーリー展開や描写が原作に忠実か』ってところではまったくないんですよね」とおっしゃっていたのが印象的でした。では、三浦さんは今回のアニメ化について、どういったことにこだわったんでしょうか?

 辞書を作っている方々に対する尊敬の気持ちから、そういった方々に対しての嘘みたいなことは入れたくないということだったと思います。『舟を編む』という作品がキャラクターたちに託しているのが、辞書を作っている人たちへのリスペクトなので、その軸がぶれなければアレンジを加えることを許容していただけました。

黒柳 そうでしたね。

 それから「文章のセリフだったらわかるけど、映像で声になったときに伝わるんでしょうか」という視聴者の方への気づかいもすごくなさっていましたね。

黒柳 辞書はなぜ必要かという問いに、人と人との相互理解のための一助となるものとしてあるんだという答えが作品内で出てくるんですね。つまり、相手の言葉づかいをいかに正確にとらえるか、同時に相手にいかに正確に言葉で伝えるかということが、お互いを理解するために必要ということだと思うんです。だから、三浦さんも言葉の扱い方に気をつかって、「このセリフは誤解を招くんじゃないでしょうか」というアドバイスをくださったんです。我々が気づかないところに気づいていただいて、本当に助けていただいてるなと感じました。

──原作からのアレンジでは、主人公・馬締(まじめ)と西岡(馬締の先輩となる辞書編集部員)の出会いが描かれたり、原作以上に西岡の存在がフィーチャーされているように感じました。

 

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黒柳 馬締と西岡のふたりが主人公なんだという意識は制作のスタート地点からありました。

 最初にスタッフ間で共有した大きなもののひとつでしたね。なぜ、ふたりを主人公に据えようとしたのかと言うと、馬締はコミュニケーションが不得意だけど、言葉にはすごく深くのめり込める。それに対して、西岡は言葉に入り込むのは不得意だけれどもコミュニケーション能力は高い。その対比を描くことで、だいたいの人々の問題はカバーできる。

──たしかに、誰しも馬締的な要素もしくは西岡的な要素を持っていると思います。

 馬締は自分に合わない営業部から自分に合う辞書編集部に異動してきて、初めて自分の仕事を見つける。一方の西岡は仕事が楽しくなってきたんだけど……という対極のシチュエーションや性格を描けるというのが、ふたりを主人公にした理由のひとつですね。

──ところで、黒柳監督はノイタミナ作品を監督するのは初めてですが、ノイタミナにどういうイメージを持っていらっしゃったんですか?

黒柳 オシャレなすばらしい作品がいっぱいで、僕からは遠い場所だな、と(笑)。

 絶対そんなこと思ってないでしょ!(笑)

──「ノイタミナ枠だからこうしよう」みたいな意識は?

黒柳 あんまりないですね。そんなに器用ではないので何を作ってもこうなるんだっていうところもあります(笑)。

新宅(ゼクシズ代表取締役) 作品に真摯に向き合うということで言えば、放送枠がどこでも一緒だ、ということですよね?(笑)

黒柳 そういうことです。今のは僕が言ったことにしてください(笑)。

──(笑)。森さんとしてはノイタミナカラーというものは作っていきたいんでしょうか?

 もちろんノイタミナカラーというものはあるんですけど、それをクリエイターの皆さんに強要するということではなく、結果的にノイタミナっぽい作品になったねというのが一番ハッピーだと僕は思っています。『舟を編む』という作品もノイタミナじゃないとできない企画なので、それをみんなで魂を入れて作っているという時点で充分にノイタミナらしさが出ていると思います。

──『舟を編む』は辞書作りを描いた作品ですし、『otoCoto』は本も扱うサイトなので、本についてもおふたりにお聞きしたいと思います。森さんは本を読むとき映像化できるかどうか意識なさいますか?

 最初だけは意識します。でも、読み始めたら、それは忘れちゃいますね。監督はどうですか? 本を「これってアニメ化したら、どうだろう?」って視点で読みます?

黒柳 そういう視点では読まないですね。

──では、アニメ化などは抜きにして、最近読んで面白かった本を教えていただけますか?

黒柳 僕は今、家に帰ると芥川龍之介の全集を読んでます。学生のころからずっと本を読んでいて、そのころに夏目漱石全集と太宰治全集は読んでいたんですが、そう言えば間の芥川龍之介は読んでなかったなと思って。芥川龍之介の作品は散文詩に近いような小説なんですけど、散文詩的にコンテを描いたらどうなるかということを思いながら芥川にハマっています。

──散文詩的なコンテ? ちょっとイメージしづらいです。

黒柳 そうですよね。僕にしかまだわかってないんですが(笑)。

──芥川作品で特にお好きなのは?

黒柳 まだ全集を読んでる最中なので、全部を網羅はしてませんが、『歯車』など後期のものが特に好きですね。芥川は瞬間瞬間を描いていて、一時のことを描いているんだけど、それがそのキャラクター自身の全人生のことを描いていたりして、そこを自分の中に吸収できないか研究途中です。芥川の前は向田邦子をずっと読んでました。芥川とはまた全然違う魅力がありますよね。

──向田邦子はエッセイの名手でもありますが、小説とエッセイ、どちらがお好きですか?

黒柳 どちらも好きですね。向田邦子の脚本集を読むのも好きです。小説だと『思い出トランプ』はアニメーション化したら面白いだろうなと思います。

──森さんは最近読まれて面白かった本は何ですか?

 最近読んだのだと、ちょっと昔の小説なんですけど、ディーン・R・クーンツの『ウォッチャーズ』っていう犬の話がすごく面白くて。映画化もされていて映像化も向いてると思うんですけど、単純にお話としてエンタメのいいところが全部詰まっていると思いますね。

──ちなみに、ノイタミナで海外小説をアニメ化する可能性はあるんでしょうか?

 面白ければ、全然あるんじゃないですか。ノイタミナには「これはダメ」というような制約はないので。

 

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──最後に『舟を編む』の見どころを教えてください。

黒柳 とにかく作るのが楽しくて仕方ない作品です。『舟を編む』を知ってから辞書を見ると、紙もフォントも語釈(言葉の解説文)も全部誰かが作ってるんだということを意識するようになりました。辞書に限らず、テレビのバラエティ番組を見ても「このテロップも誰かが作ったんだ」と思える。いろんなものが作られているということが見えてきたんです。

──アニメもいろんな人が作ったものでできていますよね。

黒柳 1枚1枚動きを描いているわけですから。「その作っているということを画面を通して見せるにはどうすればいいんだろう?」「あんまりデジタル的な加工をせずに素の状態で見せればいいんじゃないか」ということは『舟を編む』の絵作りの出発点にありました。そういうふうに「作る」ということを意識し始めると、道具1個1個に物語が感じられて、自分たちが何気なく過ごしている生活の向こう側には誰かしらの努力があるんだということがわかる。この作品は、そういったことに気づく一助になるんじゃないかなという気がしています。『舟を編む』を見て、自分も何かをやりたいと思うとっかかりになってくれたら嬉しいですし、がんばっている人たちが「俺たちもこういうふうにがんばってるんだ」と共感できる作品になったらいいなと思います。

 監督の発言がすばらしかったので、これで締めていただいたほうがいいと思うんですが(笑)。第1話を見ていただいたらわかると思うんですが、盛りだくさんなんですよ。中心となるドラマもきっちりと描いていますが、サブコーナーである『教えて!じしょたんず』(本編の間に挟まれるコーナー。辞書を擬人化した可愛らしいキャラクターたちが辞書について解説してくれる)だったり、エンディングの後のCパートでのショートコント的なギャグパートもあって、オープニングとエンディングにもいい楽曲があって、毎回見た後の満足感が高いコンテンツに仕上がっていると思います。サブコーナーなどで遊べているのは、それだけ中心となるドラマが強いからです。そこに真摯に監督が向き合っている。そのドラマを追っていただきたいですね。

 

取材・文/武富元太郎

 

Profile

 

黒柳トシマサ(くろやなぎとしまさ)

1980年11月14日、愛知県出身。アニメーション演出家。2004年にアニメーターとしてアニメ業界入りし、多くの作品で原画、演出を担当する。これまで監督として手がけた主な作品は『少年ハリウッド』『「英雄」解体』など。

 

森彬俊(もりあきとし)

1985年6月19日、宮城県出身。株式会社フジテレビジョン総合開発局アニメ開発部所属。2014年にフジテレビの深夜アニメ放送枠“ノイタミナ”をプロデュースする“編集長”の2代目に就任。これまでプロデュースした主な作品は『PSYCHO-PASSサイコパス2』『乱歩奇譚Game of Laplace』など。

 


 

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●作品レビュー

『風が強く吹いている』『まほろ駅前多田便利軒』など映像化作品も多い三浦しをんにとって初のアニメ化となる『舟を編む』。作品の舞台となるのは出版社・玄武書房の辞書編集部。編集部は国語辞典『大渡海』の制作に乗り出そうとしていたが、部を率いるベテラン荒木の定年が間近に迫っていた。荒木は辞書の監修を担当する老学者・松本に「後継となる社員を探します」と約束するが、なかなか有望な人材が見つからない。そんなとき、編集部のチャラ男・西岡は口ベタで空気の読めない営業部の馬締と出会う。荒木は馬締に辞書作りの才能を感じとり、辞書編集部に引き抜こうとする……。キャストには櫻井孝宏、神谷浩史、坂本真綾と実力と人気を兼ね備えた豪華な声優陣がそろった。監督は前作『少年ハリウッド』で意欲的な作品作りを高く評価された黒柳トシマサ。

原作/三浦しをん(光文社文庫刊)
キャラクターデザイン原案/雲田はるこ
声の出演/櫻井孝宏、神谷浩史、坂本真綾、金尾哲夫、麦人、榊原良子
監督/黒柳トシマサ
シリーズ構成/佐藤卓哉
キャラクターデザイン/青山浩行
美術監督/平間由香
音響監督/長崎行男
音楽/池頼広
アニメーション制作/ZEXCS
制作/玄武書房辞書編集部
公式サイト/http://www.funewoamu.com

フジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24:55~放送中 他各局でも放送中
※都合により放送曜日、時間、開始日が変更になる可能性がございます。
(C)玄武書房辞書編集部

 


 

原作紹介
『舟を編む』 三浦しをん/光文社

2012年に本屋大賞を受賞した三浦しをんのベストセラー小説。15年かけて1冊を完成させる辞書作りを通じて、辞書にかかわる人々のドラマを描く。主人公の馬締の一人称が「俺」である点など、アニメや映画版とは少し違った馬締像が味わえる。巻末では馬締がヒロインの香具矢に送った恋文を、先輩の西岡と新人の岸辺のツッコミとあわせて掲載するなど、三浦のサービス精神が遺憾なく発揮されている。2013年には松田龍平主演で映画化され、映画版は日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞した。

 

関連作品

 

『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん/文藝春秋

2006年に直木賞を受賞した三浦しをんの小説。ワケありな便利屋の中年男2人を主人公に脱力系ハードボイルドとも言うべきストーリーが展開される。東京のはずれの“まほろ市”で便利屋を開いている多田のところに突然、高校時代の同級生の行天が転がり込んでくる。行天と共に仕事をこなす多田は、きな臭い事態に巻き込まれていく……。映像化も多い三浦だが、本作も瑛太を多田役、松田龍平を行天役に迎えて映画・ドラマ化されている。

 


 

『【羅生門 他】芥川龍之介 全3巻セット』 芥川龍之介/岩波書店

1927年に「ぼんやりとした不安」によって自ら死を選ぶまで短編小説を中心に多くの作品を残した芥川龍之介。作家として生きていく上での転機となった『鼻』から、文壇での地位を確立させた『羅生門』、そして「自らの一生にくだした総決算」とも評される最晩年の『或阿呆の一生』まで、代表作を中心に27編を収録。収録作品は『羅生門』『鼻』『芋粥』『蜘蛛の糸』『杜子晴』『トロッコ』『歯車』『或阿呆の一生』など。

 


 

『思い出トランプ』 向田邦子/新潮社

『寺内貫太郎一家』や『阿修羅のごとく』などのドラマの脚本家としてだけでなく、小説家・エッセイストとしても活躍した向田邦子。最近では黒柳徹子の若き日を描いたドラマ『トットてれび』でミムラが向田役を演じたことでも話題を呼んだ。その向田の小説家としての代表作である『思い出トランプ』。直木賞受賞作の『花の名前』『犬小屋』『かわうそ』を収録した短編集で、浮気相手だった部下の女性の結婚式に妻と出席する男の姿などを描いている。

 


 

『ウォッチャーズ』 ディーン・R・クーンツ/文藝春秋

スティーヴン・キングと並ぶモダンホラーの旗手として知られるが、キング同様にホラーに留まらず、SF、ミステリー、サスペンスなど幅広いジャンルの小説を手がけるクーンツ。『ウォッチャーズ』は犬好きのクーンツならではのエンタメ小説。孤独な中年男トラヴィスは、森の中で高い知性を感じるゴールデンレトリーバーを拾い、アインシュタインと名付ける。やがて、アインシュタインが恐れる“怪物”が彼らのもとに迫ってきて……。

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