作家・伊集院静の短編をもとに、『トニー滝谷』(04年)や『そこのみにて光輝く』(14年)などの秀作を送り出してきた制作プロダクション「ウィルコ」代表の橋本直樹が監督と脚色を務めた映画『駅までの道をおしえて』。愛する者との永遠の別れや少女の成長を心温まるタッチで描いた本作で、少女サヤカ(新津ちせ)の父親役を演じた滝藤賢一に、この作品を通して感じたことや、影響を受けた名優たち、今後挑戦してみたい役などを聞いた。
“贅沢な体験”ができた現場
──本作のお話を受ける際に一番惹かれたのはどんなところだったのでしょうか?
ふたつあって、まずこの映画のプロデューサーを務めるオシアウコくんとは、無名塾(仲代達矢主宰の俳優養成所)時代に1年間、一緒に芝居をしていたことがあるんです。キツい日々をともに過ごした彼が映画をプロデュースするというならばぜひ参加したいと思いました。それからもうひとつ、大きな魅力だったのが(サヤカの母親役の)坂井真紀さんとの共演。坂井さんは僕がこの世界に入る前から活躍されていて大ファンでしたから。ぜひ一緒にお芝居がしてみたかったんです。昔、仲代達矢さんの付き人兼運転手をやっていたのですが、仲代さん主演の2時間ドラマで坂井さんがヒロイン役をやられたことがあるんです。その時に初めてご挨拶させていただいたんですけど、すごく素敵な女優さんだなという印象だったので、今回ご一緒できて嬉しかったですね。
──坂井さんとのお芝居はいかがでしたか?
撮影の前に部屋のセットで1時間ぐらい一緒に過ごさせていただいたんですけど、坂井さんから気さくに話しかけてくださったので、自然と関係性作りができたように思います。その時間で“パパとママ”になろうと意識していたわけではなかったのですが、坂井さんや新津ちせちゃんとの何気ない会話のおかげで自然に家族になれたというか。共演者の方とそうした時間を過ごせる現場はなかなかないので、贅沢な体験をさせていただきました。
──娘のサヤカを演じた新津さんは犬のルーと実際に生活をともにして、撮休を挟みつつも四季に合わせて1年にもわたる撮影に挑まれたと聞きました。そんな新津さんの成長は現場でも感じましたか?
すごく感じました。見た目はもちろんですが、表情からなにから数か月の間で大きく成長していましたし、撮休の期間もサヤカとして生きていたんだと思うくらい、現場ではサヤカそのものでした。この間、久々に名古屋でのキャンペーンでお会いしたら、撮影当初の子どもらしい新津さんに戻っていたので不思議でしたね。
──ちなみに滝藤さんは子どものころに、サヤカのようにご両親にペットを飼いたいと懇願したことはありますか?
犬を飼いたいと両親に言ったことはあります。でも、母親が「あなた絶対に面倒見ないでしょ」と。つけ入る隙なんてまったくなかったです(笑)。子どものころに実家で犬を飼ったことありますか?
──うちは子どものころに、父親が突然犬を拾ってきて育てていました。
そういう経験をした人間とそうじゃない人間とでは、何かがちょっと違う気がするんですよね。人間より命が短い生き物の生死を感じて育ったかそうじゃないか、それってすごく大きなことじゃないですか。だから僕は自分の子どもにはそういう経験をさせてあげたいと思っているんです。でも…、妻が猛烈に反対しているから無理なんですけどね(笑)。理由は「絶対に面倒みないから」です(笑)。母は皆、一緒ですね。