映画『雨にゆれる女』『パラダイス・ネクスト』に続き長編映画3作目となる半野喜弘監督の最新作『彼方の閃光』。主演は撮影当時、21歳だった眞栄田郷敦、そんな眞栄田と旅をしながら影響を与えていく男を池内博之が演じています。さらにヒップホップクイーン、Awichが長崎のパートで映画初出演、それというのも沖縄パートに登場する尚玄さんからの紹介からだそう。しかも戦争の傷跡を辿る物語で、沖縄出身の尚玄さんが演じる【糸洲】が語る思いは胸に迫るものがあります。今回は、そんな尚玄さんにお話を伺います。
―― 尚玄さんは東京国際映画祭にもよくいらっしゃいますよね。センサーを働かせて、才能ある映画人と出会う為、映画を知る為によく観られている印象です。
今年の東京映画祭期間中は忙しくて、フィリピンの映画『野獣のゴスペル』しか観ることが出来ませんでした。前にお会いしたシェロン・ダヨック監督の作品で『義足のボクサー』のコーチ役のロニー・ラザロさんも出演されているので観に行きました。11月末に開催され、アンバサダーを務めた「Cinema at Sea – 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」では、上映される映画は出来るだけ“全部観ておこう”と決めていました。短い期間内に複数の作品を観るのは大変でしたけど、そうでないと友達に聞かれた時に「この人なら、こんな映画が好みだろうな」と薦められないと思ったんです。
―― 海外の監督やミニシアター作品に積極的に出られていますよね。
出演作品は自分で選んでいますからね。かなりpickyなのでマネージャーにしたら大変かもしれません(笑)。
―― 出演作品を選ぶポイントを教えて下さい。
やっぱり面白くなりそうなものにつきますね。若い時は、“こういう役を求められているんだろうな”というステレオタイプ的な役柄のオファーをよく頂いてたんです。例えばわかりやすくヤクザの役とか外国人役とかですね。でも今は脚本を読んで自分が演じることで面白くなりそうな役をやるようにしています。それは役の大小に関わらず。
理由としては、替えがきく俳優にはなりたくないんです。だから僕自身も自分でないといけない役を選ぶし、“僕以外の人が出来る役なら僕が演じる必要はない”と思っています。
―― 本作『彼方の閃光』の尚玄さんの役【糸洲】は、尚玄さんにしか出来ない役だと思いました。あてがきなのでは?とも思いました。
確かにそれはあると思います。特に僕が演じていた辺野古のシーンは、実際に辺野古に行き、座り込みの人たちと一緒に見た光景、僕が衝撃を受けた言葉です。これは実際に体験しないとわからない、出てこない言葉だと思います。
―― とてもリアルで、どこまでが脚本でどこまでが想いなのか分かりませんでした。半野監督のことですから“きっと尚玄さんに場を与えたのではないか?”と思いました。
監督に今回の僕の役は「絶対に台詞を上手く言わないで欲しい」と言われていたんです。「ちゃんと台詞を覚えなくていいから、自分の沖縄の方言、イントネーション、自分の言葉でたどたどしくてもいいから自分の想いを伝えて欲しい」と最初に言われました。
―― 本作を観て、沖縄=観光地というイメージを持っていた自分を恥じました。その場所には戦火の人々たちの体験が刻まれていて、私たちはそれを知らずに楽しげに自然に踏み込んでいたんだと。そんな経験は今までなかったです。
映画を観て、そう感じてくれるのは嬉しいです。沖縄はニュースも新聞も常に基地問題や戦争についての記事で溢れています。僕らは四六時中、それについて考えさせられる状況にある反面、当たり前すぎてある意味麻痺してしまっている部分があると思います。何故ならそうさせないと生きていくのに辛すぎるから。本作に出演するに当たり、僕はその部分を呼び起こさないといけないと思って、沖縄戦の映像やドキュメンタリーをもう一度見直しました。もう一度自分の中で喚起させて、そこから湧き起こる感情を一度排除してから、眞栄田郷敦さん演じる主人公【光】と池内博之さん演じる【友部】に語りました。