―― そうですね。偏ってはいけないと思います。お父様の三國連太郎さんを筆頭にこれまで共演された先輩たちから刺激を受けたことなどあれば教えて下さい。
若い頃は、当たり前のようにアウトローな役者に憧れました。先輩である彼らを見ながら自分なりに少し違う感じを生み出したりもしました。その時々で影響を受けるものも違ってくるので面白いですよ。
ただ一つだけ、「カラオケで点数が取れるような芝居をするのは辞めよう」と思っています。カラオケマシーンで100点を取るような芝居ではなく、カラオケマシーンで凄く音程が外れていても、それでも聴ける歌があるようにそれと同じような芝居をする。
実は最近若い役者に聞かれたんですよ。その時に「テレビに出てカラオケマシーンで100点取る様なそんな芝居をするんじゃないぞ。そんなのどんなに上手くても人には何にも届かない」と言ったんです(笑)。
―― 「台詞も上手く喋ろうとするな」ということですね。
そういうことです。
―― 息子さんの寛一郎さん含め、若い役者たちに「これだけは大事にした方がいい」というのがあれば教えて下さい。
僕らの時代は、当然ですがカーナビはなかったんです。でも今はカーナビがある。だから「あっちに行けばいい」と簡単に思ってしまう。でも「遠回りをしろ。遠回りをすれば違
う景色が見られるから」と言うんです。「カーナビに指示された道ばかりを行くとその景色しか見ることができない。たまには違う道を行った方が楽しいよ」と。
最短距離って正解なんだけど、案外遠回りした方が良かった場合もある。そのことを覚えていてもいいと思うんです。どうせ現場では、監督は「最短距離で行け」と言うんだから(笑)。
毎回、本番前に話しかけてくれる大先輩・佐藤浩市さん。どんな舞台挨拶でも場を柔らかくしようと様々な人に話しかけて下さる気遣いの達人であり、日本映画への想いに溢れている浩市さんの主演作『春に散る』。まさに映画界の先輩と後輩の共演であり、白熱した演技も見応えある作品です。
そしてインタビュー後に知ったのですが、【佐藤浩市「役者唄」】が、この秋も開催されるそうです。恵比寿ガーデンプレイス29周年記念〈EBISU JAM 2023〉10月7日(土)恵比寿ザ・ガーデンホールでライブを行うとのこと。大人の役者ライブ、とても楽しみです。
40年ぶりに故郷の地を踏んだ、元ボクサーの広岡仁一。引退を決めたアメリカで事業を興し成功を収めたが、不完全燃焼の心を抱えて突然帰国したのだ。かつて所属したジムを訪れ、かつて広岡に恋心を抱き、今は亡き父から会長の座を継いだ令子に挨拶した広岡は、今はすっかり落ちぶれたという2人の仲間に会いに行く。そんな広岡の前に不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた黒木翔吾が現れ、広岡の指導を受けたいと懇願する。そこへ広岡の姪の佳菜子も加わり不思議な共同生活が始まった。やがて翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、翔吾はもちろん一度は夢を諦めた周りの人々を巻き込んでいく。果たして、それぞれが命をかけて始めた新たな人生の行方は?
監督:瀬々敬久
原作:沢木耕太郎『春に散る』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
出演:佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、坂東龍汰、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子
配給:ギャガ
©2023映画『春に散る』製作委員会
8月25日(金)全国公開