―― 佐藤さんも“負けたくない”と思ったことはありますか。
若い頃は、やっぱり負けたくなかったね(笑)。今は流石に勝ち負けは二の次になっているけれど、20代の頃はやっぱり、結局「勝ち負けだ」と思っていたし。良い先輩たちは「芝居は勝ち負けではないよ」とおっしゃるけれど「絶対に違う、勝ち負けだ」し「負けたくない」と思う自分も昔は居たしね(笑)。
その気持ちは絶対に大事、どっかで抜けていくんだからそれまではその気持ちを持っていた方が正解だと俺は思うし、それぐらいの気概で演じて欲しいと思います。
―― 佐藤さんはいつのタイミングでそれが抜けたのですか。
いつだろう‥‥、それは何となく見ている人がわかると思う。何の作品かはわからないけど“どこかギラギラ感がなくなった”って。いつの間にか自分自身との戦いに代わって来た感じかなぁ。
―― 佐藤さんは役者にとどまらず、今はライブ活動もされています。初のアルバムも出されましたが、きっかけを教えて下さい。
なんでだろうね(笑)、話の流れでアルバムを出すことになりました。原田芳雄さんとのご縁で「歌ってみたら」と言われて本格的に始めて、追悼ライブで仲間を集めて毎年ステージに立つようになったんです。役者が唄うから「役者唄」。役者だから唄える、“台詞の様にやりたい”という想いがあって、それを紡いでいるところです。
―― 私は原田芳雄さんのお通夜の時に佐藤さんから「俺やさとりちゃんたちが、これからの日本映画界を背負っていかないといけない」と言われたのを凄く覚えています。私はその言葉のお陰で今まで以上に日本映画を見つめるようになりました。この歳になって“日本映画を何とかしたい”と思うようになりました。
先ほど、新聞記者のインタビューを受けた時に「若い人たちが観られる映画は140分が限界」という話を聞きました。そういう人たちを含めて椅子に座らせられるか、“あれ?もうこんな時間だ”と思わせるような作品を作ることが我々の仕事であり、飽きさせない作品を作っていこうという想いが今はありますよ。
―― その想いがあるからこそ、『ファミリア』や『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』『仕掛人・藤枝梅安』『せかいのおきく』『大名倒産』『キングダム』シリーズ他、今年公開作だけでも色々な作品にご出演されているのですね。
役柄も含めてですが‥‥『せかいのおきく』 ( 2023 ) のように上映時間90分の作品もあれば、本作『春に散る』は上映時間2時間13分。色々なスタイルがあっていいし、三島有紀子監督の『IMPERIAL大阪堂島出入橋』のような短編映画があってもいい。そういう多岐に渡るものがあっていい。どうしても流行ったものを皆は追いかけてしまうけど、そこを見直したいよね。お金を集める場合も含めて、どうしても流行を追ってしまう、それが必然になってしまうけれど、色々な形のものが成立するような映画界であることが幸せじゃないですか。