―― そうですね。そして紀里谷監督、これが最後の監督作品と公言していますが、これからも映画を撮り続けて欲しいです。
紀里谷:(笑)映画って自分の身を削って作っているんです。多くの映画監督がそうだと思うし、役者もそうだと思います。僕は芸術家でありたいんです。僕の勝手な定義ですが、芸術家って自分自身を削って作品を作っていくものなんです。僕は20年、身を削り続けて来たつもりで、それは大変で苦悩でしかないんです。それに加え、作品に対する色々な評価や否定、さらには人格否定までされることもありました。こうやって自分自身が社会にさらされ続けていくことで傷つきまくる訳です。それが仕事だからしょうがないという部分もありますが、やっぱりそれを一度ストップしたいと思いました。
僕は15歳ぐらいからずっと創作をしているので、この世界しか知らないんです。就職もしたことがないし、受験もしたことがない、この世界しか知らない偏った人間になってしまっていると思ったんです。例えば喜びについて言うと、作品を作る喜びや作品が出来上がった喜びしか経験したことがないんです。単純に楽しいという感情も分からないですし、それに趣味もないです。“これは人としてどうなんだ?”と今頃、考えるようになりました。それで映画から離れようと考えるようになりました。
実はある人に「わざわざアナウンスする必要がある?単純に言わないまま休めばいいじゃない」と言われましたが、それだと常に自分は考えてしまうんです。だからこそ一度アナウンスして、しっかりと「映画を撮らない」と意思表示して、想いを断ち切らないと駄目だと思ったんです。「ない」と意思表示したのに、いまだに考えてしまいますからね。一種の中毒患者のようなものです。例えるなら、好きな恋人が居て別れられない、でも一緒に居ても幸せになれない。不健康ですよね、だから一度別れてみる。一度決別してみて、それでも自分にはこれしかないと思えたらまた考える、場合によっては別に夢中になれるものを見つけるかもしれない。どうなるかわかりませんが、今はそんな気持ちです。人にはそんな気持ちになる時が、来るものだと思います。
夏木マリさんは当て書きだと言っていた紀里谷和明監督。その圧倒的な存在感に見事なまでに調和する不思議な魅力を放つ注目の若手女優・伊東蒼さん。ひとりの少女が世界の滅亡の鍵を握る存在と知ってから物語が進むにつれて表情が変わっていく姿に目が離せなくなるのも彼女の演技力。紀里谷監督が描き出すコントラストと白昼夢のような世界。やがて映画からのメッセージが琴線に触れ、涙が溢れる本作『世界の終わりから』。これは音響設備の整った大きなスクリーンで見てほしい作品です!
取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 曽我美芽
高校生のハナは、事故で親を亡くし、学校でも居場所を見つけられず、生きる希望を見出せずにいた。ある日突然訪れた政府の特別機関と名乗る男から自分の見た夢を教えてほしいと頼まれる。心当たりがなく混乱するハナだったが、その夜奇妙な夢を見る。
原作・脚本・監督:紀里谷和明
出演:伊東蒼、毎熊克哉、朝比奈彩、増田光桜、岩井俊二、市川由衣
配給:ナカチカ
©2023 KIRIYA PICTURES
2023年4月7日公開