Jan 12, 2023 interview

前野朋哉インタビュー 最初の一言を発するのにちょっと勇気が必要だった『ひみつのなっちゃん。』

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―― 『私をくいとめて』(公開:2020年)での前野さんの登場の仕方といい、本作の【ズブ子】といい、コケティッシュな役が多い印象ですが、ご自身では俳優としての自分についてどう思っていますか。

純粋に作品に呼んでもらえることがただただ嬉しいんです。それだけで“精一杯やります”という感じです。しいて言うなら“自分が何を求められているのか”とか、そういうことは考えないようしていて、そこを考えるのは余計なことだと思っているんです(笑)。

緻密に計算して演じられるタイプの方もいらっしゃると思いますが、僕は考えることがあまり好きじゃないというか(笑)。スイッチのオンとオフがしっかり分かれていて、撮影は撮影という感覚なんです。撮影が終わったらもう「ビール飲むぞ~!」みたいなモードに直ぐになる感じですね(笑)。もしかしたら【ズブ子】に近いのかもしれない。深く考えないようにしているし、深く考えることが出来ないんですよね。

―― ということはシンプルに演じることを楽しむという感じなのでしょうか。

はい、俳優は楽しいです!何が楽しいって、色々な俳優さんとお逢いすることが出来て、お話をすることも出来るんですから(笑)。映画『嘘八百』では中井貴一さんや広末涼子さんともお会い出来ましたし、すごく嬉しかったです。

―― 現場に行って、人と会えるのが楽しいんですね。

そうですね。現場自体も楽しいです。どんなふうに撮影するのか見るのも、完成した作品を観るのも楽しいです。監督が考えていることって面白いですよね。台本を読んでいても撮影している時に監督の意見で“え?そっちだったの?”と思うこともありますから(笑)。完成した作品をスクリーンで観た時、“こうゆう話だったんだ”と思うことが楽しいんです。同じ方向を向いているとは思いますが、俳優と監督が考えていることは全然違うことなので、監督の頭の中は本当に面白いと思います。毎回、現場に行く度に監督によってそれが違うのも面白いんです。

―― 映画の現場自体もお好きなんですね。そんな前野さんが映画を好きになったきっかけはなんだったのですか。

中学生の時、純粋に映画館というものに刺激を受けました。最初はハリウッド超大作ばかりを観に行っていて、とにかく楽しかったんです。一番多感な時期だったのですが、世界が広がっていく感じがして、とにかく映画体験が楽しかったんです。“もう映画しかない、人生の全てを映画に埋もれたい”と思ったのもその頃です。

そこで映画が好きということから映画好きの人たちと繋がることが出来たし、バイト先の映画館ではスタッフの方を含めて映画好きな友達が出来たんです。“映画に埋れて生きたい”という想いは今も変らないです。

―― 映画館スタッフから俳優へ、すごい転身ですね。

映画が好きでこの仕事が出来たことは嬉しいですし、近くで俳優さんの芝居を見ることが出来る嬉しさもあります。滝藤さんもそうですが、本当にいちファンとして素晴らしい俳優さんの演技を間近で見られて毎回、感動しています。刺激も受けますし、自分の芝居の仕方もどんどん変わって来ているのかもしれません。

中井貴一さんはとにかく声が気持ちいいんです。近くで見ていると色々な発見もありましたし、凄く楽しかったです。滝藤さんも現場で本当にしなやかでした。2人ともとても優しいんです。受け止めてくれるというか、懐の広さがあるんです。今回の現場では、滝藤さんが居て下さるから、僕らは好き勝手に演じることが出来ました。 

―― 前野さんが映画の世界に飛び込みたいと思った理由はなんですか。

俳優の仕事の金払いが良かったからです(笑)もちろん、最初は、ですよ!(笑)当時はリーマンショック前だったこともあり、“え!こんなにもらえるの?凄い”と思いましたね。景気の良い時の話なので、今はそんなことはありませんが(笑)きっかけは好きな仕事で食べていけるという単純な理由でした。たしかに正直に言うと俳優を続けるというのは楽ではなかったし、20代の頃は現場でめちゃめちゃ緊張したりしていました。

けれど30歳を超えた時にメンタル的にも少し余裕が出てきて自由度が増したんです。そのせいか今は現場でそれほど緊張しなくなりました。ある種、自分の中で“出来ない”と感じたことをそぎ落としていった結果、自分自身が精神的にも楽になったんですよね。だから今が楽しいです。

2022年公開となり、数々の映画賞を受賞した『ハケンアニメ!』では、制作デスク根岸役を勤めた前野さん。再会して開口一番「『ハケンアニメ!』出てましたね、お疲れ様でした!」と私に笑顔で挨拶をしてくる人柄も様々な監督に愛される理由なのではと思います。それに加えて突き抜けた演技とチャーミングなルックスが旨味となり、役に味わいを持たせる俳優であるのも魅力。だって『ひみつのなっちゃん』の【ズブ子】なんて最初は前野さんに見えなかったくらいですから!個人的に映画のお気に入りキャラでもあります。

取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦

作品情報
映画『ひみつのなっちゃん。』

ある夏の夜、なっちゃんが死んだ。つまらない冗談を言っては「笑いなさいよ!」と一人でツッコミを入れていた なっちゃんは、新宿二丁目で食事処を営むママ。その店で働くモリリンはドラァグクイーン仲間のバージンとズブ子を呼び出す。彼らがまず考えたのは なっちゃんが家族にオネエであることをカミングアウトしていなかったこと。証拠を隠すため なっちゃんの自宅に侵入した3人は、なっちゃんの母・恵子と出くわしてしまう。何とかその場を取り繕った彼らだが、恵子から岐阜県郡上市の実家で行われる葬儀に誘われてしまい、なっちゃんの“ひみつ”を隠し通すため“普通のおじさん”に扮し、一路郡上八幡へ向かうことになる‥‥。

脚本・監督:田中和次朗

出演:滝藤賢一、渡部秀、前野朋哉、カンニング竹山、豊本明長、本多力、岩永洋昭、永田薫、市ノ瀬アオ(821)、アンジェリカ、生稲晃子、菅原大吉・本田博太郎、松原智恵子

配給:ラビットハウス 丸壱動画

©2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会

2023年1月13日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開 (2023年1月6日(金) 愛知・岐阜先行公開)

公式サイト himitsuno-nacchan.com

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。 映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。 自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。 映画コメンテーターとしてCX「めざまし8」、TBSテレビ「ひるおび」での レギュラー映画解説をはじめ、TVやラジオ、WEB番組で映画紹介枠に解説 で呼ばれることも多々。 雑誌やWEBで映画評論、パンフレット寄稿、映画賞審査員、 女性監督にスポットを当てる映画賞の立ち上げもおこなっている。 著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。 2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」 (KADOKAWA)が発売 。
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net
◾️伊藤さとりが発起人の、審査員が全員女性の「女性記者映画賞」連携上映及びトークショーを開催
「HIBIYA CINEMA FESTIVAL 2024」
サイト:www.hibiya.tokyo-midtown.com