―― 役者は楽しいですか。
難しい質問ですね。皆はなんて答えているんだろう‥‥。僕はネガティブな人間ではないので、役者という仕事を呪ってもいないし、お芝居をすることも嫌いではないです。本当に1年後、2年後がどうなっているのか、わからないので取りあえずは目の前の仕事を一生懸命にやる感じです。
でも、今は、楽しいです。“もっとこう出来るかも、もっとあぁ出来るかも、次はもっと高く飛べるかも”と思えるから今は英気のようなものが養われているんだと思います。
―― 「あの監督と仕事をしたい」など目指していることはありますか。
それはないですね。僕は黒沢清監督も大好きなんですけど、黒沢清監督の世界だけでいうと『CURE』(公開:1997年)、『ドッペルゲンガー』(公開:2003年)が大好きなんです。でもそうすると黒沢清監督の新しい発見の要素にはならない。自分自身も監督が前作(以前)の雰囲気とは全然違う作品を撮る時には“新しい要素になりたい”と思っていますし。
―― 役者以外で興味があることは何ですか。
いっぱいあります!今、山暮らしなので山で見つけるいろんなキノコとかミツバチとか(笑)。
―― 映画を作りたいとは思わないのですか。
僕が監督やプロデュースすることはないです。僕には絶対に出来ないです。プロデューサーさんの仕事とかも知らないし、監督もできなければ脚本も書けない、カット割りも考えられない、限られた時間の中で役者に演出するなんて地獄‥‥無理です。
自分の役のことだけを考えるのは好きです。役者の仕事って狭く深く掘っていく作業だと思うんです。仕事がある限りは役者という仕事をずっと続けていきたいと思っています。
『桐島、部活やめるってよ』(公開:2012年)の舞台挨拶で出会った頃から変わらず実直な東出昌大さん。特にここ一年の出演作品は精神をすり減らしそうなほど繊細な役を演じていることが多く、『とべない風船』でも愛する人を失い、誰にも弱音を見せず、たったひとりで過去と現実を彷徨う【憲二】を見事体現していました。
来年公開の『Winny』の撮影の為に増量し、その後、撮影となった『とべない風船』のクランクイン前に減量をしたとさらりと言う東出さん。その研ぎ澄まされた演技に、毎回、注目せずにはいられません。
取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
陽光あふれる瀬戸内海の小さな島。数年前の豪雨災害で妻子を失って以来、自ら孤立している漁師の憲二は、疎遠の父に会うために来島した凛子に出会う。凛子もまた、夢だった教師の仕事で挫折を味わい、進むべき道を見失っていた。凛子は島の生活に心身を癒されていくが、憲二の過去を知って胸を痛める。最初は互いに心を閉ざしていた2人は、あたたかくてお節介な島の人々に見守られ、少しずつ打ち解けていく‥‥。
監督・脚本:宮川博至
出演:東出昌大、三浦透子、小林薫、浅田美代子、原日出子、堀部圭亮、笠原秀幸、有香、中川晴樹、柿辰丸、根矢涼香、遠山雄、なかむらさち
配給:マジックアワー
©buzzCrow Inc.
2023年1月6日(金) 新宿ピカ デリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺、MOVIX 昭島ほか全国順次公開
※2022年12月1日(木) 広島先行公開(広島・八丁座ほか県内5館にて順次)
公式サイト tobenaifusen.com