Dec 27, 2022 interview

東出昌大インタビュー 自分に戻る瞬間を大事にしながら、みんなで役を作った『とべない風船』

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2018年に起こった西日本豪雨の記憶を風化させてはいけないと広島出身の宮川博至監督がオリジナル脚本で挑んだ長編映画監督デビュー作『とべない風船』。それは災害により妻子を失った漁師【憲二】と人生に迷う元教師【凛子】が島で出会ったことで、少しずつ前を向き始める希望の物語です。

出演は東出昌大、三浦透子、小林薫、浅田美代子という豪華な顔ぶれ。今回は、主演の東出昌大さんに役への取り組み方や役者という仕事についてお話を伺いました。

―― 撮影は2021年9月とお聞きしています。東出さんはいつ頃から撮影地である瀬戸内海の島に行かれていたのですか。

僕は撮影スタート日の3日前に広島入りしました。瀬戸内海の「多島美(たとうび)」がとても美しい所で、いくつかの島で撮影を行いました。

―― 初めて宮川監督にお会いした時の感想を教えて下さい。

監督とお会いする前に台本を拝読していたので“絶対に優しい人なんだろう”という印象を持っていました。実際に監督と奥野(友輝)プロデューサーにお会いして、その後も2人の関係性を見ていて、まるで劉備玄徳と諸葛亮のような関係性にも思えて‥‥、頭と右腕という感じなんです(笑)。監督、プロデューサー、三浦さん、4人でお喋りした感じが最初から気を使わなくてもよくて、初対面の時からとても和やかでした。

―― 映画を観る前、ポスタービジュアルの印象から“とても優しい映画なんだろうな”と思っていました。でも実際に映画を観たら2018年に起きた西日本豪雨という災害が残した心の傷を描いており、人との出会いによる再生がテーマ。それだけ繊細な作品だったので演じるのが、とても難しかったと思います。

この冬に公開される3本『天上の花』(公開:2022年12月)『とべない風船』(公開:2023年1月)『Winny』(公開:2023年3月)が奇しくもその人物になることを要求されているような作品だったんです。

3本とも作家性の高い作品でしたので“その人物になろう。肉薄しよう”と思っていたのですが、ずっと続けていくことはとても難しいことなんです。ひとりの力では無理で、やはり監督の話や地元の漁師さんの話を聞いたりしながら皆で役を作っていく感じでした。難しいというよりは、皆さんの力で作っていった役でしたので他力という感じですかね(笑)。

―― 地元の漁師さん達と一緒に過ごされていたのですか。

はい、船を操船させてもらったりもしました。漁船を運転しながら瀬戸内海を走ったことで気持ちのリアリティが増しました。劇中の【憲二】は豪雨災害で妻子を亡くし、とてもしんどい状況なので、僕自身もしんどくならないと‥‥と思っていたものの、しんどい表現を狙いにいけるほどの器用さや技術がないので“役になりたい、役になりたい”と思っていました。