Jun 30, 2022 interview

矢本悠馬インタビュー 楽しい人でいようと思ったから『破戒』では作品を背負いすぎず自然体で演じた

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島村藤村の「破戒」。木下恵介監督や市川崑監督という巨匠が映画化してきた名作が、コロナ禍を経験した2022年に主演級のキャスト共演で映画化。部落の出身であることを隠し、小学校の教員を務める主人公【丑松】には、『東京リベンジャーズ』他、話題作の出演が絶えない間宮祥太朗。そんな彼が思いを寄せる女性【志保】には石井杏奈。そして親友【銀之助】には、『ちはやふる』『賭ケグルイ』『今日から俺は‼︎劇場版』他、ドラマや映画でコミカルな演技を魅せる矢本悠馬。その他にも眞島秀和、高橋和也、竹中直人他豪華な顔ぶれが揃っています。この錚々たる顔ぶれを演出するのは椎名桔平主演『発熱天使』(高崎映画祭招待作品)」の前田和男監督。

今回は、間宮さんとはプライベートでも親友であることからキャスティングされた若きバイプレイヤー矢本悠馬さんに、役者としての想いやチラリと日常を伺っています。

―― 島崎藤村の「破戒」は、1948年に木下恵介監督、1962年に市川崑監督が映画化されています。今作に出演するにあたり、過去作は観られたのですか。

観てないです。僕はいつも原作ものやリメイクものなど、他の誰かが演じている作品は観ないようにしています。そもそもテレビを観ている時でさえ、色々な人の芝居を真似してしまうところがあるんです。影響されやすいので、自分のオリジナルの【銀之助】を演じるためにもあえて観なかったです。そこには【銀之助】をゼロから作りたいという想いがありました。  

―― 矢本さんは今までもコミカルな役柄を多く演じられています。今回、【銀之助】役のオファーが来てどう思われましたか。

作品のトーンは差別という問題もあり、決して明るいものではありません。【銀之助】の役割は、主人公である【丑松】の救い手でもあるし、作品の中の希望みたいな存在でもあります。僕にコメディ役が多いからという訳ではありませんが、作品中は楽しい人でいたいと思っていました。【丑松】とふざけ合う明るい友達で中身は柔軟で器が大きい人というイメージです。基本的には明るい同僚って感じでいたいと思いました(笑)。

―― シーンの多くで微笑んでいますよね。まだ【丑松】に告白される前は、人々と差別の話をしている時も少し微笑んでいるんですよね。

確かに。【銀之助】が明るい人物で、かつ差別について知らない状態であればあるほど【丑松】が抱えている問題がより浮き彫りに見えてくるのではないか?という意図もありました。【丑松】は隠しているので、皆は知らないわけですから‥‥。作品のイメージや本能、意味などは、演じている時は全部忘れた方がいい、その方が明治時代の人に溶け込めると思いながら演じていました。作品を背負い過ぎると「こいつ、こういうことしていきそう」とか「こんな役に見えそう」と思われてしまうと思ったんです。

―― 今までご出演されてきた作品もそうですが、矢本さんは主演を光らせつつ、ご自身も光る、お互いが輝けるキャラクターを生み出していると思っています。

それは助演が多いからで、主演を立てることしか考えられなくなっているからです。助演病みたいなものです(笑)。

―― 共演する意味を考えながら演じられているんですよね。

考えているというよりは、身体に沁みついている感じですね(笑)。俳優をやり始めた頃、先輩に「自分が輝くためには、相手役を輝かせろ。相手役を輝かせることが出来たなら自分の手柄だ」と言われたことがあるんです。若い時はとにかく自分の爪痕を残そうとがむしゃらになって必死でした。でもそんな時に「自分が目立つことも大事だけど、相手を目立たせたら自分も勝手に目立っている」という言葉を先輩に言われて、その時からその言葉を意識するようになりました。

―― 素晴らしい言葉ですね。どなたに言われたのですか。

正直覚えてないんです(笑)レギュラーで出演されていたと思うのですが、名前も知らないベテラン俳優の方だと思います。当時、僕はとがっていて偉そうな感じで言われたこともあり“うるさいな”と素直に受け取ることが出来なかったんです。でも家に帰ってからもこの言葉がシコリみたいに胸に残っていました。