May 12, 2022 interview

松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』

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『フラガール』『悪人』『怒り』で数々の映画賞をもたらした李相日監督。今回、新作として選んだのが凪良ゆうによる2020年本屋大賞受賞の『流浪の月』。家に帰りたくない少女【家内更紗】と出会い、彼女の意を汲んで家に招き入れた孤独な大学生【佐伯文】。2人にとって唯一の居場所となった関係は、「誘拐犯」と「被害女児」という形で社会によって引き裂かれてしまう。そんな2人が15年後に再び出会ったことで運命の歯車が大きく動き出す‥‥。

【更紗】役には広瀬すず、【文】役に松坂桃李を迎え、撮影監督には『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョという組み合わせで綴る珠玉のヒューマンドラマ『流浪の月』。今回は『娼年』『孤狼の血』『新聞記者』など挑戦的な作品に出演し、見事な演技力で見る人を惹きつける松坂桃李さんにお話を伺います。

―― 今回、【佐伯文】を演じるにあたって随分と体重を落とされていますね。

はい、59キロまで落ちたので7〜8キロ落としました。原作の【文】は特徴的な痩せ方をしているように感じました。李さんと相談して体重を落としていきました。 

―― 松坂さんは【文】を19歳の青年からコーヒー店のマスターになった大人まで演じられています。感情の変化をどのように演じ分けされていったのですか。

過去パートからの撮影だったので、そこでの思い出がありました。すずちゃん演じる【家内更紗】と再会するまでの空白の15年間は日記を書いてみたりして、“どれだけ【更紗】のことを思っていたか”を自分なりの埋め方で埋めていき、15年後の再会パートには入っていきました。

今考えると李さんの作戦というか、先に過去パートから撮ることによって実感を与えさせたんじゃないかと。お影で自分もそれにちゃんと反応出来て、あの思い出があるからこそ現在パートの【文】を演じられる部分もあったので、この撮影の順番に助けられました。変に誇張して演じ分けることもせずに自分の中でスッと入ることが出来ました。

―― 幼少期の【更紗】のオーディションにも立ち会われたとお聞きしました。私は松坂さん演じる【文】と白鳥玉季さん演じる【更紗】がピザやアイスクリームを食べている幼少期のシーンがとても好きです。

すっごく幸せな時間なんですよね。玉季が子役じゃないんです。本当に一人の役者として一つの責任を背負って現場に居る感じがしました。“子役の子と接している”という感じではなく、普通に同等の一役者同士としてのコミュニケーションのとり方で撮影することが出来ました。

―― 「子役だから」という意識なく現場に入られていたということですか。

はい、意識することなく撮影に入ることが出来ました。現場に入る前にリハーサルで玉季とお芝居をするわけではなく、自分のパーソナルな部分を話し合う時間があったんです。僕もあんまり人に言っていなかったパーソナルな部分を玉季に話したりして(笑)。玉季もそれに応じて過去を話してくれたりして、それによって2人の中で何とも言えない絆のようなものを現場に入る前に作ることが出来ました。それが大きかったと思います。

―― 広瀬すずさんとは2度目の共演となりますね。なんとも言えない密な関係を演じていましたが、いかがでしたか。

すずちゃんは前回の『いのちの停車場』(公開:2021年)でご一緒した時とは、当然ですが全然違いました。パーソナルな部分は“こっちなんじゃないかな”と思ったくらいです。すずちゃんの腸を引きずり出して表現する感じが。すずちゃん的にも李さんとは2回目ということもあり、並々ならぬ思いもあったと思うのでその空気感は前回とは全然違っていました。

―― この映画でそれぞれの役者さんの違う一面を見た気がしました。【中瀬亮】を演じた横浜流星さんも強烈でしたね。監督が役者から引き出しているのですか。

それは間違いないと思います。李さんは「厳しい」とかは全然ないんです。寄り添い方が同じ目線に立つというよりかは、その役に一緒になってくれるんです。例えば僕が演じる【文】だったら、「李さん自身が「【文】をやるんだったら」という考え方で向かい合ってくれる。だから自分の中での役の考え方みたいなものが一つ広がるというか、李さんの中での役へのアプローチも一緒に入って来るので、枠が少し大きくなるんです。

それによって役への角度、見方みたいなものがちょっと広がって、自分だけではない役への作り上げ方、練り上げ方がプラスαされていく感じです。役に対してもう一度見直すというか、いわば考える余白を与える感じです。だから監督に「もう一回」と言われても正解を言ってくれない。「15年前のことを思い出してみて」とボヤッとした大枠しか言わないんです。そんな風に石を投げてくれるんです。