May 12, 2022 interview

松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』

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―― 湖の中に泳ぎながら入っていって、浮かぶシーンがあります。表情がクローズアップされ涙を流すシーンは、一連で撮影をしているのですか。

あのシーンは、入るところと浮かんでからの寄りなので全部で2回ですね。

―― スタッフの画に対する美しさへのこだわりと、【文】というキャラクターの内面を見せるという意気込みを感じたシーンでした。どのような話し合いから生まれたのですか。

僕が【文】をイメージすると湖が浮かぶんです。もの凄く静かな湖の真ん中にポツンと居るような感じが凄く出てくるんです。そのイメージを李さんに話す前に李さんからも「【文】のイメージは川や海ではなく、湖なんだよね。だからロケも湖の近くにしたかった。だからそういう街並みがある所にロケーションを組みたかった」と話されたんです。それを聞いた時、「近い。ほとんど同じだ」と【文】のイメージが同じだったのが嬉しかったです(笑)。湖は、ある種【文】を象徴するようなシーンではありました。

松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』

―― 内面の心理、心理学の象徴みたいですね。

確かに!【文】の心の中を映像化したら「こういうこと」って感じです。

―― この映画には、説明のような台詞がありませんよね。

ないんです。ドンドン監督が省いていくので(笑)。

―― 『空白』(公開:2021年)、『流浪の月』と人間の本質や内面を探求する作品を描く監督とお仕事をご一緒されています。自分とは違い過ぎるキャラクターの場合、役作りはどのようにされているのですか。

今回の作品に出演して改めて思ったのですが、役への向き合い方というか「役を生きるとは」を一から学ばせてもらった感じが凄くしています。どれだけ役を作ることが難しいのか、掘れば掘るほどゴールが見えなくなってくるような、それぐらいやりがいがある仕事だと思いました。もっと時間があれば、もっと役作りに費やせたとも思えます、それくらい終わりがない感じでした。

松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』

―― 心に苦しみを抱えたキャラクターを演じると、そのキャラクターが持つ哀しみから抜け出せなくなりませんか?

それに関しては、引きずるということはありません。自分のことを“どうでもいい”と思っているので(笑)。そこに対して「役に影響されてしまったらどうしよう」とかもないです。

―― 逆に役に入っている間は、その没入感に周りが心配するかもしれないですね。

どうなんですかね(笑)。暗い作品をやっていて気分が暗くなるとか、殺人鬼を演じていたらもの凄く怒りっぽいとか、そういうところもないと思うので‥‥、たぶんどの作品、どの役においても時間の掛け方だと思います。僕の場合は、時間を掛けて役と向き合えば向き合うほど、役により入り込めるタイプなんです。だから、その時間が凄く欲しいです。パパパッと出来る人が凄く羨ましいと思います。

与えられた役にどう向き合って、どんな風にアプローチしていって、どんな風にやっていこうか、それを考えるのが好きなタイプでもあるので、今後もそういうふうにやっていきたいと思っています。

松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』

―― 今の自分を一言で例えるなら。

めんどくさい奴(笑)。「もっと時間が欲しい」とか、それに今回の撮影では実際に撮影で使用する【文】の部屋に寝泊まりさせてもらえたのが凄く良くて、今後、また撮影でそういう機会があれば「寝泊まりさせて欲しい」とか言いたいし‥‥。でもそう簡単には出来ないことですよね。

作品を重ねていく度にチーフマネージャーさんと話し合う上で、色々と作品についてめんどくさいことを言って「めんどくさい大人になったね」と言われるようになる気がしています。それに実際に今も言われています(笑)。

―― それだけ俳優業が楽しいのですかね?

「楽しい」と言えるのかな‥‥。この作品をやっている時もそうですが、楽しい事ばかりではなく、辛いことの方が多かったので‥‥、実際、役と向き合っている時は「苦しい!」となります。その後に訪れる一瞬の達成感、スタッフさんと共有できる「楽しい」という思いや充実感があるから、俳優をやっているみたいなところがあるのかもしれません。

どこまでもストイック、どこまでも真摯。そんな言葉が似合う俳優・松坂桃李さん。感覚で演じるのとは違い、研究熱心で準備を怠らず、役を探究し続ける職人気質な俳優だから、多くの監督から声を掛けられる気がします。どんな役も自分のものにしてしまう理由とは、「学び」を怠らない真面目さと作品愛なのではないでしょうか。それで居ていつもフラットな人柄が人好きしてしまう理由なのでは?本当に出る作品、出る作品、「カメレオンのように変幻自在」とは松坂さんのことを言うんです。

文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦


作品情報
松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』
映画『流浪の月』

雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の家内更紗に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2か月を過ごすことになる。が、ほどなく文は更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。それから15年後。“傷物にされた被害女児”とその“加害者”という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。しかし、更紗のそばには婚約者の亮がいた。一方、文のかたわらにもひとりの女性・谷が寄り添っていて‥‥。

監督・脚本:李相日

原作:凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社刊)

出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子 / 趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子 / 柄本明

配給:ギャガ

©2022「流浪の月」製作委員会

2022年5月13日(金) 全国公開

公式サイト gaga.ne.jp/rurounotsuki/

松坂桃李インタビュー “考える余白”の中で役を生きた『流浪の月』

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net