Jan 13, 2022 interview

徳永えりインタビュー 自分の足で見つめ直していく作業が愛しくなった『ポプラン』

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―― この映画には男の人のロマンの部分もありますよね。私は“こんなに(イチモツが大事か?!”と思いながらクスクス笑って観ていました。幼少期の記憶までさかのぼる話で、男の人には“いつまでも子どもの部分があるんだ”ということを見せられた気がして、愛おしくさえ感じました。

(笑)本当にそうですね。そもそも女性はそれを持っていないので、それが如何に大切なものなのかわかりづらいですよね。男性的シンボルだったり、男性間では大きさを測ったり、比べたりするものだから、さぞかし凄く大切なものだろうとは思いますけど(笑)それがきっかけで自分の過去やこれまでの行いを、悔い改めるわけではありませんが、ちゃんと自分の足で見つめ直していく作業は段々と愛しくなっていきました。その姿を“頑張れ”と思いながら見ていました。

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―― 徳永さんは実際にもお母さんの役、独身の役という2つのタイプの役を演じることが出来る年齢に差しかかっていますね。

私は昔っからお母さん役が本当に多かったんです(笑)。なので、お母さんの経験はありませんが、物語の中では子どもも何人も居るし、色々なパターンの母親像を演じてきているんです。むしろ独身役の経験が少なくって、30歳を超えてから独身役を演じる機会が増えました。今、独身役を演じるのが楽しいんです(笑)お母さん役も年齢を重ねたことで変わってきてもいます。今回の役も初めてのパターンでした。今の幸せと元夫に対する距離感、それを自分で探れたことは自分の中で凄く良かったと思っています。なかなかないシチュエーションではあるので楽しかったですね。

―― 徳永さんの役作りは【役に近づいていく】、それとも【役を取り入れる】どちらですか?

自身にはあまり個がないと思っているので、出来るだけ役に近づけている方が多いです。ただ自分の要素である体と声を使って演じるので“自分のものは出る”とは思っています。でも観て下さったお客様には「気づかなかった」「全然違う風に見えます」と言われることが多いんです。だからやっぱり【役に近づいていく】タイプではないかと。「自分はこうである」という感覚はあまりありませんが、出来るだけ自分の要素がない方が楽しいと思っています(笑)。

―― 歌うことも踊ることもお好きということですが、表現することがお好きなのですね。

元々はダンスしか好きではなかったです。小さいころからダンスをしていて、この仕事をするまではお芝居は絶対にNOだったんです(笑)。小さい頃にミュージカルをやったことはありますが、あまりにも恥ずかしがり屋で、台詞をもらっても自分のターンが早く終わればいいと思っていて、早口言葉のように台詞を言っていました。台詞を人前でいうことを“恥ずかしいことだ”と思っていたんです。その感覚は今でもちゃんと残っていて、実はそれも大事なことだと思っています。

その理由に、以前、ベテランの役者さんに「役者は恥ずかしいことをしているんだ。それを理解しているか、理解していないかでは大きな差だ」と言われたことがあるんです。それを聞いた時、“そうかも”と納得したんです。だって多くの人が居る前で泣いたり、叫んだりするのは可笑しいじゃないですか。可笑しい事をしているという自覚がある、もちろんのめり込むことも大事ですが、引いた目で見ることで「もっとあれも出来る、これも出来る」と多くの視点を持てるかもしれない。色々な話を聞く中で、そういう1つの考えに納得したんです。

しかも色々な先輩方が同じようなことを仰っているんです。「役者は底辺の仕事である」と仰った先輩の女優さんが居て、その方は大好きで大尊敬している銀粉蝶さんなのですが。「役者なんて、そんなもんなんだよ」と銀さんが仰って、あんなにもアングラ女優と言われ、舞台、演劇で凄く活躍されているベテランの役者さんが「役者なんて、そんなもんなんだよ」と言える心意気。役者という仕事が色々な人に支えられている中でその言葉が言えるということに、“自分はまだまだなんだ”と思い返したんです。謙虚とはまた違う、その先を何周もしていらっしゃる銀さんにそれを感じました。私は“まだまだだ”と思えているから”もっと頑張らなきゃ”と思います。銀さんのその言葉を聞いて“終わりはない”と強く思いました。

2021年は『ずっと独身でいるつもり?』『ポプラン』関連のイベントでご一緒することが続いた徳永えりさん。そのフレンドリーな人柄と周りを包み込むような柔らかなオーラで、若くして違和感なく母親役を演じられる女優としてもオファーが絶えない気がします。けれどダンスが大好きでプライベートでもよく踊っているというギャップがたまらなくキュートな徳永えりさんは、コメディからシリアスまで幅広く活躍できる天性の役者なんだと私は思っているんです。

文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦

スタイリスト / 道端亜未
ヘアメイク / 尾曲いずみ


作品情報
映画『ポプラン』

東京の上空を高速で横切る黒い影。ワイドショーでは「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されている‥‥。田上は漫画配信で成功を収めた経営者。ある朝、田上は仰天する。イチモツが失くなっていたのだ。田上は「ポプランの会」なる集会に行き着く。そこではイチモツを失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。「時速200キロで飛びまわる」「6日以内に捕まえねば元に戻らない」「居場所は自分自身が知っている」。田上は、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始める。家出したイチモツを探す旅が今はじまる。

監督・脚本:上田慎一郎

出演:皆川暢二、 アベラヒデノブ、徳永えり、しゅはまはるみ、井関友香、永井秀樹、竹井洋介、鍵和田花、朔太郎、西本健太朗、佐藤旭、清瀬やえこ、上田耀介、茨城ヲデル、藤野優光、高木龍之介、原日出子、渡辺裕之

配給:エイベックス・ピクチャーズ

©映画「ポプラン」製作委員会

2022年1月14日(金) テアトル新宿ほか全国公開

公式サイト popran.jp

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net