―― 事務所に入っていなくてもドラマから映画まで出演しているというのは、演技力や存在感が唯一無二だからだと思います。2021年は『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』で監督にも挑戦されましたがいかがでしたか?
あの時は連続ドラマに出演しながら脚本を作り続けて、ロケハンもしていたんです。脚本でちょっと納得できない部分があった時は、連続ドラマの撮影現場まで映画のプロデューサーと助監督に車で来てもらって、撮影が終わってから帰りの車の中で脚本会議をしたりもしました。役者としての仕事と監督としての仕事の両立で寝れなくなったりもして本当に大変でした。連続ドラマのクランクアップ後、すぐに金沢に3回目の最後のロケハンに行ったのですが、なかなか撮り場所が決まらなくて‥‥俺は絵ハガキのような観光地のような場所では撮りたくなかったんです。
―― 実際に監督をされてどうでしたか。屋敷の中も美しく幻想的な物語でした。
監督って大変で全部選択しないといけないんですよね。本当に疲れたし、撮影前にも色々とトラブルがあったりして凄く大変だったんだけど、本番はめちゃくちゃ楽しくて、凄く良かったです。役者もスタッフも準備期間が一番大変で、本番は楽しい。監督は今後もやっていきたいです。実はもう構想があり、次は“耽美な「四谷怪談」”を撮りたいと思っています。友達のヒップホップメイカ―にビートを作ってもらって綺麗な映像で音楽を流す。スタッフも頼んだら出来る人はたくさんいるので、それを知り合いのプロデューサーと一緒にやろうとしています。
あとはモキュメンタリー(フィクションのドキュメンタリー)を作りたいんです。以前、某テレビ局のプロデューサーに「安藤政信のドキュメンタリーを撮りたい」というお話を頂いたんですけど、その時に「俺のドキュメンタリーを撮るのではなく、俺がドキュメンタリーを撮りたいから、プロデューサーになって欲しい」と話して、撮りたい構想をお話したんです。最初はドキュメンタリーだったのですが、フェイクをリアリティにもっていくことが役者の仕事なのだけど、どうやってリアリティの中にフェイクを組み合わせて作っていくかをやりたいと思うようになっていきました。
出演者は何か心に抱えている女の子を3人ぐらいキャスティングして、彼女たちを撮影するんですが、ちゃんと演出もする。ようはドキュメンタリーといっても結局は意図的なものなので、意図的なものを撮るんだったら背景や色や光は綺麗な方がいい。その作りものの世界でリアルな女の子を撮りたいと思ったんです。あとは友達のアーティストにナレーションを頼むと話をしたら「そこまで出来ているのならやりましょう」と言ってくれたんです。今はそれを具体的にどうやっていくかというところまで動いています。
―― 監督業も今後続けていかれるのですね。もうひとつの顔であるフォトグラファーとしても何か構想を考えられていますか?
先日、雑誌『今』でカメラマンとして取材をしたいという連絡があり、その時、某カメラメーカ―の方とお話をさせて頂く機会を得たんです。そのご縁で、今度PARCOで行う写真展にも協力して頂けるという話になり、ありがたい限りです。それで、先ほど話したモキュメンタリー映画の撮影に使う機材提供もお願いできないかと思って、某テレビ局のプロデューサーもご紹介させて頂きました。人の縁が繋がって面白いことが出来る気がします。フォトグラファーとしても作品は発表していきたいですね。
―― 安藤さんは色々な監督の作品にご出演されていますし、作品もたくさんご覧になっていますが、ご自身が好む映画のジャンルはなんですか?
激しく感情をむき出しにしている映画が好きです。そんなに激しくわかりやすくは撮ってはいないけれど、アジアならツァイ・ミンリャン監督、他にもキム・ギドク監督、ジャ・ジャンクー監督、チェン・カイコー監督の作品は気になって観てしまいます。ヨーロッパならラース・フォン・トリアー監督、ギャスパー・ノエ監督のラインが好きですね。内面をむき出しにして、ちゃんと人が人の肌を求め合って、肌の感覚の匂いを嗅ぐような感じの作品です。つまり表面的ではない、ギミックでやっているような感じではない映画が凄く好きです。
―― ジャ・ジャンクー監督とは一緒にお仕事をされそうな気がしますが。
ジャ・ジャンクー監督とはまだ一緒に仕事をしたことはないのですが、コロナ禍前に、ジャ・ジャンクー監督と対談をして、その時に渋谷の駅周辺で写真を撮りました。あとは、チェン・カイコー監督の『花の生涯 梅蘭芳(メイランファン)』(公開:2009年)に出演したのも思い出深いですし、ツァイ・ミンリャン監督は凄く好きな人のひとりで、短編『無無眠』(製作:2015年)に出演しているので台湾に行った時は必ず会ったりしていました。これらの監督とまた会いたいですし、一緒に何かやりたいですね。
年齢を重ねる毎に独自のオーラを纏い、役に深みを与える安藤政信さん。俳優としても監督としてもフォトグラファーとしてもエキセントリックな才能を発揮し、どんな役でも見る人を虜にしてしまいます。本作『弟とアンドロイドと僕』でも、捉えどころがなく、ナイフのような危険さを秘めた求を内面から演じきっています。豊川悦司さんと安藤政信さんという絵になる俳優2人の共演は映画館という暗闇の空間で更に際立つのです。
文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
主人公の桐生薫は、孤独なロボット工学者。子どもの頃からずっと、自分が存在している実感を抱けないまま生きてきた。そんな不安を打ち消すため、今は誰も訪れない古い洋館で、「もう一人の“僕”」として、自分そっくりのアンドロイド開発に没頭していた。そんなある日、ずっと会っていなかった腹違いの弟が桐生のもとに訪れる。寝たきりの父親。駅で出会った謎の少女。様々な人々が交錯する中、桐生ともう一人の“僕”の間には“ある計画”があった。
脚本・監督:阪本順治
出演:豊川悦司、安藤政信、風祭ゆき、本田博太郎、片山友希、吉澤健
配給:キノシネマ
© 2020「弟とアンドロイドと僕」FILM PARTNERS
2022年1月7日(金) kino cinéma横浜みなとみらい、kino cinéma立川髙島屋S.C.館、kino cinéma天神 ほか全国順次公開