――劇団☆新感線の舞台に近いですね。希望や光を与えるという物語は。
古田 そう?あ、確かにそうかもしれないですね。ダメダメでもちょっとだけ前向きな人が出てくると“いいな”と思うじゃないですか。どんなにネガティブな人でも露悪な人たちが悪い事をしていても前向きなところがあれば、オイラは“素敵だな”と思うし、それがエンターテイメントのあるべき姿だと思います。『ゴジラVSコング』(公開:2021年)だってゴジラとコングっていう分かりやすい題材なのにメカゴジラが出て来ることによって“どうにでもなっちゃえ!”と思える前向きさがありますしね。
今回の映画では、人間的にはダメダメ人ばかりが出て来る。田畑(智子)が演じる【添田】の元奥さん【松本翔子】もちょっとダメダメじゃないですか?そう思うんですけど、そこが𠮷田監督の素敵なところで、全員にちょっとだけ本人的には希望がある。(寺島)しのぶちゃん演じるお節介な【草加部麻子】に至っても。そんな姿から“観ている人にもちょっと希望が見えたらいいな”と思います。オイラは凄く悪い人を演じる時もあるけど、それでもどこかしらにチャーミングな部分がないと駄目だといつも思ってるんです。
――どうやってチャーミングな部分を作られているのですか。
古田 それは根っこがふざけているからだと思う(笑)やっぱり一番正しい生き方をしているのは【デッドプール】(マーベル・コミックのキャラクター)だと思うよ(笑)もし日本で映画製作されるなら顔を一切出さなくていいから【デッドプール】役を演じたいです。
――ちょっとダメダメだけれども愛溢れるキャラクターに惹かれるんですね?
古田 そうです。しかも【X-MEN】や【アベンジャーズ】みたいな真面目な感じより、お金と愛とSEXの為だけに戦っている【デッドプール】は最高です!
――『空白』は𠮷田監督の最高傑作という呼び声も高いです。この作品が多くの人を惹きつける理由は何だと思いますか。
古田 初号で作品を観た時、直ぐに「本当に可哀相な人しか出て来ないじゃないですか」と𠮷田監督に言ったんです。そう言ったんですが、現場は凄く楽しかったんです。どのシーンも苦しいシーンしかなかったのですが、本当に楽しかった。それは表には伝わって来ないはずなんですけど、現場が上手くいっているのが映画に映るというか、現場が上手くいっていない映画はお客さんにも苦しく映ると思うんです。今回の『空白』という作品の現場は凄く和やかで、演技の上手い人ばかりだったから映画として健康なんです。健康な現場では面白い作品が生まれますから。
――出演された役者の皆さんが、共演者や作品を愛していたからかもしれないですね。
古田 そうですね。(寺島)しのぶちゃんとも前から仲が良いんですがやっと共演出来たし。そう考えると、オイラが「飲みに行くぞ!」と声を掛けても行かなかったのは桃李だけです。もちろん、桃李とも仲良しですけどね(笑)
「DCが大好きなんだ、ジェームズ・ガンの『ザ・スーサイド・スクワッド』良かったよね」とハーレイ・クインのTシャツに、ジョーカーのキャップを被って嬉しそうに話していた古田新太さん。優等生よりもチャーミングな悪役の方に惹かれると言う古田さん演じる『空白』の【添田】は、狂犬の様な仮面の奥には、恐怖心や脆さを秘めています。それを体現出来たのは役者「古田新太」の根底にある“ダメ人間への愛”からだろうし、『空白』は、間違いなく現時点の古田さんの代表作であり、最高傑作なのです。
文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
ある日突然、まだ中学生の少女が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。
監督・脚本:𠮷田恵輔
出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子 / 寺島しのぶ
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(C)2021『空白』製作委員会
2021年9月23日(木・祝) 全国公開
公式サイト kuhaku-movie.com