Sep 23, 2021 interview

「いつかデッドプール役を演じたい」 映画『空白』主演の古田新太が語る、愛嬌溢れるキャラクターに惹かれる理由

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『新聞記者』(公開:2019年)や『MOTHERマザー』(公開:2020年)など現代社会の問題にメスを入れるスターサンズと、『ヒメアノ〜ル』(公開:2016年)を始めとし、人間の心を覗き込む作風で多くのファンを持つ𠮷田恵輔監督がタッグを組み、「赦し」について観客に問う作品、『空白』。早くも本年度の映画賞、最有力の声も上がる本作は、𠮷田監督による完全オリジナル脚本であり、演劇界のスターであり、ドラマ、映画に活躍する古田新太さんを主演に迎え、突如、娘を失った「怒り」を吐き散らし、多くの人の人生を飲み込んでいきます。今回はどんな役も「嫌いにさせない」古田新太さんならではの演技方法や、役との関わり方についてじっくり話していただきます。

――𠮷田監督とは今作で初めて組まれましたが、【添田充】という主人公を演じる上ですり合わせなどあったのでしょうか?

古田 事前に話をすることもなく、「古田新太さん、今日クランクインです。それじゃ撮り始めます」という感じでした。演出も特になく、「はい、OKです」みたいな感じでやっていました。

――それだけ古田さんの演技は𠮷田監督にとって信頼のおけるものだったのでは。

古田 オイラは基本的に、どの現場でも言われなきゃ何にもしないんです。役作りもしないし、ただ棒読みするだけ。それで「こうして下さい」と言われたら「はい、わかりました」と言うだけだし、もちろん「そこちょっと演技を広げて下さい」と言われたら工夫はします。それに【添田充】のような役だと、余計な事をしなくていいじゃないですか。書かれている台詞の通りにやればいいだけで、あとは𠮷田監督の「はい、OKです」の決断ですね。

――映画を観た時、昭和の堅物な職人肌の父親の象徴にさえ思えました。

古田 そうですよね。オイラは基本的に昭和のお父さんなんで、特に演じる上で違和感を覚えなかったんです。違うのは【添田】みたいに“俺の娘は万引きなんて絶対にしない”と思っていなくて、“娘だって万引きすることもあるかもしれない”と思っているぐらいで(笑)実は前に「【添田】って、酔っ払って静かになった時の古田さんじゃないですか」と言われたことがあるんです。「そんなわけないだろ、オイラはちゃんと笑えるようにするぞ」と思うんですけど…根っこは似ているかもしれないです。

――「劇団☆新感線」など、古田さんの舞台も観させて頂いていますが、役の振り幅も広く、感情のスイッチを入れるのも早い気がします。どうやって役になりきるのでしょうか。

古田 台本を読んだ時に感じる一発目の“この人はこういう人かな”という事だけです。“この人は面白くない人だ”とか“この人は面白い人だ、凄くテンションが高い人だ”など台本を読めばわかるじゃないですか。小説を読んでいても自分の中で想像しますよね。絵本など絵がない限りお手本がない、空想の世界なので勝手にやっていいんです。後輩にもよく言うんですが「自分が思ったことをやればいい。こうしてみろ、ああしてみろと言う人がいたら聞けるアドバイスは聞いて、聞けないアドバイスは聞かなくていい」と。最終的には演出家や、監督が「OK」と言ったら「OK」なんです。それ以外の「OK」はないんですよ。

――想像力を培う為に、日々、人を観察しているとか、何か映画を観ているとか参考にしているものはあるのでしょうか。

古田 お手本はないです。なるべく何も足さない、引かない、ある意味“無”の状態にします。本を読んだ時に思ったことを提示して、監督にOKをもらうのが仕事だと解釈しています。皆さん「緊張する」と言うじゃないですか。今回だと「7年振りの主演ですけど…」とよく質問されますが、別に何の気負いもないんです。「参ったな、台詞がいっぱいあって撮影も遅くなるな」とか「主役だと宣伝でもの凄く時間をとられるんだよな」とか、そんな事ぐらいです。役に取り組むことはサブの役を演じる時も一緒だし、現場が楽しければいいだけです。

――今作ではシリアスでハードなシーンの撮影が多かったと思います、現場の雰囲気はどうでしたか。

古田 基本的にオイラはずっとヘラヘラしていました。【中山楓】役の(野村)麻純と母親【緑】役の片岡(礼子)が【添田】に謝りに来て二人はオイオイと泣いているシーンの撮影では、カットがかかった瞬間に「今日は焼き鳥に行くぜ」と声を掛けたりしていました(笑)

――娘の【花音】を演じられた伊東蒼さんは、最初、古田さんが怖かったかもしれませんね。

古田 最初は、怖いとかどんな人だろうと不安だったようですけど、撮影を続けているうちに「このおじさん、こういうおじさんなんだ」とわかった瞬間に不安が消えて楽になったみたいですよ(笑)

――【添田】はたまらなく嫌なタイプなのに何故か嫌いになれず、その答えをラストで気付かされるという脚本をどう思われましたか?

古田 これは𠮷田監督の意地悪なところで、最後に皆にちょっとだけ希望を与えるんです。(松坂)桃李が演じる【青柳】にしても【添田】にしても、同じものを見ていたことに気付かされたり。【青柳】の心が暖かくなる言葉を掛けられるとか、ほんのちょっとだけ希望が与えられるんです。二人とも“もう駄目だ”と思っているのに。こんなにも絶望的な人たちにだって、ちょっとだけでも希望を与えることが𠮷田監督には出来る。それは意地悪というか凄いところだなと思います。