Jun 18, 2021 interview

過去の記憶に囚われた若者たちの未来への脱出劇、映画『Bittersand』を出演者の井上祐貴、萩原利久、木下彩音が語る

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――皆さん20代前半ですが、この映画では高校生を演じたり、色んな世代、状況の人を演じるのが俳優の仕事の一つにも感じます。演じる上で自分自身が大切にしていることはなんですか。

井上:もちろんその役を演じるにあたって、全部が全部、自分が過ごしてきた日々と一致するわけではないので、その中で少なからず一致することを見つけて、そこから膨らましていく作業をします。あとは台本を読んだ時にパッと浮かんだ“あの作品であの方が演じたあの役だ”と思ったらその作品を観て演じている役者さんを参考にして自分なりに役を作っていったり、ディスカッションしたりします。わからないことが多いので役を演じる時は凄く悩みます。特に今回の『Bittersand』のようなセンシティブな内容の作品の時は、より一層丁寧に演じようという気持ちになります。

萩原:青春映画に限らず、高校生を演じる時に一番気を付けるのは年齢です。自分も高校生でしたけど高校を卒業して今は22歳、制服を着れば何となく高校生に見えるとは思うんですけれど、リアルに制服を着ている子と並ぶと“俺、老けてるな”と思ったりするんですよ(笑)高校生というとくくりとしては広いんですが、実際は15歳から18歳までの子が居て、やっぱり15歳と18歳では別物だと思います。特に10代は1年で考え方も行動も凄く変わる、変化のある年代だと思うんです。演じる役が高校生でも15歳の役なのか、16歳の役なのか、年単位での変化を意識しています。特に自分の年齢が上がれば上がるほど、しっかりそういう部分を固めていかないといけないと思っています。高校生に見えないと本末転倒なので、まずは高校生になる。そういう意味でも年齢には細かく意識して演じるようになりました。

それは今の高校生に流行っているものは、僕らが高校生の時に流行っていたものとは違うわけで、そんな時、高校生の共演者が居れば、リサーチ気分で話を聞いたりします。もちろん、自分の過去と照らし合わせて演じることもあります。常に新しいものを探さないと高校生の役って難しいんですよね。

木下:私の場合は、役作りというよりは趣味に近いかもしれませんが、人間観察はよくします。電車に乗っていても隣の人の話とか聞こえてきちゃうような感じで、色々な人を見ちゃうんです(笑)高校生とかも見ちゃうし、色々な人が居て、人それぞれに凄く個性があって、それを電車に乗っているとよく感じます。そう考えると人間観察は役作りにも繋がっている気がします。その人が何をしているのかを観察し、次に何をするかを予想するのが好きですね(笑)脚本を読んだ時は、普段見ている時よりも真剣に一点を見つめてしまうような感じで、人間観察しちゃう時もあります。

――青春映画でありながら、恋愛だけでなくしっかりといじめの問題も描いている作品です。この映画に出演して考え方など変わりましたか。

木下:いじめなどの問題は結構ニュースでもよく目にします。駄目なことなのに現実的にある、そのことは辛い話ですが、色々な方々にこの作品を観て頂いて、今の駄目な現実を変えていけたらいいなと思います。そして、この作品を観て、勇気というか誰かの為や自分の為に一歩踏み出せるような力になってくれたら嬉しいです。

萩原:僕は自分事として考えると「情報って怖いな」と思います。SNSなどが発達して虚偽なものをたくさん目にする機会があるので。どれが本当の事なのかが分からないような情報がたくさん出る世の中で『Bittersand』の中でも【暁人】が発言したことによって、それを信じた人が一斉に攻撃をするわけですから。でも実際はそうではなかった、つまり情報を見極める力というか、自分の日常の中でも色々なものをたくさん目にする中で“どれが正しいのか”を日々、気を付けていかないといけない。ちょっとずつ違った情報によって生まれるトラブルがきっかけとなり、それがドンドンと大きくなって大きなトラブルに発展するようなことはたくさんあると思うんです。こういう題材だからこそ、他人事ではなく、自分自身が情報を見極める力、正しいものを選べるようになれたらいいなと思いました。

井上:【暁人】が屋上で【井葉】に言う台詞に「思っていたよりも辛かった」という台詞があります。実際にいじめを受けているシーンの撮影時はクラスメートの冷たい目線とかで本当に哀しい気持ちになりました。特に水をかけられるシーンは、“なんだ?この感覚は?”と思うほど初めて味わう辛いものがありました。その時初めて“これがリアルな感覚か?”という感情を持ちました。実際にそういう思いをされている方と比べたら全然違うと思いますけれど、芝居だとわかった上でもあの状況は凄くきつかったです。それが画面越しでも伝わればいいなと、そして“こんな思いをしている人が少しでも減ればいいな”と本当に心から思います。

じっくりと考えながら丁寧に語る井上祐貴さん、明るい声ではっきりと自分の考えを伝える萩原利久さん、マイペースに柔らかい雰囲気で語る木下彩音さん。三者三様とはまさにこのことで、全く異なった個性が互いを際立たせている俳優たちが登場人物を演じているから、キャラクターが映画の中で活き活きしているのだと感じました。高校生たちが抱える問題をひとりひとりの気持ちに寄り添って脚本に紡いでいった『Bittersand』。高校生活は恋愛だけじゃないし、良いことばかりじゃない。だけど大切な友と出会え、一歩踏み出す勇気を与えてくれる人との出会いもある。胸の痛みを感じながらやがて熱く込み上げてくる思春期の思いが詰まった映画です。

文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報
『Bittersand』

ある日、高校時代に想いを寄せていた石川絵莉子と、思いがけない再会を果たす。しかし彼女にとって、暁人を含めたその頃の思い出はすべて、忌まわしい“黒板事件”によって、拒絶すべき過去となっていた。そして暁人も、その頃から自分が一歩も前に進めていないことに気付く。クラスの相関図に隠された秘密―7年前の真実に迫る“青春ミステリー”。主人公の暁人役に井上祐貴、その悪友井葉役に萩原利久、ヒロイン絵莉子役には木下彩音。若手俳優陣が織り成すビターでミステリアスな物語を紡いだのは、本作が監督デビューとなる杉岡知哉。混迷に満ちた2021年を切り開く、“青春映画”の誕生です。

監督・脚本:杉岡知哉


出演:井上祐貴 / 萩原利久 / 木下彩音 / 小野花梨 / 溝口奈菜  

配給:ラビットハウス

©bittersand制作委員会

6月25日(金)シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開

公式サhttps://bittersand.net/

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net