Dec 19, 2020 interview

将棋エンタテインメント「電王戦」に着想を得た『AWAKE』で若手強豪棋士を演じた若葉竜也の素顔

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――陸は感情を爆発させない役ですよね。

僕は基本的には感情を爆発させない役が好きなんです。ボロボロと涙を流すよりも涙を必死にこらえている、感情を一生懸命隠すほうがその人(役)の本当の心の機微が見えてくるのではないかという思いがあって好きなんです。でもやっぱり、どっちもやりたくないな~、本当に大変なんですよ。よく皆、あんなに楽しそうに役者業が出来るなと思います。

――先日、仲野太賀さんに『生きちゃった』でインタビューした時に「若葉さんが一緒に居て良かった」と仰ってました。若葉さんと同世代の俳優の中でご自身が良きライバル、同志だと思っている俳優さんはいますか。

いないんですよね。僕は大衆演劇出身で、その中で“役者以外をやりたい、役者以外なら何でもいい”と思っていたんです。小さい頃からやっていたので役者が嫌いになっちゃったんです。“役者はバカがする仕事”と思っていた時期もありました。それから年齢を重ねて24~25歳になった時に周りの友達はどんどん就職して、自分を振り返ったら高卒だし、大学も出ていない、ボクサーや棋士には年齢制限あるという現実を知って、自分が出来ることはかなり年齢と共に遮断されていっていると感じました。そして自分が仕事として生活出来る可能性が高いのは「この仕事、役者だ」と思って半ば挫折的にこの仕事をやり出したところがあります。

だから“もっと活躍したい、もっと俺は出来るんだ”という感覚がないんです。本当に粛々とちゃんと暮らすということをするために真剣に向き合っている感じなんです。だからライバルとかいないんです。それに欲もない(笑)ちょっと下の世代が持っている僕のイメージが、映画にこだわっていて、現場でも「違う、そうじゃない」と言ったり、映画哲学みたいなものを持っているというものみたいで、相談されたりもするんですよ。でも僕はめちゃくちゃ現実主義なので「好きなだけじゃ飯は食えない。部活じゃないから」と言うぐらいしか言えないし、あと「仕事っていう感覚ある?」「粛々とやろう」とか言ったり、相談者にがっかりされたことがあります(笑)。

――俳優以外にもご自身で映画を撮っていますよね。

映画を撮るのは100%自分が好きなことを出来るからです。

――どんな題材に興味があるのですか。

やっぱり人間。徹底的に人間です。僕が書く脚本には夢とか希望とか全然ないです(笑)

――『蝉時雨』『来夢来人』など監督として撮られていますが、若葉さんは何をしている時が一番楽しいですか。

働いて、お金を貰って、旅行に行ったり、美味しいゴハンを食べたりするのが一番楽しいです。だから手を抜くと仕事が無くなって、楽しいことが出来なくなってしまうから仕事を一生懸命やるんです(笑)

――目の前のことを大事にしているということですね。

大事です、友人とのそういう時間は死守したいです。

――色々な役を演じていますが、演じたい役や興味がある役はありますか。

ないです(笑)オファーを頂いた作品に対して真摯に取り組むだけです。でも最終的にはやっぱり人間じゃないかな。殺人鬼であれ、本作の浅川陸であれ、これまで僕が演じてきた役、全て根底は人間、人間というものに興味があります。

――相当、人間ウオッチとかしているのですか。

(笑)人間ウオッチとかは一切してないですけど、役をキャラクター化したくないと思っています。映画をやる上で、役をキャラクターにして“彼はこうだからこういうことはしない”とか限定してある種クレヨンで描いたようなキャラクターにしてしまうと、映画自体の可能性を断ち切ってしまうことになると思うんです。“人間って意外とこういうことするよね”とか“本当はこういう奴だけどこういうこと言うよね”とそういう人間の多面的な部分を自分の中で消化して、いかに「役が破綻している」と言われないように成立させるかが役者の仕事だと思っています。

――そういう考えを持っているからこそ、多くの監督やプロデューサーが一緒に仕事をしたいと思うのですね。

どうでしょう、この先わからないですよ。一年ぐらいしたら「嫌いだ」といってくる人が居るかもしれません。本数いっぱい出たりすると「前の方が良かった」「生意気になった」と言ってくる人も居るんですよ(笑)この先も僕は色々な人の色々なフィルターで見られていくんです。まあ別にどうでも良いですけどね(笑)。粛々と真摯にやるだけです。

『葛城事件』(2016年公開)で第8回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞受賞、そして監督として『蝉時雨』で門真国際映画祭2018 最優秀作品賞、『来夢来人』で第15回山形国際ムービーフェスティバル2019 最優秀監督賞を受賞。主演から脇まで様々な映画に出演し、その度にまったく違う姿を見せ、物語に染まっていく若きベテラン俳優。現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』に出演。公開待機作に映画『あの頃。』(21年2月19日公開)、映画『くれなずめ』(21年GW公開)、主演映画『街の上で』(21年春公開)など多数控えています。『AWAKE』の浅川陸は、将棋以外にいったい何を楽しみに生きていたんだろう?と思いを馳せるほど興味深い人物だったのは、間違いなく若葉竜也という“役者”の深みなのですよね。まだまだ見てみたい役が沢山あります。

文 ・写真 / 伊藤さとり

作品情報
AWAKE

プロへの道を諦めた英一が、冴えない大学生活で見つけた常識破りの挑戦とは―!?20歳のときの敗戦で奨励会(日本将棋連盟のプロ養成機関)の退会を余儀なくされ、棋士になる夢を諦めた英一。そんな彼がぎこちない大学生活をスタートさせたある日、ひょんなことからコンピュータ将棋と出会い、定跡にとらわれることなく自由で強いAI将棋のプログラム開発に没頭。やがて自身が産み落としたAI「AWAKE」でかつてのライバルでもある人気棋士・浅川陸と対局することになるが……。映画は棋士になれなかった男と天才棋士との戦いの興奮、緊張感を将棋が分からない人にも伝え、それぞれの苦悩や葛藤を見つめながら、将棋の世界で一度は挫折した英一が新たな夢を見い出し、再生する姿を映し出す。

監督・脚本: 山田篤宏

原作・脚本:足立紳
演:吉沢亮、若葉竜也/落合モトキ、寛一郎 ほか
制作・配給:キノフィルムズ
 ⓒ
2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

2020年12月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

式サイト:https://underdog-movie.jp

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net