――お二人とも役を演じる期間中、役に入り込む感じですか。そうなると演じた役から離れるのが大変ではないですか。
安田:波瑠さんは切り替え早いですか。
波瑠:どうでしょう。切り替えられるように地方に行く時は家庭用ゲーム機を一式持って行ったりします(笑)。好きなものを持って行くことで、役柄ではない時間をはっきりと作るためにです。
安田:僕は仕事の間を空けなければいい。次の仕事にすぐ入れる環境だと切り替えられるけど、役によっては引きずってしまうので間が無い方がいいです。
――スケジュールが空いてしまって、役を引きずってしまう時はどうするのですか。
安田:LGBTを扱った舞台「ボーイズ・イン・ザ・バンド~真夜中のパーティー~」をやっていた時はそういう感じになっちゃうし、役がうつ病になっていたらうつ病に、本当になる訳ではないんだけど、そういうのを引きずるのが嫌だから、違うものにポンと入れた方が楽ですよね。
――このコロナ禍で、映画の意味について考えました。お二人は、役者と言う仕事について改めて何か考えられましたか?
波瑠:何よりも平凡というか、それをちゃんと意識し続けることがきっと何年経っても大事なんだなと思いました。役者は独特な仕事だと思うんです。カメラの前に毎日のように立って、自分とは違う人間の内面を理解して演じていく。それに、色んなことを言われたりもしますし、眩しいライトの下で大勢の人の前に立ったりもします。私からすると全てが特殊で、その特殊を特殊と感じる感覚を大事にしたいと思っています。特殊な仕事だけど、その仕事の中で演じなければいけない役は平凡などこにでも居る女の子、そこから変わっていく女の人なので地に足をつけるじゃないですが、そういうのが大事なはずと信じています。
安田:同じようなもんで(笑)色々な人が居ていいんじゃないのって感じです。日の当たる所ばかりを僕らは見がちですけど、その後ろには日を当てる人も居るし、光っている人の後ろには裏方が居る、支える人も居れば支えられる人も居る。「色々な人が居ていいんじゃないの」という寛容さだったりを、このお仕事を通して学ばせて頂いたのかもしれません。
どんな役にも誠実に向き合い、深く掘り下げ抜いた言葉で主人公の想いを紡ぐ波瑠さん、そして一見すると癖のある役を、どこまでもナチュラルに演じきる安田顕さん。映画は、ラブホテルに出入りする人だけでなく、従業員や更には雅代の両親の出会いからロマンスまで綴られていきます。ラブホテルという場所が、現代から過去へと誘うような映像も叙情的な『ホテルローヤル』。俳優たちの言葉では無い表現の共演も見事な作品です。
文 / 伊藤さとり
誰にも言えない秘密や孤独を抱えた人々が訪れる場所、ホテルローヤル。そんなホテルと共に人生を歩む雅代が見つめてきた、切ない人間模様と人生の哀歓。誰しもに訪れる人生の一瞬の煌めきを切り取り、観る者の心に温かな余韻と感動をもたらす。原作は累計発行部数100万部を超える桜木紫乃の直木賞受賞作。桜木の実家だったラブホテルを舞台にした七編の連作を、現代と過去を交錯させ一つの物語へ大胆に映像化した。メガホンをとるのは、『百円の恋』や『嘘八百』、昨年のNetflix国内視聴ランキング1位を獲得した「全裸監督」など精力的な活動を続ける武正晴。脚本は、連続テレビ小説「エール」を手がけた清水友佳子。主人公であるホテル経営者の一人娘の雅代には、映画やドラマで圧倒的な演技力と存在感を示す波瑠。
監督:武正晴
脚本:清水友佳子
原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫)
出演:波瑠、松山ケンイチ、安田顕ほか
配給:ファントム・フィルム
©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会
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