Sep 26, 2020 interview

仲野太賀が語る、自身が抱く演技論と映画『生きちゃった』での役作り

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――『生きちゃった』の後には、同じく主演作の『泣く子はいねぇが』(公開:2020年11月20日)が続きますね。二作品とも子供がいる男の心のかけ違いによる葛藤の物語でもありますね。仲野さんは苦悩する男を演じるのが上手いですが、精神的には辛くないですか。

辛いです。『生きちゃった』の撮影期間はクライマックスに向けて積み上げて来たものがあったので、その度にどうしても我慢できなくて“もうちょっとだけ溢れたい”とか“表現したい”って思ったシーンが何シーンかあったんです。その都度、監督に言いに行ったりもしたのですが“もう少し我慢して”って涙を抑えられて、その期間は辛かったです。涙を出してしまった方が絶対に楽なんです。でも監督は“楽をしないで欲しい”ってしきりに言っていて。何かに縛られた窮屈さみたいなものは、この映画を通してありました。

――泣く事を男の人は恥ずかしいことだと思っているのかもしれません。でも、この映画を観ると“何でそんなに泣く事を我慢するの”って思うんです。仲野さんがこの映画から感じられる“男の涙”ってどういうことだと思いますか。

悲しい出来事があった時にそのことを受け入れることなんじゃないかな。泣いてしまったらそれが全て現実になってしまう。何かが明るみに出てしまう。認めたくない何かがずっとあって、自分の気持ちを押し殺していた中で溢れ出てしまうもの。言い訳のつかない想いみたいなものだと思います。

――娘を失いたくないという思いが厚久にはありますが、仲野さんが失いたくないものはなんですか。

難しいですね、人との出会いかな。今までそういうものに助けられたことが多かったので、それを取られたら何もなくなっちゃうし。基本的には何も失いたくないです(笑)。人との出会い、仕事しかり、プライベートしかりです。

若き名バイプレイヤーという言葉が似合う仲野太賀さん。まだ27歳でありながら、フィルモグラフィーには錚々たる監督の名が並んでいます。誠実に役に向き合い、役を掴む力があり、物腰も低い人柄が、多くの監督が彼と仕事をしたがる理由な気がします。『生きちゃった』は、古い付き合いの石井裕也監督と濃密な時間の中で生み出した声にならない叫び。主人公山田厚久の感情が溢れ出した途端に、観客も涙が止まらなくなるのです。

文 / 写真・伊藤さとり

作品情報
生きちゃった

幼馴染の厚久と武田。そして奈津美。学生時代から3人はいつも一緒に過ごしてきた。そして、ふたりの男はひとりの女性を愛した。30歳になった今、厚久と奈津美は結婚し、5歳の娘がいる。ささやかな暮らし、それなりの生活。だがある日、厚久が会社を早退して家に帰ると、奈津美が見知らぬ男と肌を重ねていた。その日を境に厚久と奈津美、武田の歪んでいた関係が動き出す。そして待ち構えていたのは壮絶な運命だった。
映画『生きちゃった』は「All the Things We Never Said」という英語タイトルで、中国及び香港、台湾、マカオなど、世界各国の劇場で公開予定。アジアや海外、グローバル化する世界の中で日本や日本人を見据え、石井裕也は自分たちにしか描けない人間賛歌をスタッフ&キャストと共に目指した。こうして紡がれた破格のエモーショナルな熱量が、衝撃のラストで最高潮に達する。脚本・監督・プロデューサー:石井裕也
出演:仲野太賀、大島優子、若葉竜也 ほか
配給:フィルムランド
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10月3日(土)より、ユーロスペースにて公開

公式サイト:http://ikichatta.com/

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。 映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。 自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。 映画コメンテーターとしてCX「めざまし8」、TBSテレビ「ひるおび」での レギュラー映画解説をはじめ、TVやラジオ、WEB番組で映画紹介枠に解説 で呼ばれることも多々。 雑誌やWEBで映画評論、パンフレット寄稿、映画賞審査員、 女性監督にスポットを当てる映画賞の立ち上げもおこなっている。 著書「2分で距離を縮める魔法の話術」(ワニブックス)。 2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」 (KADOKAWA)が発売 。
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net