Sep 21, 2020 interview

伊藤沙莉が語る『蒲田前奏曲』のテーマである“女優と女であること”

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―― この映画にはそう言った疑問も描かれていますね。

辛い、苦しいは確実につきものの映画です。

―― 俳優、蒲田マチ子さんを軸にして、それぞれの物語で女の生き様や、映画作りを見せていきますが、伊藤沙莉さんは9歳から役者人生を歩まれていますが辞めたいと思ったことはありますか?

年齢の半分以上の芸歴になりました。辞めたいと思ったことはないですけれど、露骨な人の目線に“この世界、向いてないんだろうな”って思う瞬間はたくさんありました。視界に入れてもらえなかったり、お芝居だけで悩みたいのに、それ以外のことで悩まされるのは好きではないので。それこそ女性問題とかもそうですが、実際は男の人も同じような悩みがあるかもしれないですが、“本当に今、この悩みいらない”って思う瞬間が、現場に入っている時にあったりすると、凄く不親切だと思って最初は相手にキレてしまうんです。

けれど、徐々に“そういう世界であって、私が馴染めないだけなんだ”と気付き、“辞めようかな”って思ったりしたことはあります。皆、同じことをしていても、何故か代表で、私が一番怒られるタイプなんですよ(笑)最初は笑っていられるけれど、段々、芝居で悩んでくると一杯一杯になって、対応出来なくなって、もう無理って感じになった時はあります。

―― それでも、ずっと続けられていますよね。

ここまで来た以上、視界に入らないと辞められなくなっちゃった感じです。視界に入らないままフェイドアウトして“居たっけ?”って思われるくらいなら、一回ガッツリ入って辞めたいって(笑)良い印象だろうが、悪い印象だろうが、何かしら残したい、“今に見ていろ”と常に思っています。

―― 素敵ですね。女性だから嫌な思いをしたり、だけど、女性だから得したかも?と思うこともあり、伊藤沙莉さんはそんなことを感じたことはありますか?

この前、男の子の役者仲間と話した時に、“女の子の複雑な絡み合い、蹴落とし合い、そういうドロドロな感じは、男の友情物語には無いから羨ましい”って言われたんです。私は渋川清彦さんが演じられるようなビーチサンダルを履いて、フラフラ歩いているような役を演じたいと思うけれど、女性だとなかなか難しい。でも逆を考えると、振り幅的には、女性の方が多いのかなって思うんです。

常に演じているというところも、女性の方が強いと思います、色々な顔があったり、したたかだったり、そういう微妙なラインの演じ分けだったり、女性ならではの目配せ大会とか、一人のメイク道具を皆で使い回すような、女性特有の描写などを演じられるのも、女で良かったと思う瞬間です。

―― 『ペット2』「映像研には手を出すな!」『小さなバイキング ビッケ』といった声のお仕事もしていますが、声の仕事ではジェンダーも年齢も飛び越えられますよね。

確かに声のお仕事では、男性の声も出来るし、声は年齢も性別も飛び越えられますね。ある一方では見方的に女性は窮屈なように見られがちですが、むしろ奔放にも生きられるからそれはそれで楽しいよねって思ったり。喧嘩って、女の喧嘩の方が面白くないですか?それを表現出来るのが楽しいです。

―― 女性の俳優友達で演技の話とかされるんですか?

たまにですね。演技で泣けなかった日に、松岡(茉優)に即効メールで愚痴って“そんな日もある”って返事をもらって元に戻る。それはよくやっていました(笑)照れ臭いので芝居論は話しませんが、出来なかったことの反省点とかは話し合ったりします。同世代だからこそ出来る話です。

―― 今年は『ホテルローヤル』も11月13日に公開されますね。武正晴監督とはドラマ「全裸監督」から引き続きになるわけですが。

そうです。「全裸」『ホテルローヤル』「全裸2」です(笑)武監督は凄く優しくて大好きです。作品はパンチの効いたものを撮られるんです。『ホテルローヤル』は、時代を経て一つの部屋の話なので、ちょっと昭和っぽいというか、レトロっぽく撮られているんです。一つの部屋を訪れる色々な客の話で、そこが全部繋がるので、懐かしさと切なさがあります。

田舎ならではの感じもするし、閉鎖感もあります。私も多分、人生最後の制服姿を見せているので注目して欲しいです(笑)あと武監督に“太れ、太れ”と言われたのでムチムチした感じで演じました。 

―― 今後、どんなアプローチをする俳優さんになっていきたいか教えて下さい。

これまで俳優業をやってきた深みというか奥行きを、もう少し出せていけたらいいなと思います。一人の人の人生を代弁させて頂くのであれば、表面ではなく、その人の3Dの見せ方をしたいなと。それは飯塚健監督にも言われたことで、常に意識はしていたのですが、そこに一個また奥行きが出ると深みが増すんじゃないかと。

帆奈を演じる時も、この短い間に帆奈は何に葛藤して、何にモヤモヤしているのかとか。本当は弱くて、そこまで強い人ではない部分って、共感できる人にしか伝わらない場合もあるし。特に男性が映画を観て、帆奈に寄り添って理解してもらえるかを考えた時に、ただのキャリアウーマンではない姿を短い時間の中で、表情や仕草で伝えられるような深みというか、アプローチがもっと出来たのではないかと今は思っています。短い時間の中で一人の人間を観客に分かってもらえる奥行き。見せなくても自分の中で作り上げることの必要性を感じました。

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“どうしても女性の俳優の演技に目が奪われてしまう”何故なんだろう?と思っていた矢先に、伊藤沙莉さんとのインタビューでなんとなく答えが見えた気がしました。複雑な感情を持ち合わせているから、ついつい共感してしまうから、女性の行動を目で追ってしまうということ。だからこそ『蒲田前奏曲』の「呑川ラプソディ」は、学校という場で出会い、社会人になって生き方も考え方も違っていった女友達それぞれの人生観が垣間見られ、過去の自分や自分の友人を投影してしまったのかもしれない。女って、面倒くさいけれど面白くて愛おしい生き物ですよ。

文 / 写真・伊藤さとり


スタイリスト:小宮山芽以
ヘアメイク:藤原玲子
衣装協力:那由多
取材場所:リョーザンパーク

作品情報
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蒲田前奏曲

売れない女優マチ子の眼差しを通して、“女”であること、“女優”であることで、女性が人格をうまく使い分けることが求められる社会への皮肉を、周囲の人々との交わりを介在しながら描いていく。4人の監督が各自の手法でコミカルに描き、1つの連作長編として仕上げていった新しいタイプの作品です。
第1番「蒲田哀歌」 監督・脚本:中川龍太郎 / 出演:古川琴音、須藤蓮、松林うらら

第2番「呑川ラプソディ」監督・脚本:穐山茉由 / 出演 : 伊藤沙莉、福田麻由子、川添野愛、和田光沙、松林うらら、葉月あさひ、山本剛史

第3番「行き止まりの人々」監督・脚本:安川有果 / 出演 : 瀧内公美、大西信満、松林うらら、吉村界人、二ノ宮隆太郎、近藤芳正

第4番「シーカランスどこへ行く」監督・脚本:渡辺紘文(大田原愚豚舎) / 出演 : 久次璃子 渡辺紘文

配給: 和エンタテインメント、MOTION GALLRY STUDIO
© 『蒲田前奏曲』︎ 2020 Kamata Prelude Film Partners

9月25日(金) よりヒューマントラストシネマ渋谷・キネカ大森他にて全国順次公開

公式サイト:https://www.kamataprelude.com/

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net

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