Dec 17, 2025 interview

ジェームズ・キャメロン監督インタビュー『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』人類と闘うエイリアンを応援するカタルシス

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「正義の戦い」はありえるのか?

本作でジェイクの前に立ちはだかるのは、彼を裏切り者とみなすクオリッチ大佐だけではない。火山の噴火により故郷と仲間を失ったアッシュ族のリーダー・ヴァランは、ナヴィにとっての“神”である精霊エイワを否定し、怒りと憎しみに突き動かされている。クオリッチ以外の人類軍も、パンドラの天然資源から利益を得るために再び動き出す。

それぞれの正義のため、あるいは利益のために、各陣営はときに手を組み、ときに真っ向から武力で激突する。なぜ、人々は暴力に与するのか。なぜ、望まない戦争が始まってしまうのか。

「この映画は平和主義を描いています。ただし、単純な答えを与えることはしていません」とキャメロンは強調する。

「トゥルクン(※クジラのような海洋生物)は完全な平和主義者で、どんな理由であれ、戦ったり殺したりすることは許されないと考えています。その一方、この惑星を破壊しよう、トゥルクンを皆殺しにしようと考えている敵は、目的を果たすために大勢のナヴィをも殺すでしょう。さらに、すべての命を軽視している人々もいる。

そのなかで、ジェイク・サリーは中立的かつ暴力を望まない人物です。仲間が殺される、子どもさえ殺されかねない全面戦争を始めるつもりはなく、なんとか阻止したいと考えている。それでも、誰もが信念のために、自らのコミュニティと仲間のために戦わなければならないという現実に直面しなければならなくなる――これは極限の倫理的判断であり、我々人間が常に問うていることでもあります。

いつ立場を明確にすべきなのか、すべての暴力と殺戮は必ず間違いなのか。大切なものを守るための、いわゆる“正義の戦い”はありえるのか。そうだとしたら、勇気を振り絞って戦わねばならないのか。こうした人類史を貫く問いに、たった一本の映画で答えられるとは思いません」

『アバター』暴力描写の残酷さ

キャメロンは『アバター』シリーズを、一貫してある種の戦争映画として作り上げてきた。ナヴィも人間も、命を落とす瞬間は痛ましく、ときに残酷だ。とりわけ人間がスクリーンのなかで死ぬとき、彼らは大量の海水に呑み込まれたり、機械や構造物の間に挟まれたり、(直接は描写されずとも)身体の一部を欠損する。

ただし、キャメロンは本作について「アクションは少ないですし、残酷なシーンも一切ありません」と強調する。レーティング審査のために全シーンを厳密にチェックし、時には過去作を参照しながら「シリーズのトーンが一貫しているかを確認している」というのだ。

それでも映画を観ると、命が奪われる瞬間には確かな重みがある。キャメロンにその狙いを尋ねると、わずかに考えてから、「私たちは結局、人間の観客に人間が殺される様子を見せながら、異星人を応援させているわけです」と口にした。

「ナヴィが象徴しているのは、我々の善性や尊敬できる部分。かたや、人間のキャラクターが象徴するのは貪欲さや攻撃性、植民地主義といった悪しき価値体系です。人間はパンドラの天然資源を破壊し、トゥルクンを容赦なく殺す──だからこそ観客は、自分たちと同じ人類の敗北を願う。それが“映画”というメディアの凄みだと思います」

そして、「人間のキャラクターがひどい死に方をするほど、観客の反応は熱狂的になるんです」と明かした。

「映画は観客をキャラクターの内面に誘い、普段ならばありえない視点を体験させることができます。人間を悪く描いているからこそ、(人間が残酷に死ぬと)観客の反応は大きくなる。より良い価値体系だと思える側に味方をすること自体、観客にとってはカタルシスになるのです」

物語のレベルで戦争や暴力の倫理を問いつつ、映像では暴力の残酷さとエンターテインメント性を両立させる──これこそが『アバター』シリーズを貫くキャメロンの暴力観であり、危うさをもはらんだバランス感覚なのだろう。

シリーズは全5部作構想、いよいよ物語は折り返しを迎えた。では、第4作はどんな物語になるのか? もっとも本作を完成させて間もない今、キャメロンは次回作の構想を語ろうとはしていない。「今の私は無職だから」と笑いつつ、「あとの2本も3Dで撮りますよ」とだけ答えてくれた。

取材・文 / 稲垣貴俊

作品情報
映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』

舞台は、神秘の星パンドラ──地球滅亡の危機に瀕した人類はこの星への侵略を開始。アバターとして潜入した元海兵隊員のジェイクは、パンドラの先住民ナヴィの女性ネイティリと家族を築き、人類と戦う決意をする。しかし、同じナヴィでありながら、パンドラの支配を目論むアッシュ族のヴァランは、人類と手を組み復讐を果たそうとしていた。パンドラの知られざる真実が明らかになる時、かつてない衝撃の”炎の決戦”が始まる!

監督:ジェームズ・キャメロン

出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、ブリテン・ダルトン、トリニティー・ジョリー・ブリス、シガニー・ウィーバー、ジャック・チャンピオン、ケイト・ウィンスレット、ウーナ・チャップリン、スティーヴン・ラング

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

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2025年12月19日(金) 日米同時公開

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