Aug 25, 2022 interview

『アキラとあきら』池井戸潤×三木孝浩監督 対談:今を生きる若者に「勧善懲悪」を超えるカタルシスを

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自分の人生では、誰もが主人公。その集合体としての物語を多面的に

池井戸 時代が変わると銀行の業務やそれに関わる法律が変わったりもするんですが、銀行監修をしっかり入れていただいて、齟齬や違和感のない作りになっていました。書いていたときから僕が好きだった冒頭の新入行員研修のシーンにも、リアルな迫力があって。

三木 ビジネス用語を駆使してのやり取りは大変でしたが、山崎瑛を演じた竹内涼真くん、階堂彬を演じた横浜流星くんをはじめ、皆さんが監修の方のレクチャーを受けて頑張ってくれました。

池井戸 2人を輝かせる撮り方は、さすがですね。竹内さんの山崎は素直で直線的。横浜さんの階堂は皮肉っぽいけど頭がよくて、思っていることとやっていることがバラバラなのも自覚している複雑さがあった、それぞれの表情が魅力的でした。

三木 大企業の創業家の御曹司である流星くんには、生まれながらの品の良さを感じさせてほしかったので、立ち座りの際のスーツのボタンの開閉といったちょっとした所作にも気をつけてもらいました。目指すイメージとしては、ロバート・ダウニー・Jrのスーツの着こなし感。

池井戸 おお。

三木 彼は感情を自分の内側から揺らしていく、どちらかというと女優さんによく見られる繊細なアプローチをする役者さんで、そこが魅力。対して、竹内くんは真っ直ぐにぶつかっていく、山崎そのものの人です。僕はかつて彼らの主演作をそれぞれ撮ったことがあったので、今回はそのタッグにも期待していました。タイプの違う俳優同士がスキルを高めてぶつかり合う、そのケミストリー(=化学反応)を存分に楽しませてもらいましたね。

池井戸 あと、作家として主人公以上に書いていて楽しいのが、敵役です。この作品でいうと、階堂の叔父である晋(ユースケ・サンタマリア)と崇(児嶋一哉)が僕のお気に入り。今回のお二人も本当に憎たらしくて(笑)スキのない奮闘ぶりが見事でした。

三木 ハハハ。このお二人もタイプが異なっていて、意外と俳優然とした振る舞いで集中している児嶋さんに対して、ユースケさんは本番が始まる直前までふざけて周囲を笑わせていました。でもやっぱり、池井戸さんの書かれるキャラクターひとりひとりが単なる物語の部品になっておらず、それぞれにきちんと生きざまが書かれているから、役としても演じがいがあるんでしょうね。

池井戸 僕の作品には、1作品ごとにだいたい50人から70人くらいの人物が登場しますが、要するに、それだけの数の人生が、書かれた期間で区切られ束ねられている状態が小説である、という発想なんです。主役脇役の違いはあっても、全員がその人の人生の時間を生きているわけだから、ダメな叔父たちであっても、彼らにはそうならざるを得ない理由があるし、思いがあるんですよね。

三木 そのダメっぷりが、実にいい。山崎の厳しい上司である不動(江口洋介)も、主人公たちにとっては超えるべき壁かもしれませんが、不動と同世代の方々には主人公にもなりうるキャラクターにしたいと思っていました。ユースケさん、児嶋さん同様、江口さんにはそういう深みを発揮していただけたと思っています。