“サイタマノラッパー”はこれからどうなる!?
──『22年目の告白』でキーパーソンを演じたのは若手俳優の野村周平。深夜ドラマ「SRサイタマノラッパー~−マイクの細道~」にもゲスト出演していました。6月23日(金)に最終回を迎える同ドラマの見どころもお願いします。
野村くんには、僕がメジャーで初めて撮った『日々ロック』(14年)以降、けっこう出てもらっています。コメディタッチの『−マイクの細道』ですが、シリーズ後半には『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12年)に出てきた凶悪ヒップホップグループ「極悪鳥」が再び登場し、サスペンスっぽい展開になっていきます。そういう点では、「SRサイタマノラッパー~−マイクの細道~」の後半は『22年目の告白-私が殺人犯です-』に少しだけ似てくるかもしれません。でも、僕のことを知らない人は「SRサイタマノラッパー~−マイクの細道~」と『22年目の告白-私が殺人犯です-』が同じ監督だとは気づかないでしょう(笑)。
──メジャー系の作品とインディペンデント系の作品とで、演出スタイルの違いはありますか?
僕としては、メジャーだからインディーズだからということで演出スタイルを変えることはないですね。自分が撮りたいと思った題材に、いちばん適した演出方法を選ぶということなんです。「いろんなジャンルの作品を撮りますね」と訊かれることも多いんですが、「サイタマノラッパー」は自分自身の身近なテーマを扱っていますし、ミステリーやサスペンスものは小学生くらいからずっと読み親しんできたジャンルなので、どちらも自分の中では違和感はまるでないんです。
──「SRサイタマノラッパー~−マイクの細道~」のクライマックスの撮影を兼ねたクラブチッタでのライブステージは大変な盛り上がりだったそうですね。“サイタマノラッパー”の今後はどうなるんでしょうか?
クラブチッタでのライブはとても盛り上がりました。ライムスターをはじめとする出演してくれたアーティストのみなさんからも「いいライブだった」という言葉をもらえました。自主映画として僕が『SRサイタマノラッパー』(09年)を撮り始めたのが丁度10年前で、すごくいい形で区切りをつけることができたと思います。“サイタマノラッパー”が今後どうなるかは、僕にも予想がつきません。「SRサイタマノラッパー~−マイクの細道~」を見てくれた方たちの反響次第でしょうね。SHO-GUNGを演じた駒木根隆介、水澤紳吾、奥野瑛太の3人もいろんな役に挑戦するようになってきましたし。それと、問題なのはライムスター宇多丸さんから「IKKUはラップがうまくなり過ぎ」と指摘されたことです。IKKUは冴えないラッパーなのに、10年間ラップを続けたことで上達してしまい、シリーズを今後続けるのが難しいですね(笑)。
──最後の質問です。入江監督が地元・埼玉で過ごしていた頃に愛読していた本を教えてください。
ミステリーもの、探偵ものが好きでした。中でもいちばん思い出に残っているのは中学生の頃に読んだシャーロック・ホームズ全集。ホームズの冒険はずっと続くんだろうと思っていたのに、『ホームズ最後の事件』で死んでしまったのには驚きました。今の若い子たちが読んでいる『名探偵コナン』のコナンがいきなり死んじゃうようなものですよね。自分でもミステリー小説を書いてみたいなとその頃は思っていました。映画を撮るようになってからも、ミステリーものをやりたいと思っていたんですが、やはり本格的な作品を撮るにはある程度の予算が必要だし、俳優たちの力量も重要になってくる。今回、藤原竜也さん、伊藤英明さんたちに出てもらって『22年目の告白-私が殺人犯です-』を撮れてよかった。探偵ものもいつか撮ってみたいですね。
取材・文/長野辰次
撮影/吉井明
入江悠(いりえ・ゆう)
1979年神奈川県生まれ、埼玉県育ち。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。『SRサイタマノラッパー』(09年)が「ゆうばりファンタスティック映画祭2009」のオフシアター部門でグランプリを受賞し、劇場版三部作が「北関東三部作」として熱狂的な支持を集める。『日々ロック』(14年)でメジャーデビューを果たし、『ジョーカー・ゲーム』(15年)『太陽』(16年)深夜ドラマ「みんな!エスパーだよ!」(テレビ東京)、連続時代劇『ふたがしら』(WOWOW)など多彩な作品を発表している。公開待機作として埼玉を舞台に大森南朋、鈴木浩之、桐谷健太が兄弟を演じた『ビジランテ』がある。
警察、被害者遺族のみならず、マスメディアやSNSを巻き込んだ“劇場型犯罪”を題材にしたクライムサスペンス。ベースとなっているのは韓国映画『殺人犯の告白』(12年)だが、日本を舞台に移し替えた『22年目の告白』は時代設定や真犯人が異なる独自色の強いものとなっている。時効成立後に犯行の内容を詳細に記した告白本を出版した曾根崎(藤原竜也)、曾根崎を追う刑事(伊藤英明)、真犯人を名乗る男がテレビ局のスタジオに集まるディベートシーンは、インディーズ映画『SRサイタマノラッパー』(09年)でブレイクした入江悠監督得意の手持ちカメラによる長回しでの撮影となっており、緊張感溢れる場面となっている。謎解きのヒントがところどころに散りばめてあるので、登場キャラクターたちの何気ない仕草や小道具もチェックされたし!
『22年目の告白-私が殺人犯です-』
監督:入江悠
脚本:平田研也 入江悠
出演:藤原竜也 伊藤英明 夏帆 野村周平 石橋杏奈 竜星涼 早乙女太一 平田満 岩松了 岩城滉一 /仲村トオル
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
2017年6月10日(土)より全国ロードショー
(c)2017映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
公式サイト:www.22-kokuhaku.jp
『22年目の告白 私が殺人犯です』浜口倫太郎/講談社
劇中に出てくる曾根崎の告白本『私が殺人犯です』とそっくりな装丁となっているのが単行本『22年目の告白 私が殺人犯です』だ。中身は単純なノベライズとは異なり、告白本をプロデュースすることになる編集者・川北未南子の視点から物語が構築されている。曾根崎が未南子を相手に殺人を重ねた動機を語る小説版ならではのエピソードもあり、また結末も映画とは異なるものとなっている。
-入江悠監督の愛読書
『シャーロック・ホームズの思い出』コナン・ドイル(著)、延原謙(訳)/新潮文庫
入江監督が印象に残るエピソードとして挙げている『ホームズ最後の事件』は短編集『シャーロック・ホームズの思い出』の最後の一編。名探偵ホームズと“悪の天才”モリアーティ教授との対決を描き、ロンドンからスイスへと戦いの舞台を移動しながら、ファンを驚かせる衝撃的な結末を用意している。それまでにもアヘン窟にたむろったり、コカイン注射するなどヒーローらしからぬ意外な一面を見せていたホームズだが、『最後の事件』では常に破滅願望を漂わせており、深い心の闇を感じさせる。そんな複雑な内面も、時代を越えてホームズが愛され続ける要因のひとつだろう。