19年の歴史の終わりを飾る名作エピソード
『X-MEN』フランチャイズは19年の間、『ウルヴァリン』シリーズと『デッドプール』2部作というスピンオフも含めれば12本もの作品を世に送り出してきた。『X-MEN』から『X-MEN2』(03年)を経て『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06年)で完結したオリジナルシリーズ。その後、時系列を巻き戻してミュータントヒーローチームの結成秘話を描いた『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年)から新シリーズが始まったかと思えば、その続編『X-MEN:フューチャー&パスト』(14年)ではまさかの新旧シリーズキャストが揃い踏み、物語の集大成ともいうべき一大エピソードが語られた。
これを踏まえて、新キャストのその後を描いた『X-MEN:アポカリプス』(16年)。今回満を持して公開される『X-MEN:ダーク・フェニックス』はその直接の続編であり、シリーズの掉尾を飾る作品となる。最新作の話にたどり着くまでがえらく長くて申し訳ないけれども、これは何ぶん19年も続いた大河シリーズなので、前置きが長くなるのは仕方ないことなのである。
1980年に発表された原作コミック『ダークフェニックス・サーガ』を、今回の映画は下敷きにしている。X-MENの創立メンバーにして最強のミュータントと謳われたテレパス、ジーン・グレイが宇宙生命体フェニックス・フォースに魅入られて宇宙で合体。(映画版『ファースト・ジェネレーション』にも登場した)ミュータントの秘密結社、ヘルファイアー・クラブの陰謀により、彼女はすべてを破壊し尽くす未曾有のパワーにいずれ身体と意識を乗っ取られ、破壊の権化ダーク・フェニックスとして覚醒する。
暴走を続けるジーン=ダーク・フェニックスはいずれ狭い地球を飛び出し、ついには超新星爆発を引き起こしてある惑星をその住民もろとも滅亡させるという、宇宙規模の大惨事へと発展。かつて仲間として、家族として彼女と共闘したX-MENはその処遇について、(映画版『キャプテン・マーベル』への登場も記憶に新しい)クリー帝国やスクラル帝国といった宇宙列強種族からも詰められることになってしまう。地球人の起こした災厄は、地球人の手で収束させなければならない。ジーンを実の娘のように想ってきたプロフェッサーX、そして誰よりも彼女を愛するX-MENのリーダー、サイクロップス。彼らはそれぞれに苦渋の決断を迫られることになる…。
クリス・クレアモント(原作)とジョン・バーン(原作・作画)という、アメコミ界では押すに押されぬ大御所2人が手掛けた同エピソード。アメリカのスーパーヒーローコミックを振り返る上では欠かすことのできない名作だ。この物語は、かつて映画版旧シリーズ『ファイナル・ディシジョン』ですでに取り上げられてはいる。だが図らずも身につけたあまりに強大な力をどう制御するか(または制御できずに自滅するのか)というテーマは、突然変異で生まれた新人類がその超能力を何のために使うのか、という究極の問いかけでもある。これは映画フランチャイズの最後でもう一度あえて語り直すに足る、極めて重要な物語なのだ。という原作の基本的なストーリーを踏襲しつつ、実写版最新作は独自のアレンジを加えてもいる。
今回の作品ではX-MENチームがシリーズで初めての地球外ミッションに挑み、その結果としてジーンが謎の能力を手に入れてしまう。原作ではここから宇宙規模のスケールで物語が展開するが、映画はもう少し地に足のついたストーリー運びを見せる。人類とミュータントの平和共存を目指して長らくチームを率いてきたプロフェッサーXの知られざる過去。『ファースト・ジェネレーション』から重要キャラクターとして頭角を現してきたミスティーク(ジェニファー・ローレンス)と、このプロフェッサーXとの間に生まれる軋轢。一度は完全に人類と敵対しながら、『アポカリプス』を経て自らの生きる道を見つけたマグニートー。それぞれのドラマが最強のミュータント、ダーク・フェニックスを巡って交錯する。