Dec 08, 2023 column

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』 新たなチョコレート革命は、ティモシー・シャラメのまなざしからはじまる

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ミニチュアの想像力

ウォンカのスーツケースがチョコレート製造のキッチンになっているところが面白い。ウェス・アンダーソンと同じように、ポール・キングはミニチュアの想像力を駆使している。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』には、『月世界旅行』(1902)を手掛けたジョルジュ・メリエス監督の作品のような映画創成期の想像力に満ちている。ありえたかもしれない未来、懐かしい未来が美術として表現されているといえばよいだろうか。そしてノスタルジーもまた、本作の重要なテーマだ。思い出のプライベートフィルムのように、あるいはパラパラ漫画のようにめくられるセピア色の母親とのエピソードが素晴らしい。ティム・バートンが『チャーリーとチョコレート工場』を、ウォンカと父親の物語として結んでいたことに敬意を表すように、ポール・キングは本作でウォンカと母親の物語、ウォンカの心の中で生き続ける母親のイメージを紡いでいる。ウォンカの持つアンドロジナス性が既にヌードルの母親代わりとなっているともいえるが、ウォンカとヌードルはお互いを鏡として、二重の物語を映すような関係にある。『ボーンズ アンド オール』(2022)におけるカニバリズムの恋人たちを思い出してもいいように、こういった役柄は相手を輝かせる利他的なティモシー・シャラメの演技とすごく相性がよい。ウォンカはただひたすらに夢を与える人ではなく、ヌードルとの出会いを介してもう一つの夢があることを教えられる。自分でも気づかない間に。子供のような大人と大人のような子供。年齢を超えた2人の相互作用が本作をより感動的な物語にしている。

ウォンカとウンパルンパ(ヒュー・グラント)との間に生まれるケミストリーも素晴らしい。本作のウンパルンパは『夢のチョコレート工場』のウンパルンパの造形を忠実に模している。ウンパルンパは若きウォンカの愉快な宿敵として登場する。チョコレート工場でウォンカの部下のように働くウンパルンパではない。『パディントン2』で俳優という名の詐欺師を演じたときと同じく、ウンパルンパを演じるヒュー・グラントには、キャラクターに生命を吹き込むことの楽しさが溢れている。そしてウォンカとウンパルンパを対等の関係にすることは、制作チームにとって大きな目的だったことが伝わってくる。

胸をときめかせる。別れを悲しむ。楽しくて思わず踊りだしたくなる。二度と会えなくなってしまった人を思い出す。ウォンカの魔法のチョコレートには人生の様々な悲喜が詰まっている。ヌードルは生まれて初めてチョコレートを口にする。少女はチョコレートを食べることができる幸せな毎日を思い描くと同時に、チョコレートのない世界を想像して、その辛さに耐えられなくなる。チョコレートという言葉をイマジネーション、魔法と言い換えてもいいだろう。「ピュアなイマジネーションとは、ピュアな魔法のことだ」。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、人生の悲喜を分かち合い、すべてをチョコレートの甘さで包み込んでくれる魔法のような傑作だ。ウォンカのまなざしに涙せずにはいられない。誰かの幸せを喜んでいるのに寂しさでいっぱいになっている、その美しいまなざし。ウォンカ=ティモシー・シャラメの瞳の奥から、新たなチョコレート革命が始まろうとしている!

文 / 宮代大嗣

作品情報
映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり

若きウィリー・ウォンカはいかにして世界一のチョコレート工場をつくったのか。ジョニー・デップ主演で世界的ヒットを記録した名作『チャーリーとチョコレート工場』の“夢のはじまり”が今、明かされる。「ハリー・ポッター」シリーズのプロデューサーが、ティモシー・シャラメ、ヒュー・グラントら豪華キャストを迎えて贈る、歌と魔法と感動が詰まった心躍るファンタジー超大作。

監督・脚本:ポール・キング

原案:ロアルド・ダール

出演:ティモシー・シャラメ、ヒュー・グラント、オリヴィア・コールマン、サリー・ホーキンス、ローワン・アトキンソン

配給:ワーナー・ブラザース映画

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公式サイト wonka-chocolate